第4章  ジブラルタル海峡の水門解説編

第4章の解説 ジブラルタル海峡の水門


第4章は本書の題名と同じタイトルになっている。
 <ジブラルタル海峡が地続きであった>との仮説に進む前に、今現在、ここに水門(ダム)を作ってみる仮想演習を行っている。

地図で見る限り、ユーラシア大陸(ヨーロッパ−スペイン)とアフリカ大陸(モロッコ)の海岸線が、大西洋側及び地中海側共にスムーズな連なりを示しているのも、一つのヒントとしている。

第4章 ジブラタル海峡の水門

     

 ジブラタル海峡の地中海側と大西洋側のどちらも、各々の海岸線をなぞってみると非常にスムーズな線の上に乗るのが見て取れる。
 どちらも独立の大陸塊だと言われているアフリカとユーラシア大陸だが、北アフリカから西南ヨーロッパにかけて、ほんとうにスムーズな連なりになっている。我々はこのストーリーを展開する最初のスタートをここにおいた。ここの連なりは重要なポイントだった。

 ジブラルタル海峡は海峡幅が最も狭いところで15km、海峡の水深は300mを越す部分もあり、ここを毎秒平均して7万トンの海水が地中海向けに流れ込んでいる。潮の流れは場所によって2m/sになり、平均して0.5m/sが干潮、満潮時の潮流になる。

 我々はジブラルタル海峡に水門を作ることが技術的に可能かどうかについてまず検討を行った。
 インターネットの調査では、1935年頃にダムを作る構想が出ていたのを見つけたし、我々の非常に大雑把な計算では100兆円くらいの予算で水門を作ることができそうである。


 
彼らはジブラルタル海峡の長さと深さを調べて必要な土石量を算定し、大雑把に100兆円位で水門構築が出来ると結論付けている。

 ジブラルタル海峡に水門を作るに当たっては、若干大西洋よりの、幅25km、平均水深で150m程度、最大深度300mの場所を設定するのが、工事の容易性・費用といった面で良さそうだった。
 浅い部分を選んで行くと、大西洋に向かって若干のアーチ状になる。
 300mの深さの部分については底辺1,300m、上辺100mの台形をした砕石の積み上げ方法にして、水門の傾斜角度を30度に設定した。25kmの幅全てが300mの深さとして砕石の必要量を計算すると、約50億立方メートルになった。

    300m×(1300m+100m)/2×25km=5.25×109

 200mを越す水深部分は6km程度しかなく、100m以下の所が16kmあるルートを選択したので、50億立方メートルの約3割の量ですみ、必要となる砕石の量は16億立方メートルとなる。
 砕石の収集から運搬や投入など、我々の不得意とする分野だったが、10立方メートル当たり30万円として計算して、50兆円を想定した。補強のコンクリートの流し込みや、保守のための諸々の設備費用で同じ程度の費用をみこむと100兆円の数字が出てくる。
 日本の国家予算70兆円を考慮すると、とてつもなく大きな金額だが、国際協力による事業展開にすれば、実現できないものでも無いだろうと、我々は結論した。

 ちなみに、日本の本州と四国を結ぶ本四橋が3ルート完成したが、この金額は2兆6千億円にのぼる。従って、技術的に見ても、また投資金額的にみても実現は可能ではある。


  


 前記に続けて、ジブラルタル海峡に水門を構築したときの周囲(地球全体)への影響についても演習が行われた。

 ただ、我々がこれを最初に検討していた時点では、後で述べる地球全体への影響度までは、つまり非常に重大な事態の発生までは予測しなかった。いくらか世界の海面が上昇するデメリット、地中海全体にわたって広大な平地が現れること、地球温暖化への対策になる(熱エネルギーが位置のエネルギーへ転換できる)などのメリットは予測していたが。
 
 ここらは、山村君がまとめてくれた

毎秒7万トンの流入量がなくなった場合に、地中海の水面は最初の年に0.9m低下します。時間はかかりますが、平衡状態に到達するのは地中海地域からの蒸発量が現在よりも7万トン/秒少なくなった時です。つまり、11万5千トン/秒の蒸発量が4万5千トンにまで低下した状況です。蒸発は主に海面からが大きく、陸地からは小さな量になります。陸地からの蒸発量を省略しても、地中海の海洋面積が現在の4割にまで縮退してやっとバランスが取れます。
 
 地中海の海域の6割が干上がってしまった状態を地図から大雑把に見積もると、1,000m強の海面低下が予測できます。

 最初の年には0.9mの海面低下ですが、1,000mの海面低下した平衡状態に落ち着くまでは2,000年程はかかるでしょう。水面の低下に伴い海洋表面積が減少するためです。他にも色々な条件があります。地中海からの蒸発量が減るにつれて、降水量にも変化が起きるでしょうし、河川からの流入量にも変化が起きますから、誤差はあります。


 地中海の1,000mの海面低下は、約2.5×1015mの海水が、地中海から大西洋を経由して地球全体の海洋に供給されることを意味します。3.6×1014m2の表面積を持つ地球の海洋に対しては、7mの海面上昇を引き起こします。ミシシッピ川流域などの穀倉地帯に対して、この7mの海面上昇は深刻な影響を与えます。

 ただ、地球の温暖化の問題が現時点での国際問題になっていますが、ジブラルタル海峡の水門による、熱エネルギーから位置のエネルギーへの変換によって、1022ジュールの冷却効果は主張できるかもしれません。世界で最大の発電量を持つ、フランス電力公団の発電能力は1億kwあります。世界全体でのエネルギー消費量を20億kwと見ても、1年間で6×1019ジュールですから、3桁の差分には注目してもいいでしょう。冷却効果が最大となるのは海面低下が500m辺りになった時で、おおよそ6〜7百年の後にはなりますが。

 以上が水門構築の検討結果である。
 人手でジブラタル海峡を塞ぐことができるのだから、<過去にジブラタル海峡が地続きだった>と想定しても、おかしくは無いだろう。これが我々の結論である。  この結論を前提として、我々はホモサピエンスの出現と文明の発祥について検討を進めていった。


以上の演習を踏まえて、<過去にジブラタル海峡が地続きだった>との仮説のもと、第3章で出現したエーゲ海地域を中心とした掘り下げに進んだようである。

  • 「地中海の1,000mの海面低下は、約2.5×1015mの海水が、地中海から大西洋を経由して地球全体の海洋に供給される」・・・この影響については第8章で詳細が述べられている。