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■野沢 尚 講談社 2000
吉川英治文学新人賞受賞作品。1997年に『破線のマリス』で江戸川乱歩賞を受賞し、テレビドラマの脚本家として
数々のヒット作を生み出しながらも、2004年に命を絶った故・野沢尚。「破滅」を描いた作品、「再生」を描いた作品の双方を数多く生み出していますが、
『深紅』は破滅の真っ只中での再生の物語として大好きな一作です。
物語は主人公・奏子が小学校の修学旅行先から四時間の道のりをタクシーで呼び戻されるシーンから始まります。一家惨殺事件の生き残りの長女。惨殺された家
族のもとに帰るまでの長い四時間。その後、奏子の心的外傷ストレスは、度々襲われる「四時間」の空白として深い苦しみとして残っていきます。一方、一家惨
殺事件の加害者の娘・美歩。美歩は、死刑囚の娘としての人生を歩んでいきます。惨殺事件の生き残りとなる奏子の悲哀に始まる第一章、惨殺事件の背景を語る
裁判の第二章に続き、物語は8年後の奏子の大学生時代へとすすんでいきます。そして、美歩の存在を知り、素性を明かすことなく、美歩に近づく奏子。これ
は、強い憎しみを抱いて出会った美歩との交流を通じて、奏子が奏子なりに再生を果たしていくまでの心理劇を見事に描いた作品です。
与えられた立場の中で生き方を模索する少女たち。惨殺事件の悲哀を象徴する深紅の色で始まり、物語の後半には象徴として表現される色が変わってくるという
形で奏子の心理がえがかれています。
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