胞子発芽に付いて

始めに

 私はただ単に、巻柏の四季折々に見せる変化の妙と、その美しさに魅せられて巻柏を愛培
しているだけで、学術的な知識は全くありません。
従ってこのこコーナーで記述する学術的な内容は、胞子発芽の説明過程で避けては通れない
ために、参考書籍や、お聞きした事などから引用したものです。
私の知りえる事は参考書籍の記述などを元に、実践して経験で得た事のみで、それ以外の
学術的な内容は全て受け売りです。

 受け売り 其の1
 (主な内容は、鹿島書店発行の「よみがえる古典植物いわひば」より引用しました)
 
 胞子は普通の植物(顕花植物)の種子に該当するものと一般的に考えられていますが、
厳密に言えば、種子ではなくて、花粉に近いものであり、一個の胞子は完全な一個の植物の
卵ではないそうです。
岩檜葉の仲間は、大胞子(雌胞子)と小胞子(雄胞子)の、二型の異なる胞子を持つそうです。

 胞子は下葉の先端が肉厚で断面が四角に感じる様になった部分(胞子嚢穂)に生まれます。
胞子嚢穂は2段になり、先端の細い部分には小胞子が、その下の太い部分に大胞子が出来、
10月頃には胞子嚢穂の燐片の間からこぼれ始めます、大胞子は肉眼で確認できる大きさで
黄色い球状です、小胞子は肉眼ではオレンジ色の粉にしか見えません。

 受け売り 其の2

 自然にこぼれた胞子は翌年夏に、一せいに発芽するが、これはまだ花粉の発芽と同様で、
受精を終わらないと、完全な固体にはなり得ないものなのだそうです。
発芽した胞子は、前葉体という器官が出来て、これが発達して蔵卵器と蔵精器を作り、
蔵卵器内で受精が行われて胚が発達し、やっと一固体としての機能が出来るそうです。
一般の顕花植物は、雄花、雌花が出来て、受精されて種子を生ずるが、岩檜葉の仲間では、
このことが、前記のように親株から離れたところで行われるそうです。

 このようにして自然発芽した岩檜葉が、棚の足に使用した石材に着生したコケの間や、
古株の根幹などに見られますが、その殆どが緑一色の原種に近い物になってしまいます。
巻柏の事には何にでも興味を持つ私は、品種を限定した胞子発芽を確認して見たいと思い
何種類かの胞子を採って、胞子撒きにも2年続けて挑戦してみました。
しかし適当な性格のため記録等は残して居らず、正確な結果はお知らせ出来ないのですが、
記憶に残っている方法と結果を、思い起こして見ます。 
なお胞子発芽品は始めの生育が遅く、挿し芽発芽苗の1年生の大きさに育つまでに
3〜5年掛かり、この時の発芽品はまだ2寸5分鉢で育成観察中です。

 胞子を採った品種は、玉川染、黄豊冠、金華山、白牡丹、古金襴、春日錦、丹頂、金麒麟、
玉獅子、福寿、楊貴妃等でした。 これらの各胞子嚢穂を、10月初旬に切り取り各品種別に
茶封筒に入れて、翌春まで保管して置きました。
こうして置いた封筒の中では、胞子嚢穂と大胞子、及びオレンジ色の粉状の小胞子とに
分かれていますので、目の極細かい篩を使用して、胞子嚢穂だけを取り除けます。
5月中旬になってから、挿し芽と同じ用具(40cm×50cmの挿し芽箱)と用土を準備して、
品種別に分けた形で、無造作に撒きました。
その後はガラス蓋をして、水分の補給は鉢底を水槽に浸ける方法で行いました。

 通常の挿し芽管理では、ガラス蓋を行わない私が、この時に限ってガラス蓋をした理由は、
これから行われる受精のためには、精子が移動する為の水分が必要なのではないのかと、
無知な私が推測したため、表土の湿度を常時高目に保持したかったからです。
ガラス蓋は初年度のみ行い、二年目からは行いませんでした。
また給水も胞子が用土の隙間の深い位置に沈んでしまう事や、流失してしまう事を防ぐ意味で
初年度は鉢底から給水を行いましたが、2年目からは普通の散水による給水にしました。

 どの品種がどの程度発芽したのかまで、正確な観察記憶はありませんが、秋には小さな緑
があちこちに見られ、一部では相当数の発芽があり、その部分は翌年には緑が用土を隠す
程でした。 休眠期には初年度からそのまま乾燥して、他の小苗と同じ扱いで越冬させました。

