第33回日本思春期学会総会・学術集会 Medical Tribune 2014.10.02
筑波大学産科婦人科准教授の松本光司氏は今年7月までの厚生労働省発表のヒトパピローマウイルスワクチン副反応報告を解析し「接種後の広範な疼痛や運動障害の報告例の中には複合性局所疼痛症候群(CRPS)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの自然発症が紛れ込んでいる可能性がある。
患者サポート体制の整備も進みつつあり、HPVワクチンの積極的接種勧奨を再開すべきではないか」と、第33回日本思春期学会総会・学術集会(8月30〜31日、会長=筑波大学産業精神医学・宇宙医学教授・松崎一葉氏)で主張した。
自然発症より低い発現率
昨年6月の厚労省による積極的な接種勧奨の中止を受け、HPVワクチン出荷数量はそれまでの平均の約24分の1に激減。事実上、同ワクチン接種はストップしている状況である。問題となっているのは接種後の感覚麻痺、四肢痛、接種部位以外の疼痛、運動障害であり、CRPS, 繊維筋痛症(FMS)、ADEM、ギランバレー症候群、転換性障害などの病態が生じていると考えられている。
そこで、松本氏は第6回および第10回厚労省ワクチン副反応検討部会(2013年12月、2014年7月)で公表されたデータ(以下、厚労省データ)を解析し、各病態の自然発症率との比較を試みた。まず、厚労省データから広範な疼痛・運動障害例のみを抽出。医師評価されている176例(疼痛例127例、運動障害群49例)について検討した。
疼痛群についてはCRPSが17例(0.2/10万回)であった。CRPSと確定できないが広範な疼痛を接種後4週間以内に訴えている症例を含めると81例(0.9/10万回)であった。これに対し10歳代女性におけるCRPS自然発症率はオランダのデータで14.9/10万人年(pain 2007;129:12-20)。ちなみに厚労省データにおける発症率はカナダで検討されたB型肝炎ワクチン接種後の女児における発症率0.8/10万回(J Pediatr?2003; 143:802-804)と同等で、CRPSは献血後にもごくまれに生じることから、ワクチンの成分は問題ないと考えられた。
?FMSと診断されたのは厚労省データでは4例(0.004/10万回)で、広範な疼痛を全て含めても1.4/10万回。我が国の10歳代女性のFMS発症率1,760/10万人年(2009年日本繊維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査)を踏まえると、厚労省データに自然発症の紛れ込みがあっても不思議ではない。
次に運動障害群49例について検討すると、厚労省データではAEDEM5例(0.05/10万回)、GBS14例(0.15/10万回)が報告されており、ムンプスワクチンや水痘ワクチンの接種後と差はない。接種後におけるADEMとGBSの発現頻度を合計しても0.2/10万回であり、自然発症率である0.86/10万人年(ADEM 0.4/10万人年、GBS 0.46/10万人年)より低い。転換性障害(類似疾患を含む)は厚労省データの7例(0.07/10万回)に対し、10-15歳女子の推定罹患率は7.1/10万人年(J Am Acad Child Adolese Psychiatry 2007;46:68-75)で、ここでも自然発症の紛れ込みの可能性を払拭できそうにない。
「接種後の発症」 ノットイコール「接種が原因」
さらに、中和抗体価および有害事象発生率が大きく異なるとされる2価ワクチンと4価ワクチンで、広範な疼痛、運動障害の発生頻度に差が見られなかったことも、ワクチン成分が原因ではない可能性を示唆している。
10万人の思春期女性がHPVワクチンの3回接種を受けた場合、接種後に広範な疼痛・運動障害(接種後4週間以内に発現、3ヶ月以上持続)が1.8人で起こると推定されるが、松本氏は「接種後の副反応への対応と診療体制の構築が進展しつつある今、ワクチンによる子宮頸がん発症予防効果(34歳までに10万人あたり約50人で浸潤がんを、約30人で上皮内がんを予防)を踏まえ、厚労省には積極的接種勧奨の再会を期待したい。
ワクチン接種後に発生したものとワクチンによって引き起こされたものは同じではない」と強調した。