【簡単解説・済州島の海軍基地建設問題】

(はじめに)
 みなさん、こんにちは。いま韓国政府は、済州(チェジュ)島の江汀(カンジョン)村に、海軍基地を建設しようとしています。これに対してカンジョン村の住民は、チェジュ島の人々や、韓国本土の平和運動団体や環境運動団体の支援を得て反対運動を行っています。私たちは、日本からカンジョン村の人々を応援しています。でも「何で日本に住む人が韓国の基地に反対するの?」と疑問に思う人も多いでしょう。そこで、済州島やカンジョン村のこと、基地建設の問題点、日本との関係などについて簡単に解説します。どうぞご一読ください。

1.済州島ってどんなところ?
 チェジュ島は、韓国の南端にある島です。南北が短く、東西に長い楕円形で、中央には漢拏(ハルラ)山がそびえています。『ウィキペディア』によると、面積は1,845キロ平方メートルで、人口は約55万人とのことです。
 済州島は、韓国本土とは少し違った歴史を持っています。太古、地の穴から現れた3人の神人が国を開いたと伝えられています。3人の神人は東の国から船でやってきた3人の姫と結婚するのですが、この東の国は日本だとも言われています。史実でも済州島は3世紀から15世紀まで、耽羅(たんら)国という独立国でした。今でも済州島のお年寄りが話す言葉は本土の言葉とは随分と異なるようです。また島独自の文化も残っています。
 島はハルラ山の噴火でできたため、島内の各地で不思議な自然の造形物を見ることができます。またハルラ山・噴火口が台地になった日出峰・溶岩洞窟は、2007年にユネスコの世界遺産に登録されました。
 地面が溶岩で覆われているために農業には適さないようですが、温暖な気候の恩恵を受けてミカンの産地として、また黒豚の産地としても有名です。海産物も豊富で、ウニやアワビ、太刀魚や鯛などが獲れます。これらの農産物・海産物の専門店や飲食店があちこちにあり、島の名物になっています。
 また近年では、「チャングムの誓い」をはじめとした韓国ドラマや映画のロケ地としても使用されています。
 こうしたことから済州島には、韓国本土はもちろん、中国や日本からも大勢の観光客が訪れています。成田空港と済州国際空港との間では、大韓航空とJALの共同運航便が1日に1往復しています。成田を朝9時ごろに出発して昼12時ころに済州島着、済州島を夕方6時ころに出発して夜8時ころに成田着です。
 済州国際空港は島の北側の海岸線のほぼ中央にあり、空港のそばには新済州・旧済州などの繁華街があります。一方、島の南側には、高級リゾートホテル街の中文(チュンムン)や、ワールドカップが開催された西帰浦(ソギポ)があります。そして、そのチュンムンとソギポの中間に、韓国政府が海軍基地建設を行おうとしている、江汀(カンジョン)村があるのです。


2.カンジョン村を分断した海軍基地建設計画
 済州島国際空港からカンジョン村までは、リムジンバスで約1時間です。バス停留所は村の中心にありますが、周辺はスーパーとコンビニエンスストアが3軒、飲食店が4〜5軒、ガソリンスタンドが1軒などで、非常に小さな村です。人口は1500人くらいだそうです。
 韓国政府が済州島での海軍基地建設を発表したのは、1992年でした。2005年にファスンが予定地とされましたが、住民の反対で政府は計画を断念しました。2006年にはウィミが予定地となりましたが、ここでも反対運動が起きて基地建設を進めることができませんでした。そこで韓国政府は2007年、最後の候補地としてカンジョン村を選択したのです。
 2度も予定地の変更を余儀なくされた政府は、カンジョン村での計画を周到に進めました。まず村会長を懐柔して基地誘致賛成を取り付けました。さらに村会長の親しい住民87人を集めて村会を開き、賛成を決定したのです。
 突然の決定に多くの住民は反対し、村会長を解任しました。そして新しく選ばれた村会長の下で、住民投票を行いました。村の有権者1050人のうち、投票には725人が参加し、結果は反対680人・賛成36人・無効9人でした。
 海軍基地建設計画は、カンジョン村の住民たちの生活を大きく変えてしまいました。村は賛成と反対に二分し、隣家でも話をしない、親子が縁を切る、親戚の結婚式や知人の葬式にも参加しないなど、共同体が壊れてしまったのです。

