挿し芽と管理 

初めて挿し芽を経験される方へ

 挿し芽と言うと大方の植物がそうであるように、挿した葉が地中で発根して生育する事を、
連想しますが、巻柏の場合は全く異質です、葉の元から発根するのではなく、葉の先から
発根して、そこに新たな命が芽生えるのです、つまり葉先から若芽が発芽するのです、 
従って折れ落ちた葉でも、そこの条件が良ければ、そこで発芽して育ちます。       
    
ですから挿し芽と言う言葉は、当てはまらないのかも知れません、葉の先が地表に   
密着させる方法を取るのですから、「寝せ葉」と言う方が良いかも知れません。      

 その様な訳ですから、葉の乾燥が防げるなら、あえて葉を地中に挿す必要はありません。
極端な言い方をすると、葉先を千切って撒いて置くだけで、条件が良ければ発芽します。
葉が乾燥する事の無い、適度な湿度を維持できれば、数ミリの葉先でも発芽します。  

 しかし私たちの挿し芽は、繁殖を目的にして、より多くの発芽を期待する行為ですので、
発芽の好条件を人為的に作り出すために、色々な方法を試み、より発芽の確率を高め、
より良い若芽を得るよう工夫をしています。                             

挿し芽と、その管理

 挿し芽の方法と管理は、人によって様々です、皆さんそれぞれに研究され、良い成績  
を上げて居られますが、ある方法で良い成績を上げているのを見て真似ても、結果は
同じにはなりません、同じ方法で実施しても、管理や棚の環境でも、結果は違います。
同じ品種を二回に分けて挿し芽すると、片方だけ成績が良いと言う事も多々あります。
従って、これならと言う事は出来ません、参考意見として読んで下さい。          

 挿し芽の方法も人それぞれで、挿した葉にミズゴケを載せて安定や保湿を図る方法、また 
挿した鉢土全面にガーゼをかぶせて、葉先の密着を図る方法などあり、ガーゼの布目から
新芽が顔を出して成育し、良い成績を上げている人も居ますが、管理の相違か私の場合、
この様にすると、カビなどが生えて不本意な成績どころか、悪い結果になってしまいます。 

 挿し芽後の管理もそれぞれです、発芽までの約一ヶ月は、発泡スチールの中に入れて    
蓋をして、真っ暗にして置く方法や、鉢の上部をサランラップなどで蓋をして、通気用の穴を
開けて置く方法、ガラスで蓋をする方法、半透明の波型の屋根材を乗せて置く方法等あり、
良い成績を上げている方もいますが、良い成績を見て真似ても、結果は前述通り様々です。

ちなみに私の方法を説明しますと、欲張りな私は、
苗を沢山欲しいために40センチ×50センチの
挿し芽箱を用い、冬囲い用のビニールハウスの
骨組みの、屋根に当る部分にだけ、薄手の
作業用の青いビニールシート掛けて、直射日光の
当らない位置に蓋をせずに置きます。

四方は動物進入阻止の、粗めの網を張り、
通気を図っています。

  画像は以前の物で、置き場を縮小した現在は、10枚程度に数を減らし楽しんでいます。 


私の知り合いのある方は、私と同じ40センチ×50センチの挿し芽箱に、
粗めの鹿沼土を敷き、挿し芽と言うよりは、葉を置いただけと言いたい様な方法で、
ガラス蓋をして軒下の日陰で管理していますが、結構良い成績を上げています。

 欲張りな私は、大きな挿し芽箱を用いていますが、病気発生に気付かずに居ると、
発病した箱は、最初の発病から2〜3日で菌が回り、数日で全滅します。
安全を図るなら、5〜6寸浅鉢を用い幾つかに分けた方が、被害が少なくてすみます。

 私の挿し芽は、5月末から6月始めに行います。
地域や環境で違いは有りますが、あまり早くやっても、自然管理では大きな差は有りません、
葉を採る株の葉先が光り始めた頃が、最も良いようです。

