かけがいのない苦しみ

英語版に戻る.

リジューの聖テレジアの信仰

1. 小さな道とは

リジューの聖テレジアは15才で戒律の厳しい洗足カルメル会修道院に入り、 24才で亡くなるまで修道院で過ごされました。彼女の残された手紙や 自叙伝等を読み返しますと、その教えは、修道院生活を送る者だけではなく、 私たちにも当てはまると思います。それは決して簡単な道ではありませんが、 私たちの生活の中で歩むことが出来る教えであり、キリストの 用意された道そのものだと思います。その道は彼女の死後、 「小さな道」 と呼ばれるようになります。私たちがキリストを愛し、その愛の 証によって人々の霊魂が救われる道になると言われます。従って、その道は 私たちの幸せや健康、財産や栄誉等、ましてや、自分自身の魂の救いのために 歩む道ではなく、人々の霊魂の救いのために歩む道となります。


リジューの聖テレジアは、私たちが「小さな道」を歩むならば、 人間の本性である自我を、キリストの愛の力で少しずつ消滅させ、次第に キリストの愛で私たちの心が満たされる様になると言われます。自我とは 人間が本来与えられている自由意志によって、自分の考えに基づいて 物事を判断し、行動することです。自分の考えで判断しますから、基本的に 自分中心の生き方になります。             

他方、主キリストは私たちがキリストのみ旨に従って生きる道を示します。 従って、私たちの自由意思は、私たちの自我に従って生きるか、キリストの み心に従って生きるかの選択をすることが求められます。もしも、キリストの み旨に従って生きようとするのであれば、キリストのみ旨に 無条件の信頼を 寄せる必要があります。キリストへの無条件の信頼を示すことが、私たちのキリストに 捧げる愛となります。この愛を キリストが受け取り聖化 され、人々の魂の救いのためにお使いになられるとリジューの聖テレジアは言われます。

            

キリストがこの世に来られたのは人々の霊魂の救いのためです。リジューの 聖テレジアは人々の霊魂の救いのために、キリストは私たちのキリストへの愛を 必要とされると言われるのです。私たちの愛によって、人々の霊魂を 救われるのだと言われます。私たちのキリストへの愛がなければ、キリストは 何もされない とまで言われます。 キリストへ捧げる弱い無力な私たちの愛こそがこの世を救う力となると言われます。

            

「小さな道」を歩むために、リジューの聖テレジアは私たちが毎日の生活の 中で遭遇する苦しみ に注目します。小さな苦しみから大きな苦しみまで様々です。 自分の気に入らないこと、痛み、恨み、妬み、悲しみ、不安等です。 私たちは、出来れば、こうした苦しみに出会うことのない平穏無事な生活を 送ることを強く望みます。万が一苦しみに出会った場合、その苦しみから 抜け出すことに集中し、行動してしまいます。私たちは苦しみを忌み嫌うのです。 これは人間の本性、非常に強い本性です。苦しみに出会う時、人間の本性が 端的に表されるのです。

            

この様な苦しみに出会うと、私たちは直ちに不平を言ったり、文句を 言ったり、態度で示そうとしてしまいます。このように反応することが 私たちの本性であり、自我そのものです。「小さな道」は本性の欲するままに 行動するのではなく、 忍耐すること、それも沈黙の内に 忍耐することが求められます。自分の意思を封じ込めることです。しかし、 自分の嫌なこと、嫌いなことであれば、我慢が出来ず、簡単に反応してしまいます。 このように、苦しみに遭遇する時、 私たちの本性が本性として強く表される時なのです。表された本性の ままに対応すれば、不平を言ったり、文句を言ったり、態度で示すことになるのです。 直ぐに反応しないで黙って受け止めること、即ち、忍耐することが求められるのです。

            

しかし、忍耐とは人間の本性の行為を否定する行為になります。そうなると 本性は徹底的に抵抗します。人間の本性が強く反発する時に人間は自らの 力でこれに対抗することは不可能となります。なぜならば本性は私達人間 そのものだからです。忍耐するためには自分たち以外に本性に対抗出来る力を 求めなければなりません。


それこそが主キリストの愛の力です。キリストの愛は無私の愛と呼ばれます。 キリストに私たちの心に来て、私たちの本性と戦うことを懇願します。キリストに 対する祈りとなります。キリストの力でこの本性と向き合って頂くのです。 それが、キリストに対する私たちの信仰であり信頼です。私たちの本性が 強ければ強いほど必死になって祈らなければなりません。心の中は自分の 本性の欲すること、苦しみに対して直ぐに反応したい思い、自分の意思を 働かせたい思いと、キリストに信頼して本性を否定する、自分の意思を 封じ込めたい思いとの激しい戦いの場となります。人間の本性にとっての 十字架の道となるのです。

