2/2(にぶんのに)

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中島みゆき    幻冬社  1996

偉大なシンガーソングライターで愉快なMCでもある中島みゆきの長編小説第一作目です。持っているのは発売されてすぐに買ったハードカバーですが、確か既 に文庫落ちして幻冬社文庫からも出ているはずです。
さて、「電車の中では読んではいけない本」というと、リリー・フランキーの『東京タワー』はまちがいありませんが、この本もそうかもしれません。初めてこ の『2/2』を読んだのは新幹線の中でしたが、圧倒されるクライマックスにウルウル、ぐじゅぐじゅになった覚えがありますから・・・。いやはや。
物語は、双子の姉妹として産まれるはずだった茉莉と莉花。その妹・莉花が、
幼い頃にたまたま耳にした言葉から、産まれてすぐに亡くなってしまった姉・茉莉の死を自分のせいと信じ、それをトラウ マに二重人格の大人になってしまったというお話です。そして、愛する人を傷つけるかもしれない自分を怖れ、一人旅に出てしまった莉花。ついには絶体絶命の ピンチに陥りますが、その時、現れたのは、なんと・・・。
トラウマについては、人間の脳が本来、もつ防衛本能として、
同じ目に遭うことを必死に避けようとするがゆえに、トラウマとなる出来事の記憶を事実とは異なる最悪なものへ最悪なものへと変えていっ てしまう特性があるという話を聞いたことがあります。さまざまな小説の中には、このトラウマから逃れ切れない悲哀が綴られたものが多くみられます。でも、 真保裕一などがそうだと思いますが、トラウマを乗り越えていく姿を書ききっているものも決して少なくありません。昔、読んだ矢島正雄の『人間交差点』の中 で、「悲しいものを書くなら誰にだって書ける。それは自分の為に書いているんだ。・・・(中略)・・・・皆、苦しんでいるんです。生きるって悲しいです、 寂しいですよ。あなただけじゃないんだ。自分はひとつ悲しみを乗り越えられた。うん、これなら人に話してやれる。元気だしなさいよって言ってやれる。それ で初めて人に見てもらえる舞台の幕が開くんです」と、ベテランの喜劇役者が話すシーンがあります。
トラウマを乗り越えるために信じるべきことを教えてくれる小説、この『2/2』もそうですが、そういう力をもつ物語はやっぱりすごいです。

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