発火点

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■真保裕一    講談社文庫  2005      (初版:講談社  2002)   

『連鎖』で江戸川乱歩賞、『ホワイトアウト』で吉川英治文学新人賞と、人気のある作品が盛りだくさんの真保裕一。 数々の作品の中では、『繋がれた明日』『黄金の島』『朽ちた樹々の枝の下で』と、この作品が好きです。
12歳の夏、父の友人だった人が父を殺害。「なぜ、父が殺されたのか」がわからないまま、犯罪被害者として好奇の目の中で人生を歩み、怒りと苛立ちの中で 生きてきた主人 公・敦也は、捨て去った故郷・伊豆の港町に再び戻り、人生を変えた事件の真相を知ろうと訪ね歩きます。
この作品の中で気に入って いるのは、捨て去った 故郷を訪ね歩き、思い出したくない過去の眠る町で海を見るにつけ、そこで海が好きだった自分を懐かしく思い出し、「海の幸を人に勧められる仕事ができたら 素 晴らしいな」と、敦也が再生の一歩をふみだしていくシーンです。物語の中で、「事実と真実は時に結びつかず、いくつもの真実が人の心に存在 する」という言葉が出てきます。心の発火点をたどっていくと、それぞれの人の心の中にある真実。怒りの中で生きてきた敦也が自らの原点を広い海に見出した のは、いろい ろな生き方を受け止め、そして好きになりたいという気持ちだったのかもしれません。なかなか難しい物語なので、いろんな読み方ができる作品だと思います。

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