            

もしも、苦しみに直ぐに反応することなく、苦しみを忍耐することになれば それは主が私たちの心に来られ、私たちの本性を消滅させていることに なるのです。即ち、 私たちの本性が否定され、神の愛である主の愛が私たちの心の中に来られることに なります。主の愛によって生きることが可能となるのです。それこそが、 キリストの道を歩むことになるのです。             

              

しかし、苦しみに遭遇した時に、主のみ旨を信頼しようとしますが、私たちには 主がどのように私たちの苦しみに対処されようとするのか前もって知ることは 出来ません。始め、忍耐が出来たとしても、忍耐した結果がどのようになるのか全く 分かりません。分からないからこそ、主のみ心に任せるのですが、先のことが 分からないと、様々な思いが湧いてきます。主に対する信頼が薄れてきます。 特に家族が巻き込まれるような場合に、将来の不安が増大される場合には尚更です。 自分の将来も、家族の将来も主のみ旨にお任せすることが求められるのです。 「小さな道」を歩む時に一番大きな問題になるかもしれません。主の み心に信頼出来るかどうかの瀬戸際となります。


もしも、忍耐することが出来、ある時点で苦しみが消滅したとします。そうすると 忍耐する前に、激しく反発した問題が嘘の様になくなっていることが分かります。 なぜ、そんな問題に執着したのか自分でもさっぱり理解出来ない状態になります。 そのような事を二~三度繰り返す内に、主のみ心に従えたことに感謝し、主から どれだけ愛されているかを実感出来るようになります。もちろん、一度忍耐 出来たからと言って、私たちの本性が全て消滅される訳ではありませんし、本性は 直ぐに再生されてしまいます。毎日の生活の中で弛まず、「小さな道」を歩み続ける ことが求められます。

                           

最初からこのようにうまく行く訳ではありません。初めの内は、何度も 失敗しますが、その内に苦しみに会ったとしても、直ぐに反応することが なくなります。苦しみを受け入れることが出来る様になります。更に、毎日の 生活の中で、小さな苦しみを一つ一つ乗り越えることによって、大きな 苦しみに遭遇しても、それを乗り越えることが出来るようになるのです。

            

リジューの聖テレジアは、この様に日常生活の中で、私たちが遭遇する 苦しみこそが、私たちの本性を顕在化させ、それを主の愛の力で消滅させ、 その結果私たちの愛を主に捧げることが出来、人々の霊魂の 救いとなるという、大きな恵みであることを見つけられたのです。それ故、 彼女はこれらの苦しみを「計り知れない 財宝」と呼ばれるのです。キリストに 私たちの愛の証を捧げ続けること、苦しみ続けること、キリストを愛し 続けることを望まれるのです(参照)。

            

この世の救いのために私たちの愛が必要とされるのであれば、私たちが遭遇する 苦しみは全て主が与えられるものであるとされます (参照)。苦しみに遭遇し、 キリストに対する信頼から、忍耐出来れば、私たちの愛が主に捧げられるからです。


実際、主のみ旨を信頼して苦しみを乗り越えると、主が私たちをどれ程 愛されているかを実感出来、次第に、苦しみそのものを望むようになります。 それこそが「主を愛すること」なのだとリジューの聖テレジアが教えています (参照)。              


            

この「小さな道」を歩むために、自分の 無力を知れば知る程、自分の意思を 働かせることが少なくなります。特に将来について私たちは色々なことを思い巡らします。 しかし、大事なことは今この時点で主のみ旨を信頼しているかどうかです。信頼 しているのであれば、将来のことを思い巡らすこと自体が主に対する信頼の欠如と なるのです。


「小さな道」を歩む時、注意することがあります。これらの苦しみに直面している時に、 主のみ旨を信頼することが求められるのですが、私たちは自分の直面する問題を、他の 人々に話してしまうことが多いのです。これは主を信頼することに なりません。主を信頼するならば、苦しみが終わるまで、主のみ旨を信じ切ることが 求められるからです。

2. このサイトについて

このサイトはリジューの聖テレジアの「小さな道」を歩むための彼女の考え方を知る ために作成されました。基本的に英文の資料をベースとしています。リジューの 聖テレジア関係の 原文はフランス語です。しかし、私はフランス語が出来ないので 初めから英文資料を使っています。リジューの聖テレジアの著作は国内で一部は邦訳 されていますが、英文資料に比較すると限定されていますので英文資料を使いました。          

