絶対に受けたくない無駄な医療
2014年7月25日
獣医学科を卒業された先生が、米国の"Choosing Wisely"キャンペーンを題材に書かれた本です。
"Choosing Wisely"「賢く選ぼう」キャンペーンは、米国内科専門医認定機構財団という組織が中心となり、米国医学会の71学会が無駄な医療を順次公表していく計画だそうです。
無駄な医療を集めた衝撃のリストとのこと。
無駄な医療費を削減するという経済的な要請がベースにあります。
本書では100項目が挙げられています。
賛成できる部分と反対の部分もありますが、医療行為で論争があるテーマを知る目的で、良書であると思います。
いくつかの項目について私見を述べてみます。
受けたくない医療1 前立腺癌の検診のために安易にPSA検査をしない。
2000年代後半から2010年代前半にでてきた大規模臨床試験の結果、メリットがないことが判明してきた。
逆に過剰診断、過剰治療を誘発する害が明らかになってきた。
欧州の研究結果より計算すると、1人の前立腺癌の死亡を防ぐためには、1055人を11年間検査し続ける必要がある。すると、37人の前立腺癌を発見できて、1人の前立腺癌死を防ぐことができる。
米国臨床腫瘍学会「平均余命10年未満で、尿が出にくいといった前立腺癌に関係した症状のない男性に対しては、PSA検査をしてはならない」
受けたくない医療 15 肺癌のCT検診はガイドラインより頻繁に行わない。
最近、日米でCT検診が注目されているとのこと。ここではCT検査の害(放射線被爆)についてのべ、「検診は高リスクの人だけにとどめるべきであり、低リスクの人まで対象とするべきではない」としています。
もっともな見識と思います。医療者としては、CT検査が済んでいると安心できますが。
「肺癌のCT検診は、ほとんど無意味である(米国胸部医師学会、米国胸部学会)」
⇒55歳〜74歳のヘビースモーカー以外では効果が低い。
強い関心を集めたのは、英国のマーク・S・スピアース氏らが2012年に発表した研究と、オーストラリアのジョン・D・マシューズ氏2013年に発表した研究である。それぞれ約18万人、約68万人のCT検査をうけたことのある若者を対象にガンの危険度を調べたものだ。
結果として、英国の研究では、白血病や脳腫瘍が3倍近くも増えると分かった。オーストラリアの研究でもガンの増加が判明している。
受けたくない医療 17 大腸癌の内視鏡検査は10年に1回で十分
日本の臨床現場での状況と、解離がある意見です。
私はこの意見に賛成ですが、多くの消化器専門医は反対だと思います。
患者サイドの希望など、日本固有の状況もあると思います。
2005年における厚生労働省の研究班のガイドラインでは、検査間隔を5年あるいは10年としている。
(ポリープの状況などによって、検査間隔は変更されます。)
受けたくない医療22 ガンの骨転移に対する放射線治療の回数は少なめに
多数の研究をまとめた2012年の報告によると、1回だけ放射線を当てる場合と複数回当てる場合で痛みへの効果は変わらないと結論づけている。
これは知りませんでした。
受けたくない医療23 PETやCT検査などがん検診は控えよ
これは驚かれた方も多いのではと思います。
画像検査の専門的な学会である米国核医学・分子イメージング学会は、「PET検査は健康な人のがん検診に使ってはならない」とChoosing Wiselyで断言している。 その理由は健康な人で癌がみつかる可能性が極端に低いからだ。
被爆の問題もあり、検診でみんなが受けるべき検査ではないといったところでしょうか。
受けたくない医療24 余命10年未満の人への癌検診は控えよ
正しい意見と思いますが・・・。病気が見つかったときに、主治医は責められるのです。答は、患者さんの希望も聞きながら・・・でしょう?