3.海軍基地建設に反対するカンジョン村の人々の思い
 カンジョン村の住民が基地建設に反対するのには、いくつかの理由があります。第1は自然を守るということです。基地建設予定地は、ユネスコの生物圏保全地域に指定されています。チェジュ道が定めた絶対保全地域でもあります。この地域には天然記念物である軟珊瑚の群落があり、絶滅危惧種の赤足馬糞蟹の生息地もあります。さらにカンジョンの海岸は長さ約800メートルに達する「一つのかたまり」の熔岩岩である「グロムビ岩」でできています。基地建設は、こうした貴重な自然を破壊してしまうでしょう。
 第2に立地選定過程が、非民主的であったということです。前述の通り海軍基地誘致を決めたのは、わずか87人の住民でした。その後の住民投票では、大多数が基地建設に反対しました。いま韓国政府は、住民合意の無いままに基地建設を進めようとしています。
 第3に、「平和の島」と海軍基地は両立しないということです。2005年、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、チェジュ島を「世界平和の島」に指定しました。
 済州島には「四・三事件」という暗く重い過去があります。日本敗戦後、米軍支配下の南朝鮮では、1948年5月に総選挙が実施され、8月には李承晩(イ・スーマン)を大統領とする大韓民国が建国されました。その選挙直前の4月3日に済州島で、南単独の選挙と建国に反対する人々が武装蜂起しました。参加者は300人足らずでしたが、米軍・韓国軍・警察・右翼が鎮圧を行い、3万人近い島民が虐殺されたのです。
 「四・三事件」は長らく、北朝鮮の陰謀とされてきましたが、2000年に真相究明が始まり、2003年にはノ・ムヒョン大統領が公式に謝罪しました。
 こうした事件の背景があり、済州島は「世界平和の島」として、平和や人権の発信地になりました。かつて韓国本土の軍隊や警察によって大虐殺が行われた済州島の多くの人々は、島に軍隊が来ることを拒絶しているのです。
 住民が反対を決めた後も、政府は基地建設を進めました。土地収用によって村と海岸線は、1か所を除いてフェンスで遮断されました。海軍基地建設に反対する住民は、海岸線へでることのできる最後の1本の道を、座り込みで守ってきました。しかし2011年9月2日の早朝、警察の急襲によって、そこにもフェンスが作られてしまいました。今では、村の人々はすぐそこにある海岸に行くことができないのです。またクロンビ岩の爆破作業も開始されました。
 こうした事態に、住民運動のリーダーや韓国本土から支援に来ている市民運動団体のメンバーが、フェンスを乗り越えて爆破地点に入っていったり、建設用地を出入りするミキサー車の前に立ちふさがって通行を止めたりする抗議活動を続けています。昨年の9月以降に逮捕された人々は、500人を超えようとしています。
 韓国では今年4月に国会議員選挙が行われました。現職の李明博(イ・ミョンバク)大統領、与党のセヌリ党(選挙直前にハンナラ党が名称変更)ともに支持率が低いため、選挙は野党が勝利すると予測されていました。基地建設に反対する人々は、与野党が逆転すれば基地建設を止められると期待しました。ところが選挙では、僅差でセヌリ党が勝利してしまったのです。
 それでも、選挙で済州島の基地建設問題が大きな争点になったことから、国民の関心が広まりました。また政府・海軍・警察の強硬手段に対して、国会でも野党の追及が厳しくなり、済州道知事や済州道議会の姿勢も徐々に変わり始めました。今年12月には大統領選挙が行われます。反対派の人々は、野党が態勢を立て直し、大統領選挙で勝つことを願っています。
 こうした状況の変化が、一方で政府や海軍の強硬策となって表れはじめました。彼らは大統領選挙までに、基地建設を止められない所まで進めてしまおうと考えているでしょう。そのことが、反対派に対する大量逮捕につながっています。また3月以降、済州島に行こうとした日本やアメリカの市民団体・平和団体の関係者が、韓国政府から入国拒否にあっています。