このサイトでは、リジューの聖テレジアの信仰がどのように形成されたかを知る 一助とするために、リジューの聖テレジアの資料の中で、彼女が良く使われている用語を 選び、分類しました。約50分類になります。それらはリストとして 下記に表形式で示されています (リスト表)。

更に、用語を含む文章を引用文として抜き出し、年齢別、資料別、資料の ページ別に分類し、それらにコード番号を付与し、更に、同じ引用文の中で 使われている他の用語と用語のコード番号を記しています。こうすることで、 一つの用語がリジューの聖テレジアの幼い時から亡くなるまで、どの様に 使われているかを時系列で見ることが可能となります(下記例参照)。 また、他の用語と比較参照することも可能となります。

The List 1: Self-love, Nature
Age Sources and Pages Code Number Quotations Relevant Key Words, Phrases and Their Code Numbers
16 GCI
529
Jan.
23
-25
(?),
1889,
LT
81;
to
Celine
1-16-2  But you don't feel your love for YOUR SPOUSE. You would like your heart to be a flame that rises up to Him without the lightest smoke. Don't forget that the smoke that surrounds you is only for yourself in order to remove from you the sight of your love for Jesus, while the flame is only for Him. At least,then He has this love entirely, for if He were to show it to us just a little bit, swiftly self-love would come like a fatal wind which extinguishes everything! 17-16-7
(Love Jesus,
The Love
of God,
Charity)

3. 資料

資料名とこのサイトで使用する資料名の略語は以下の通りです。

これらの資料の他に The Imitation of Christ (TIC hereafter: Thomas. a. K. The Imitation of Christ. trans. by Robert D. Wheathampstead:Anthony Clarke, 1980)が追加されています。             

5. 編集者の紹介

私はフランシスコ齊藤 紘久です。1988年に洗礼を受けています。1990年代 初頭に聖テレジアの「最後の会話」の日本語版に遭遇し、それ以来、リジューの聖テレジアに 私淑し1997年に拙著「小さな道」を自費出版しました。その時には リジューの聖テレジアの教えは少し分かった積りでしたがその後自分の理解のなさを噛み 締める日が続き、今回はどうしても別のアプローチを思いこのサイトの編集と しました。

リジューの聖テレジアの著作自体は少ないのですが、著作物は多く、著作物間の横の 連携が難しいことからこのような横の連携を考えて作成しました。但し、引用は 私の主観によるところが大きいので、引用文だけではなく、リジューの聖テレジアの原文の 邦訳版を読まれることを強く推奨します。

6. 用語のリストとリンクについて

下記テーブルは用語のリストとの用語のサイトに移動するリンクを示しています。

リスト表
No. Key Words or Phrases Search Code
1. Self-love, Nature The List 1
2. Sufferings, Sacrifices, Crosses, Trials The List 2
3. Silence, Hidden The List 3
4. Trust, Confidence,Abandonment The List 4
5. Prayer, Meditation, Contemplation The List 5
6. Perseverance, Patience, Forbearance, Endurance The List 6
7. Renunciation, Forget Self The List 7
8. Weakness, Frailty The List 8
9. Poor in Spirit The List 9
10. Littleness The List 10
11. Nothingness The List 11
12. Humility, Humbleness The List 12
13. Joyful Souls, Cheerfulness The List 13
14. The Little Way The List 14
15. Union with Jesus The List 15
16. His Will, Perfection, Sanctity The List 16
17. Love Jesus, The Love of God, Charity The List 17
18. Holy Communion The List 18
19. The Words of God The List 19
20. Truth The List 20
21. A Saint The List 21
22. The Salvation of Souls The List 22
23. The Joy of Sufferings The List 23
24. Mercy of God, Graces The List 24
25. Glory The List 25
26. Confession The List 26
27. Sinners,Sins The List 27
28. Peace The List 28
29. Consolation The List 29
30. Ordinary The List 30
31. Simplicity of Soul The List 31
32. Uncertainty of Her Faith The List 32
33. Penance, Mortification The List 33
34. Repentance, Contrition The List 34
35. Books The List 35
36. The Director of Directors The List 36
37. Time The List 37
38. Disposition The List 38
39. Pauline The List 39
40. Participation to Salvation The List 40
41. Unfelt Love The List 41
42. Works, Actions, Great ASctions The List 42
43. Darkness The List 43
44. Reveals to the Little Ones The List 44
45. Magdalene The List 45
46. Revelations The List 46
47. Consistency of Spirituality The List 47
48. The Wise and Prudent The List 48
49. Trinity The List 49
50. Jesus's Wounds and Tears The List 50

英語版に戻る.

7. 連絡先

CONTACT