2014年4月28日

  本日、藤川徳美先生 の投稿が河野先生のブログに掲載されています。

ケトン食についてのすばらしいまとめです。以下引用させていただきました。



糖質制限食(ケトン食)の基礎知識と最近の話題



<糖質制限食(ケトン食)の基礎知識>

1)草食動物と肉食動物

 牛やネズミなど草食動物は発酵などにより糖質から蛋白質を作ることができる。ヒトは糖質から蛋白質を作ることができない。つまりヒトはライオンと食性は同じ肉食動物。  つまり、ネズミの実験をヒトに当てはめるのは食性が異なるのでナンセンス。



2)体内のブドウ糖とバックアップシステム

 血糖値100mg/dl=血液5l中にブドウ糖5g(20Kcal)

 肝、筋肉のグリコーゲン300g(1200Kcal)
 インスリン:グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール等で血糖調整

 糖新生とβ酸化

 体内の糖質が少なくなると、A)アミノ酸から糖新生され、B)脂肪酸がβ酸化されてケトン体(βヒドロキシ酪酸)が作られる。ケトン体は赤血球以外の全ての臓器でブドウ糖の代わりにエネルギーとしてTCA回路に入り利用される。

 ”脳はブドウしか利用できない”と言うのは嘘。



  3)糖質制限とケトン体値 

 糖質摂取を制限すると、血中ケトン体上昇する。糖質を通常に摂取している場合にはケトン体は<100、緩やかな糖質制限の場合には300-600、厳格な糖質制限の場合には1000-3000。インスリン基礎分泌が保たれている人はケトアシドーシスにはならない。



4)ケトン食

 「ケトン食」というのは、体内でケトン体が多く産生されるように考案された食事。

 てんかん発作が絶食によって減少することは古くから知られていた。そして、「脂肪を多く炭水化物の少ない食事を摂れば、絶食と同等の効果が得られる」という考えのもとに、1920年代に米国のメイヨークリニックで難治性てんかんに対する食事療法としてケトン食療法(ketogenic diet)が発案された。

 1960年代には中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪酸中性脂肪)を使うとケトン体の産生効率が高いことが明らかになり、中鎖脂肪酸トリグリセリドを利用したケトン食療法も行われている。

 ガン細胞はエネルギーとしてブドウ糖しか利用できないが、正常細胞はブドウ糖と伴にケトン体も利用できるため、糖質制限(ケトン食)の抗ガン作用が期待されている。



<最近の話題>

1)ヒトの非小細胞性肺ガンを対象として、ケトン食の治験が2011年8月始まった。アイオワ大とNIHの共同研究。



2) ケトン食が2010年版COCHRANE LIBRARLY(コクラン ライブラリー)と、2011年版NICE(英国政府ガイドライン)の、難治性小児てんかん治療に採用された。ケトン食は、総摂取カロリーの75-80%が脂質という、究極のスーパー糖質制限食。



3)2013年3月ピッツバーグ大学で進行癌にケトン食の治験が開始された。

 大腸癌・前立腺癌・脳腫瘍・乳癌・膵癌・肝胆道癌・悪性黒色腫・肉腫・肺癌(非小細胞/小細胞)・泌尿生殖器癌が対象。すなわち殆ど全ての癌が対象。



4)βヒドロキシ酪酸はヒストンのアセチル化を亢進する:ケトン食の酸化ストレス軽減作用(2013年2月)

島津忠広(理化学研究所・Gladstone Institute of Virology and Immunology)の論文:Science, 339, 211-214 (2013)



哺乳類の血中にはβヒドロキシ酪酸がmMのオーダーで存在する。

図:絶食や飢餓やケトン食によってβヒドロキシ酪酸の濃度が上昇すると、ヒストン脱アセチル化酵素が阻害される。これによって遺伝子プロモーター領域のヒストンが高アセチル化し、転写因子FOXOが活性化され、Mnスーパーオキシドジスムターゼ(Mn-SOD)やカタラーゼの発現を誘導し、酸化ストレスに対して耐性が増強する。ケトン食による寿命延長作用や抗がん作用のメカニズムの一つにヒストン脱アセチル化酵素の阻害作用が報告されている。



5)ケトン食はアルツハイマー病の治療に有効

 ケトン体は脳神経のエネルギー代謝を改善し、活性酸素や炎症から神経細胞を保護する作用があるので、ケトン食にアルツハイマー病やパーキンソン病や脳卒中等を原因とする脳神経細胞障害の進行抑制にも利用されている。


 ケトン食が認知障害の改善に有効であることが臨床試験で示されている。
Dietary ketosis enhances memory in mild cognitive impairment.(食事性ケトーシスは軽度認知 障害の記憶力を増強する)Neurobiol Aging 33(2):425.e19 ? 425.e27, 2012。

 この論文では軽度の認知障害のある23人(男性10人、女性13人:平均年齢70.1±6.2)を対象に、高糖質食と低糖質食の2群に分けて6週間の食事療法を行った。その結果、低糖質食のグループでは、言語記憶能力の統計的有意な改善を認め、さらに、体重、腹囲、空腹時血糖、空腹時インスリン値の統計的有意な減少が認められた。




6)中鎖脂肪酸トリグリセリドはアルツハイマー病の治療に使われている

米国では中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪酸中性脂肪)のカプリル酸トリグリセリドがアルツハイマー病の治療に有効な医療食( medical food) として認可されている(2009年3月にFDAが認可)。



7)ケトン食が自閉症の症状を改善する

ケトン食が、自閉症にも効果があることを示唆する臨床試験の結果も報告されている。
以下のような論文があります。

Application of a ketogenic diet in children with autistic behavior: pilot study.(自閉症の子供に対するケトン食の適用:予備試験)J Child Neurol 18(2)/113-8, 2003。