4.なぜ私たちが海軍基地建設に反対するのか
 ここまで読んでいただいて、海軍基地建設の問題点は分かったけれども、なぜ日本に住む人が反対するのか? という疑問を持った方もいるでしょう。私たちが済州島の海軍基地建設に反対する理由は、それが日本の軍事拡大や東アジアの平和の問題と大きく結びついているからです。
 韓国と北朝鮮は軍事的な緊張を続けています。しかし韓国の最南端にある済州島に基地を建設することは、北朝鮮と関係があるとは思えません。韓国政府の狙いは、軍拡を続ける中国や、独島(日本名称:竹島)を巡って争いのある日本への警戒だと思われます。
 中国は近年、経済成長を背景に軍隊の近代化を進めています。特に海軍の増強はめざましく、小さな船しかない沿岸警備隊のような軍隊から、大型艦を保有する外洋型の軍隊へと成長しています。これに対してアメリカは、中国海軍が太平洋に出て来ないように封じ込めを行おうとしています。しかしアメリカは財政赤字を抱えており、単独で中国を封じ込めることができません。そこで日本や韓国に軍事力を拡大させて、アメリカを手伝わせようとしています。済州島に韓国海軍の基地ができれば、中国封じ込めに大きな役割を果たします。またいずれはアメリカ海軍も基地を使うことになるでしょう。アメリカの平和問題の専門家は、アメリカ軍が済州島にイージス艦を配備し、ミサイル防衛の拠点にしようとしていると分析しています。
 今後の東アジアは、中国とアメリカの軍拡競争が続くことになります。アメリカから日本や韓国に対する軍拡要求は、ますます強くなるでしょう。それは、東アジアでの緊張と、戦争の危険性を高めることにつながります。
 また日本と韓国は同じくアメリカの同盟国ですが、独島(竹島)の領有権で争っています。日本にも韓国にも、「相手が軍事的な手段に訴えるのではないか?」また「こちらから軍事力に訴えて解決しよう」と考えている人々が存在します。韓国が済州島に海軍基地を作れば、日本国内のこうした人々を勢いづかせることになるでしょう。
 日本と韓国は、軍拡競争から抜け出さなければなりません。それが東アジアの平和に、私たちの暮らしの平和につながります。そのためには、日本・沖縄・韓国・済州島で、基地に反対する人たちが手を取り合って、協力していくことが大切だと考えます。
 また日本人が韓国の政治を考える際には、日本と韓国の歴史についても、思いを巡らせる必要があると考えます。韓国では長い間、軍事独裁政権が続きました。1987年以降は民主化が進みましたが、今でも独裁政権時代の様ざまな法律が、人々から自由を奪っています。軍事独裁政権が続いたのは、韓国が分断国家であり、北朝鮮との軍事対立があったからです。そして朝鮮半島が南北に分断された原因は、日本が朝鮮半島を植民地支配していたことにあります。
 朝鮮は1910年の日韓併合によって、日本の一部にされてしまいました。1945年の日本降伏は、植民地支配からの解放となるはずでした。しかし日本の一部であった朝鮮には、北からはソ連軍が、南からはアメリカ軍が進駐して分断され、それぞれの軍政下に置かれることになりました。日本が朝鮮を併合しなければ、朝鮮半島は分断されることはなかったのです。
 さらに韓国の軍事独裁政権を支えた軍部や政治家の中には、日本の植民地支配中に親日家だった人々が多数存在しています。
 こうした思いから、私たちはカンジョン村での海軍基地建設反対運動に協力しているのです
 



3人の神人が現れた「三姓穴」。チェジュ市内にあります。併設されている資料館では、3神人の神話のアニメを上映しています(日本語版あり)。




済州島の中心、ハルラ山。






島内には、古い時代の住居を再現したテーマパークが、いくつかあります。











カンジョン村です。基地反対の家には、黄色い旗が掲げられています。


黄色い旗のある、反対派のスーパー。


対面には、国旗を掲げる賛成派のスーパーがあります。



手前の岩場がクロンビ。いまでは爆破作業が進んでいます。奥に見えるのは、サッカーのワールドカップ・スタジアム。



沖合の島の周辺は、自然保護地区に指定されています。



村のあちこちに、ミカン畑があります。



2011年9月2日、警察の土地収用に抵抗するため、体に鎖を巻きつけている女性たち。



集会があるたびに、韓国本土からたくさんの警察官がやってきます。


本土から来た支援者を、民俗芸能でお出迎え。



済州市の繁華街をデモ行進するカンジョン村の人々。



集会は、とにかく楽しいです。歌や踊りがたくさんあります。


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