 後日の結果は500程の固体が育ちましたが、その中に玉川染と全く同じに見えるものが
10固体あり、他に小天狗に良く似た緑葉の品がひとつ、これは黄豊冠の胞子から発芽したと
思われます。 また僅かに黄豊冠の面影を感じる緑葉の物と、僅かに白牡丹の面影を感じる
緑葉のものが、各数個ずつ有りましたが、その他は全て親を特定できない程に、原種に近い
緑の大葉のものばかりでした。 この玉川染に付いては、胞子嚢穂あるいは胞子嚢が付いて
いた葉の鱗片の一部が混入していて、それが発芽した無性繁殖の可能性も考えられる事から
再度胞子を撒いて確認したいと思って居るのですが、いまだに実行には至っておりません。

 以上の結果から玉川染を除くと、発芽苗の全てが緑一色の原種に近い物になった訳です。
この現象に付いては、次の「受け売り3」で述べてみたいと思います。
次の「受け売り3」の話は、植物は専門外だそうですが、生物学に精通された方から伺った
事ですが、誤認や誤記があるなら、私の聞き違いや記憶違いですので、ご容赦ください。

 受け売り 其の3

 種子や胞子等による有性繁殖では、一代交配で生まれる子には、親の持つ優勢遺伝子
のみが現れるため、巻柏の緑葉が優勢、黄色葉を劣勢とすると、緑葉と黄色葉を交配した
場合の、完全交配を前提にした理論では、一代交配で生まれる子は、全て緑色の葉になり、
この子(F1)同士を交配して生まれる子(F2)では、3対1の比率で緑葉と黄色葉が出現する
そうです。(あくまで、完全交配が前提だそうです) 

 現在の科学技術なら設備と知識があれば、巻柏とて完全交配も不可能ではないでしょうが、
趣味の繁殖では完全交配は不可能に近いと思われます。ですが確率は極めて低いにしても
宝くじではないけれど、夢と期待で楽しむ事は可能です。
むしろ趣味の世界では、夢を楽しむ方が自然な姿で、良いのではないかと思います。

 しかし胞子発芽のF1が成熟して、胞子を付けるには10年近く要します、F2が一人前に
育って、その特徴を確認できるまでには、さらに数年掛かります。
私はこれ以上試してみるつもりは有りませんが、お若い趣味家で研究熱心な方が居られた
なら、是非試して頂きたいと思います。
また、この理論を伺ったとき、次のことも同時に伺いました。

 受け売り 其の4

 この法則を現在の巻柏に当てはめて考え、仮に緑の龍葉と、黄色の常葉を交配したと仮定
した場合に、葉の色彩の緑を「A」、黄色を「a」として、葉形の常葉を「B」、龍葉を「b」として、
「A > a」「B > b」として、前記の法則に当てはめると、理論上は次のようになるそうです。

 F1では [AaBb] の遺伝子を持つため、全ての子が「A=緑の B=常葉」になるそうです。
このF1同士を交配して生まれるF2では、[A・B・] = 9、[A・bb] = 3、[aaB・] = 3、 [aabb] = 1
の様になり、緑の常葉が9、緑の龍葉が3、黄色の常葉が3、黄色の龍葉が1、の割合になる
法則が成り立つそうで、16分の1の確率で「黄色の龍葉」が出現する理論になるそうです。
ただし、あくまで完全交配が前提だそうです。

 この説明を頂いた折には、軽薄無知な私のために、わざわざ図式を描いて、ご説明を下さい
ました。 お蔭様でどうにか其の理論を理解する事が出来たのですが、その図式は此処では
割愛いたしました。 何をやっても感度が悪く、パソコンの操作も未だに参考書を見ながら、
時間を掛けて操作している有様の私とは違い、私にとっては難しいパソコンを、容易に使い
こなして、このHPを御覧下さる貴方は、頭脳明晰な方でしょうから、上記の拙い文章だけでも
ご理解頂けるのではないかと思います。
研究熱心な方は、是非 [F2] まで、胞子発芽を試してみてください。



 ご教授下さいました ○○○○様、大変ありがとうございました。
私の理解違いにより、ご説明と内容が違う記述になっている事も考えられますので、
あえてお名前を伏せさせて頂きました、また、無断引用をお許しください。.


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