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あとがきにかえて
「はじめにって章を入れたのですから、あとがきを入れるのもご隠居の仕事ですよ」と、山村君に指摘された。しかし、あとがきは ”まとめのまとめ” であらかた済ましたつもりだったので、“じゃあ本文で触れなかったプラトンの記事の解説をあとがきの代わりにしようか”と言うことにした。
歴史上の有名な文献の中で、紀元前1万年前の事件を伝えるものがある。これは、2千年を超える期間に渡って物議をかもしてきたプラトンの「ティマイオス」である。全文は長いもので、ここではその中の一部、それでも少々長いが、エジプトの神官が語る文を引用してある。
【引用 エバーハート・ツァンガー著、服部研二訳、「天からの洪水」】
「ソロンよ、あなたにその話を言い惜しんだりはしない。むしろ、お話しするつもりなのだ。あなたのためにも、あなたの都市のためにも、そしてとりわけ、あなたがたの国土と私たちの国土とをご自分のために選びたまい、育み教え導いてくださったあの女神のためにも−−女神は、ゲーとヘパイストスから、まず、あなたがたの種子をお受け取りになり、それから1,000年間をへだてて、私たちの種子を受け取られた。そして、神聖な書法で記録されている私たちの文明の期間は8,000年だ。したがって9,000年前ということになるわけだが、その時代に生きていた市民たちについて、その法律のいくつかと、かれらが遂行した最も崇高な行為とを、手短にあなたに告げることにしよう。・・・@部
ごぞんじの通り、第一に、神官階層が他と分離されている。それから職人の階層があり、その各々の職種はどれか他の職種と混じることなく、個別に仕事を行う。また、牧夫、狩猟者、農夫などの階層があって、それぞれ明確に分離している。さらに、すでにあなたもきっと気づいていることだろうが、この国では軍人階層が他のすべての階層から区分されているのだ。かれらは、法律で、もっぱら軍事訓練に専念するように命じられている。一層大きな特色は、楯と槍からなるかれらの装備だ。というのは、アジアの人々のなかで、最初にこれらの武器を使用したのは、私たちなのである。そして、それを私たちに教えてくださったのがかの女神なのだが、同時に女神は、もっと遠い土地のすべての住民たちのなかでは、最初にあなたがたにそれをお教えになったのである。その上、英知に関しては、疑いもなくあなたも当地の法律を認めているだろう――それが、そもそもの開闢から宇宙の秩序にいたるまで、いかに多くの関心を払ってきたのかを。つまり、神聖なる諸原因が人現生活にもたらすあらゆる影響をあきらかにすることによって、予言や、健康を目的とする医術にいたるまで、関心が及んでいるのである。さて、かの女神が、あなたがたに、他のあらゆる人々よりも前に、この秩序ある規則正しい制度をお与えになったとき、女神は、あなたがたが生まれた場所を選びたまいて、あなたがたの国家を確立されたのである。そこは、気候がほどよく調和しており、卓越する英知にめぐまれた人間を生みだすのは確実だと、女神がお感じになられたからだ。・・・A部
女神は戦いを愛される方であり、また英知を愛される方でもあったので、ご自分に最もよく似た人類を生みだしそうな場所をお選びになったのである。そして、これこそ、女神が最初に確立なさったものなのだ。そういうわけで、先程述べたような法律――いや、それどころかもっとよい法律――の支配下にあなたがたは生活していた。しかも、神々の乳飲み子にして子孫となる人々だったので、あらゆる能力において全人類をしのいでいたのである。・・・B部
@部ではまず、この物語が語られた紀元前5百年頃よりも9千年程前に(つまり今から1万1千500年前に)ギリシア地域に文明が発達しており、そして−女神を文明と読みかえれば−1万5百年前に文明の中心(女神)がエジプトに移ったとしている。
また、A部は、ギリシア方面は気候がほどよく調和した場所であり、B部は、卓越する英知にめぐまれた、あらゆる能力において全人類をしのぐ、女神によく似た人種がいた、と読み取れる。
我々が見出したクレタ湖周辺からの現代人類の発生と、1万2千年前の崩壊との大枠での一致は見出しうる内容である。