 挿し芽に使用する親葉は、若い元気な株の下葉が、最も発芽率が良いようです。
株の芯に近い若い葉は発芽しません、中段の元気な葉を使用すると、生育の良い元気な
苗が得られますが、下葉に比べ発芽率が劣ります、お勧めは若株の下葉です。 
古い大株の下葉でも、胞子が付いていなければ大丈夫です。
※ 下葉とは、 古い葉の意味です。 葉重ねの下側になっているので下葉と言います。
 
 胞子の付いた葉でも、発芽率は落ちますが、発芽皆無と言う訳では有りません。 
以前に「菊水殿」「泰平冠」「春日錦」の三種で試して見たところ、胞子の付いた葉先からの
発芽は見られませんでしたが、三種とも葉の分岐部付近から発芽があり、発芽数は少な
かったが、普通の苗が得られました。 全ての品種に該当するかどうかは未確認です。
また、「高砂」や「天鵞絨」等、全葉先に白爪斑を持った葉でも、試してみましたが、
上記三種の胞子葉と同様に、分岐部付近から若干の発芽はありました。


私の挿し芽の手順

1 指し床として通常の植え土(鹿沼土)を、箱の半分(3〜4cm)程入れ散水しておく。
  (葉をとっている間に、ほどほどの水分になり、仕事がし易い)

2 水を入れた器に下葉を採って入れる、10分ほど経ってから挿し芽をする。
  (葉に水を吸わせて置くと、作業中に葉が縮むことを防げる)

3 挿し葉が斜めに置けるように、箱の端に極小粒の鹿沼土を一列に少量置き、
  その土を枕にして葉を一列並べ、葉元に少し土を被せる。
  一列目の葉元に掛けた土を枕に、2列目のに葉を並べて、また土を被せる。
  このようにして列状にして行きます。

4 並べ終わったなら、たっぷりと散水する。(土と葉が落ち着きます)
  このようにして、葉の半分ほどが土の中で、半分ほど地上に出た列にします。 
 (葉の裏表で結果に差は有りません、置いた時に葉先が浮かない向きが良い)

 置き場と管理 

 私の置き場と管理は前述の通り、蓋はしていません、直射日光の当らない、
明るい日陰におきます。
蓋をする管理では、蒸れに注意を要します、ガラス蓋を使用時には、季節による
太陽位置変化に注意して、差込み直射日光に当てぬよう、特に注意を要します。
(ガラス蓋をしたままで、直射日光の差込を受けた場合は、蒸れで全滅します)

 始めの1〜2週間は朝晩散水して、葉の乾燥を防ぎます。
その後は葉も土も落ち着き、乾燥速度が遅くなりますので、葉を乾燥させない頻度で
散水します。

 一ヶ月ほど過ぎて、葉先が変化を始める頃に、白い根が葉先から伸びてきます、
葉先があまり浮いている時は、その部分に少し増し土をして、白根の乾燥を防ぐ様に
して上げます。(増し土を入れすぎて、深植え状態にすると、逆効果になります)



9月始め頃には、次の写真のようになります。

写真の品種は、菊水殿で、写真上段中央の、
親葉が黒くなっている部分は、病気では無い
のですが、発芽後に親葉が枯れた物です。

この様になると新芽の生育は極端に悪くなります。

新芽が極小さい内に、この様に親葉が枯れた
場合は、取り除いた方が安全です。

病気の場合は新芽から、灰色が掛かった
変色をします。

日焼けした葉を使用すると、この様に成る確率が高いので、
挿し葉を採る株は日焼けを起こさないよう管理をした方が良いでしょう。

 この後も直射に当てずに管理して、そのままで休眠まで、肥料はやりません。
あまり遮光が強いと、苗は軟弱に徒長してしまいます、直射には当てませんが、
なるべく明るい管理を要します。
(秋に移植する人も居ますが、私の場合は結果が悪いので行いません)

