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22 top 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 夜の海 美しい切花いつまでも 故郷 氷霧 夏 横顔 役場のにおいと戦うおばあさん 見てくれがいい 硬い庭の土では 弘前のお盆の夜 僕の中の穴 市電通り ほおずきの匂い 夕方 留守番の気持ち やさしく降りる歌 下敷きにした遊び 柱時計 川べりの花 みどりの木の影 |
夜の海 今 夜の海は素敵だというものは 開け放たれた窓から 満月の光の龍の沖から岸へと 舞い降りた一筋を みたんだと思う ____________________ いつまでも美しい切花 切花が美しい と ここを動きたくないので そう言いわけをする やがて枯れても 素敵だと心底つぶやく 花を長くもたせる職人には きらわれたようなので 僕のとっておきの 日記のページを見せてあげる 小学校の時に描いた チューリップの絵 職人のめざすものも そこにあるのかもしれない ____________________ 故郷 区画された街中のどこかを 内側からチョッと引っ張る できたくぼみを楽しむのか人が集まりだし 道行く人たちに声をかける そちらにむかっても あなたの故郷には たどり着けませんよ どうです? みんなで 後戻りしませんか いつかは行けるでしょうし ____________________ 氷霧 少なくなったかき氷 カップのすみにできてた氷霧は 水を入れるまえの水筒の中へ 林間学校の朝の長袖シャツにもしみる 落としたりしないものなのに 下ばかりみてると 頭をもたげた時の ふしだらな叫び声とともに 見失いそう ____________________ 夏 草刈をされても残る 踏みしめられた溝の 突き当たりは 盆踊り 途中の小さな橋のたもとにラムネ売りの 大きな桶があっても そばの小川の涼んだ音も手伝って 今日も売り切れ 氷を入れて冷やす冷蔵庫は 今でもどこかで 夏を むかえてるんだろうか ____________________ 横顔 下駄に履き替えると キューリは塩や味噌をつけて食べるんだよ というおばあちゃんの横顔が思い浮かぶ リンゴに包丁で細かくきざみ目を入れて 歯の弱いおばあちゃんにあげる そんな時の僕にも横顔が おばあちゃん 出来たよ食べて ____________________ 役場のにおいと戦うおばあさん このへんを通るといつも 役場の窓口のにおいがする どうもなじめない 市の植木スペースなのに 自分のもののように大切にいろいろ 世話を焼くおばあさんが あたしがいなくなったら この花たちはどうなるんだろうね 爛漫と咲く花たちの横には 刈り取られた茎が これ以上ないほどに きつく縛られて 横にいつまでも今日も きっとあさっても どんどん積み上げられ 役場のにおいに 追いつく日までなのか ____________________ 見てくれがいい うらが広い空き地のところの 店舗は そば屋がいい 景色も味もさっぱりしてそうで いいやね ____________________ 硬い庭の土 柵を作らなかったばっかりに 庭の土がどんどん硬くなってく 真っ白なドレスだけでいいと思ってたから いろいろな色や柄のものを まとうつもりなどなかった 実をつける花は 咲かせたかったけど そういっては アスファルトにしか立てない 今日の僕を ふり向かせるのに 柵のない庭では 植木鉢だけが そっと おしゃれ ____________________ 弘前のお盆の夜 きげんの良い犬は 中々家に入りたくない 硬いものとか とがった物とか やっかいな物もいろいろある外が 全然気にならない でも 今日は玄関先での お盆の迎え火 弘前の夏の夜 裏庭の番をしなければいけない ____________________ 僕の中の穴 あこがれる 僕の中の穴 あこがれたことを いぶかしげながらも 今日も保つ無風の穴 今日こそのぞいてみようか 朝日の乱反射に 隠くれてしまうまでに ちがうものを取ろうとしてた この手でも ぬくもりがあるから 間にあうはず ____________________ 市電通り 市電通りを渡るには あくびをしながらがちょうどいい 右にも左にも電車がみえるけど だいじょうぶなんだと思う 駅にさえ 立ってみたくなる時間が 流れる ____________________ ほおずきの匂い この時期 いろいろな樹からほうずきが咲く ドライフラワーにする人もいるのだから そんな里もいいのかもしれない こんなにも咲くものだから 匂いの逃げ場は土の中 閉じ切れずにいる 小さな穴には ご近所のお嬢ちゃんが 折り紙を切って作った真っ赤なもみじの花を ちりばめてくれる いやまだ あぶないからと今夏も 背丈のよい街燈探しに 骨董品屋まわりの おじいちゃんも あらわれる ____________________ 夕方 風にゆれるていどの 傘の付いた裸電球 そんな電信柱のスイッチを入れる びっくりした〜 こうもりか 空を飛ぶ 夕暮れのこの時間 こうもりからみた景色が 分かるような気がして すご〜い と 子どもたちが ジャンプをするよ ____________________ 留守番の気持ち 海に遊びにいく前に 忘れ物を取りに家に入ると もう外に出る前の さっきまでの家の中とは ちがって見える 下が色の濃い赤 まん中は限りなく白 限りなく薄青 上は黒に混ざるような黄色 へやが外出をしようとする時は こんな服をえらぶのは知ってたけど そして床から下は宙に浮いてしっぽが垂れてる いつも手入れをしてる 鉢植えの土のごつごつとした 手触りまでが 心苦しい 濾し網でさらさらな 海岸の砂のようにしてあげると だいぶ機嫌がなおったようなので さ〜 留守番 たのんだよ〜 ____________________ やさしく降りる歌 マイナーな曲を歌うと 雨も西日も軟着陸 時空まで 君ひとりぐらいなら 連れてきてくれそうなほど やさしく ゆらぐ ゆっくり この横まで ____________________ 下敷きにした遊び 凍った砂漠を下敷にした遊びを 流行らせたのは 詩人で その詩人たちの書きそんじた紙を 下敷にした ことば遊びはもう 遊びとはいえないほどに まとわり着いてきては 帰ろうとしません ____________________ 柱時計 こわれた柱時計の匂う部屋で 時計が動きさえすれば この匂いは消えるんだろうかと むかしを思いだしてみる どこからだろう なつかしい想いがしては 時計をさらに 包みこんでしまう ____________________ 川べりの花 今 川べりでは おなじところに咲くのが 似合わない花たちが 白・黄色・赤 そんなに似合わない? それらが摘み取られては おり重なり寄り添い 橋のたもと アスファルトに残る 少しのしずくだけに 見送られる ____________________ みどりの木の影 みどりの木の影は みどり色 葉を蓄えて大きく育つ木そのものへ 壁伝い草の造形 影にそって伸びる伝い草の想いは 朽ちようとするものから身を守る 秘めたる魔力 |
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