しかしこの、一万数千年前にギリシア地域に文明が育っていたという唯一の記録に関して、我々はこれまで、深く掘り下げた調査なり、検討なりが行われた結果を目にしたことはない。アトランティスの場所がどこかという謎をあかそうという試みについては、嫌になるほど目にしているのだが、ギリシア地域に、ここに最も古い文明があったということに対して、なぜか追求がなされていないのである。
ティマイオスが書かれた時代にはギリシアには優れた文明があり、そしてそれが、世の中で最も優れたものであったために――ポーの「かくされた手紙のありか」の様に――調査なり、追跡なりを妨げてきた一因となったと思われる。
そしてまた、以下に続く文書が延々と続くアトランティスの謎解きを中心課題としてしまい、一万数千年前のギリシア地域の文明の議論を脇に押しやっているのも確かである
【引用 エバーハート・ツァンガー著、服部研二訳、「天からの洪水」】
・・・その頃、このアトランチィスという島には、強大にして驚くべき権力をもった王たちの同盟が存在した。かれらは、その島の全土、それに他の多くの島々や大陸の一部までも支配下においていた。そしてさらに、海峡内のこちら側の陸地のうち、エジプトにとどくまでのリビアをまたチュレニアにとどくまでのヨーロッパを支配していたのである。
そこであるとき、全体が一丸となったこの軍勢は、ただ一度の猛攻撃によって、あなたがたの国も私たちの国も、さらには海峡内の全領域を隷属させようとしたのだ。そのときのことなのだ、ソロンよ、あなたがたの国の、勇気と力に満ちたあっぱれな資質が、当時の全世界の前に歴然と示されたのは。というのは、あなたがたの国は、取り分け勇敢さとあらゆる軍事的技術において抜きんでていたのであり、あるときはギリシア諸国の指導者として活躍し、また、他の全ての諸国が脱落したときにはひとり敢然として立ち向かい、最大の致命的な危機を乗り越えた後で、ついに侵入者を敗北させ、勝利の碑を高々とかかげたのである。そしてそれによって、いまだ隷属されていなかった人々がそうなるのを救い、ヘラクレスの境界の内側に住んでいた、私たちの残りのすべての人々を惜しむことなく開放したのである。ところが、その後、けたはずれの地震と洪水が発生し、悲しむべき一日と一夜がかれらの身にふりかかった。そのとき、あなたがたの戦士たち全部が大地にのみこまれ、同様にして、アトランティスの島も海にのみこまれて消失したのである。そして、そういうわけで、その地点の海洋は今では航行できず、探索することもできなくなった。島が平静になったとき、その島によって生みだされた海岸泥土で妨げられているからだ。」
リビアからイタリアの一部にまで広がる大きな勢力をもったアトランティスという文明圏があったこと、そして、けたはずれの地震と洪水によって、ギリシア地域及びアトランティスの両者ともに大地にのみこまれ、海に沈んでしまったこと、これらが謎解きの根幹なのだが、こっちは他の書物にお願いしておこう
我々の一連の調査・検討の中で、この一万数千年前の言及に出会ったときはそれなりに感動した。古代エジプト文明に先行してギリシア文明が立ち上がっており、何らかの理由で文明の中心がエジプトにシフトしたとの記録は、ジブラルタル陸橋の前提から引っ張り出した我々の結論を裏打ちしてくれると思われた。
しかし、これを声高に主張するのは、アトラントローグ達の種々の推論が林立する中に我々の結論が埋もれてしまうに違いなく、それ故に検討の中での参考資料に留めておいた。そうは言っても、こんな歴史書もあるのだと言うことを伝えておきたくて、“あとがきにかえて”の中でとりあげてみた。
“今の世の中に無い高酸素(1.2気圧)状態の生活環境”が実はあちこちにできている。“酸素カプセル”という名前で、結構商売になっている様だ。検討の初めの頃は、水槽に空気カプセルを押し込むイメージで1.2気圧を実現させようと思っていたが、圧搾空気の制御で簡単にできるみたいである。
年寄の冷や水と言われない内に、一度体験しておかないとなあ。
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