 以上、あくまで参考意見です、環境によっても差が出ます。 
 
 
挿し芽の病気と対処  

写真の品種は「花車」撮影は8月下旬です。

写真のように、一部の新芽の緑色が、
ネズミ色に変色した時は病気です。

万一病気が発生した場合、早期発見早期対処が
必要です、放置すると一夜にして、苗箱の全体が
菌に侵されてしまいます。

見つけたらすぐに、ベンレートを粉末のまま、
病気で変色した隣の芽まで、覆うように
振り掛けて、その後散水してください。

病原菌は、すでに隣の芽に回っています、
必ず隣まで掛けること。これで回りは助かります。


希釈液でも一時は止まりますが再発します、粉末を振り掛けて散水して下さい。

 この写真の例は、発見が遅れ、被害が大きくなってしまいました。
最初の一芽の発病から、2〜3日気付かずに放置すると、全滅してしまいます。
病名は不勉強で解りませんが、兎に角、伝染が速い病原菌です、毎日注意して見て、
早期に発見して、早期に対処する事で、助かる部分は大きくなります。

  
    遅まきながら病気発見    病気の隣まで、ベンレートをかける

  
    粉末をかけて、散水する   病気が止まった3週間後の写真



 この方法の以前には、希釈液の消毒は勿論の事、発病部の土の入れ替え等もしましたが、
ほぼ全てが再発して全滅の被害に会い、発病した箱は諦める他には有りませんでした。

どうせ全滅するのだから、だめで元々と思い実施したこの方法が、大きな効果を
生みました、この方法が良い要因は解りませんが、粉末を掛けて置く事で、
散水毎に消毒効果が発揮されて、再発を防ぐのではないかと思っています。
 
 大きな箱で挿し芽をすると、挿し芽に病気が発生した場合には、
この様な結果になります、過湿にしないように注意して、管理してください。

安全を考えるなら、6寸程度の浅鉢で、幾つかに分けての挿し芽を、お勧めします。


休眠期の扱いとその後   

 春に挿し芽した物は、親株と同じに休眠させます。霜が降りる季節になったら水を断ち、
通気が図れて直射日光が避けられる位置で、来春の桜の開花まで休眠させます。

 桜の開花を待って水を与えると蘇生します、まだひ弱ですが一人前です。
将来の姿を想定した芽数に分けて、小鉢に植え替えて適度の肥料を与えます。

植え付ける鉢の準備ですが、2寸鉢に1株を植える場合
には、右の図の様な状態にします。

 先ず鉢底に中粒の鹿沼土を少し入れて、そこに元肥の
マグアンプK中粒を3〜4粒入れ、その上に1cm程中粒
の土を入れて肥料を覆い、その上に苗を植えつけます。

※ 植え付け時に苗の根に肥料が直接触れると、
悪い結果を招きますので注意の事。

根から肥料が離れていても、水に溶けた肥料成分は
無肥料域に浸透移行しますし、根は直ぐに伸びて
肥料の位置まで届きます。
私は横着者なので、後の植え替え手間を省く意味もあり、
鉢上げ時には上記の様に、2寸鉢(現在は硬質の
プラポット)の中央に、1株ずつ植えつけています。

鉢上げ育成には別の方法もあり、3寸前後の鉢を用いて、
右図の様に1鉢に数株を、鉢の縁に沿って植え付けると、
根が温まり易いためか、各芽が鉢縁伝いに根を伸ばし、
成績が良いようです。

右図の様に3寸前後の鉢に数株植える場合は、鉢の大き
さに応じて肥料を適宜増やす以外は上記と同じです。

 この時点ではまだひ弱な苗ですから、植え替えは根に付いた土をなるべく落とさぬ方法で
移植すると結果が良いようです。

土が濡れていた方が取り扱い中に土が落ち難いので、一つの方法として移植の掘り起こし
直前に、挿し芽鉢に水を与え土を濡らすと、根に付いた土が落ち難くなります。

 その後の管理として、ひ弱な1年生ですので、強健種でも直射日光は避け、
春から周年遮光管理下に置いた方が安全です。

ただし余り弱日では、葉は徒長して長くなりますが、根が発達せず軟弱なモヤシ状になり、
逆効果に成ります。 

 マグアンプKは長く効くので、その後は休眠まで水だけ与えれば大丈夫です。

こうして一年経つと大きくなりますので、翌年には同じ方法で株の大きさに準じ、
適当な鉢に一株ずつ植えつけます。

二年生に成ると、根も葉もしっかりしますので、品種に応じて徐々に強日に慣らします。



巻柏培養豆知識 へ


トップ・メニュー