受けたくない医療26 軽度の頭部外傷でCT検査をするべからず
割り箸事件のように、「CTも撮ってもらえなかった」といわれて、訴えられる状況もあります。
受けたくない医療27 風邪に抗菌薬は使わない
ごもっともです。が、風邪かどうかよくわからないこともあります(オカルトバクテレミア)。
「4歳以下の子どもの風邪に薬を使ってはいけない」(米国小児科学会)
受けたくない医療32 糖尿病では、スライディングスケール法を用いて血糖管理をしない。(血糖値を見て、インスリンの注射量を決定する)
糖質制限をしている場合、そもそも必要ありません。
受けたくない医療33 高齢者の場合、ヘモグロビンA1cは7.5%程度でよい
糖質制限をすれば、薬剤を服薬せずに、より安全にヘモグロビンA1cを下げれる。そもそもカロリー制限食(高糖質食)で治療していることが問題の本質と思います。
受けたくない医療34 2型糖尿病では、毎日の複数回の自己血糖測定は避ける
自己血糖測定は、基本的に必要です。何を食べたら血糖が上昇するか(食後血糖値)を知るためです。
中には、インスリン注射を打ちながら自己血糖測定をしていない患者さんもおられます。
血糖の動きが予測できるようになれば、もう測定する必要はないでしょう。
受けたくない医療 40 抗核抗体の詳細検査は安易にしない
ごもっともと思いました。検査の出し方のトレーニングが不足していたのが問題です。
受けたくない医療41 骨そしょう症でのDEXA法の検査は10年に1回
女性65歳以上、男性70歳以上に行う検査。繰り返す意味はないそうです。
受けたくない医療42 変形性膝関節症にグルコサミンやコンドロイチンは効果なし
テレビでよく広告しているサプリメントですね。
この本を読む人より、テレビの宣伝を見る人の方が何万倍か多いでしょう。
受けたくない医療 52 胃ろうは認知症では意味なし
これは乱暴な意見ではないでしょうか。 認知症自体のコントロールや改善が望める場合もありますし(コウノメソッド、ココナツオイル等)、それぞれの個別の状況(病気、重症度など)、考え方、哲学も無視しています。死生観に関する問題でもあり、慎重に議論したほうが良いと思います。
受けたくない医療 53 胸焼けに安易に薬を使わない
胸焼けには糖質制限でしょう。
受けたくない医療58 気管支炎の子どもに気管支拡張薬を使わない
よくホクナリンテープを小児科で処方されています。
成人では、喘息でなければあまり使いません。
どうもあまり効果がないようです。
受けたくない医療59 酸素補充を受けていないのに、急性呼吸器疾患の子どものパルスオキシメトリーを実施しない
うーん、全く同意できません。酸素飽和度はとても大事な検査だと思います。(呼吸数と組み合わせて考える)。
受けたくない医療63 抗精神病薬は安易に処方しない
近年、よく問題になっている点です。米国人は日本人以上に抗精神病薬を内服しているのでしょうか?
受けたくない医療67不眠症治療の最初の薬剤として抗精神病薬は使うべからず
うーん、使っています。
受けたくない医療70
頭痛に市販薬を長々と使わない
多くは片頭痛持ちの人でしょう。
片頭痛には糖質制限を
受けたくない医療71 切り札として使う場合を除いて、オピオイドやバルビツール酸系鎮痛薬は使わない。
日本では頭痛にこんな薬は使われてないと思います。
受けたくない医療74 認知症でPET検査の場合はまず専門家の診断を
認知症には画像診断よりコウノメソッドを(画像も一度は必要ですが)
受けたくない医療76 精神症状の異常が見られても、認知症患者への抗精神病薬は慎重に
とても大切な見解ではないかと思います。認知症治療学はまだ新しい学問であり、マニュアルが必要なのだと思います。
受けたくない医療77 じんましんの診断で安易な検査はダメ
特異的IgE検査がよく行われます。希望される患者さんも多いです。ですが、確かに役立たずのことが多いとは思います。
頼まれたらしないわけにも・・・・。
受けたくない医療80 手術の切り傷に抗菌薬を塗らない
湿潤療法(夏井睦先生提唱)では常識です。抗菌薬が必要な場合は内服か点滴です。
受けたくない医療91 サプリメントは健康維持に効果なし
一言でサプリメントといってしまうと大雑把すぎる気がします。
統合失調症に対するビタミンB3や認知症に対するフェルガードなど評価があるサプリメントもあると思います。(漢方も一種のサプリメントですね。)
受けたくない医療94 超高齢者にLDLコレステロールを下げる薬は無用
基本的に75歳以上にスタチンが有効であるというデータはない。85歳以上では薬剤によるリスクが高まる。
そもそも、スタチンは必要か?と最近は思います。それより糖質制限でしょう。
受けたくない医療95 症状がなければ頚動脈狭窄は問題なし
無症状の患者に頚動脈剥離術を実施するのに妥当と考えれているのは70%を超える狭窄があり、そのうえで手術の合併症が低いと見込まれる場合と示している。
医療サイドとしては、特別意外な感じがする意見は少ないと感じました。
どちらにしても、医療サイドと患者サイドのコミュニュケーションが最も大切ということでしょうか。