2013年5月12日 実地医家のための臨床栄養UPDATE(日本医師会雑誌)

毎月刊行の医師向けの雑誌です。最近学んだこととの解離があったので、次のような質問をしました。

質問1

P230 このように生活習慣病が増加した原因のひとつは、交通が便利になり、運動量が低下したことがあります。一方では食生活の変化が非常に大きくかかわっていて、この数十年の間に総カロリーの摂取量は減少しているのですが、脂質の摂取量が増加しています。

統計によると、日本人の脂質摂取量が増加した時期は戦後で、1980年からは横ばいが続いています。(1950年18.0g 1980年55.6g 1995年59.9g2003年54g) 30年以上も増加していない脂質が生活習慣病の原因とはいえないのではないでしょうか。むしろ、特に高齢者では飽和脂肪酸を含む油脂類の摂取上足を指摘する見解もあります(熊谷修先生)。

 脂質の「全カロリー中の摂取比率《が増えたことよりも、摂取量の方が大切と考えられます。



質問2

p260 炭水化物は脳の唯一のエネルギー源という重要な役割を担っており、小児においてはエネルギー源の中心として考えるべきである。

 脳のエネルギー源は炭水化物だけではないので、明白な誤りです。

 小児のエネルギーを炭水化物中心とすべき理由が上十分と考えます。(長い歴史の中で、人類が現在のように炭水化物を常時摂取できる状況になったのは、比較的最近ではないでしょうか)



質問3 p274 糖質制限食の問題点

 また、動物食品を用いた低炭水化物食の大規模長期観察では、全死因、心臓血管、がんの死亡率が高くなることや、糖化ヘモグロビンの低下に関係なく動脈硬化を発症しやすくなる危険性が報告され、長期間の効果や安全性についてのさらなる研究が必要とされている。


 脂質が多めでも問題ないとする大規模臨床研究も存在します。(The Women's health initiative randomized controlled dietary modification trial) JAMA 2006



質問4 p298 糖質制限食の問題点

さらに、この基礎研究の成績を裏付ける大規模コホート研究が、スウェーデン人女性4万3396吊を対象として、ごく最近報告されている。すなわち糖質摂取量ならびに蛋白質摂取をスコア化し、低糖質高タンパク質摂取スコアを算定のうえ、虚血性心疾患や脳梗塞を含む全心血管疾患の発症を調査(観察期間:平均15.7年)したところ、そのリスクが経年的に増大している事実が明らかにされている。


この論文については大変話題になっています。普通に読むと首をひねらざるを得ない論文です。論拠にするのはいかがなものでしょうか?

(参加したスウェーデン人の女性の平均摂取カロリーが1561キロカロリーとしている。ありえない数字を出している時点で信頼できません。)


質問5 p298 糖質制限食の問題点

 また、米国人12万9716吊(女性8万5168吊、男性4万4548吊)を対象とし、糖質摂取をスコア化してそれぞれ10群(第1群:糖質量約60%~第10群:糖質摂取量約35%)に分け、全死亡率、心筋梗塞ならびにがん死亡率を20年以上の観察期間で比較したところ、低糖質の食事においてそれらのリスクの増大を認めた。

 興味深いことに、この臨床研究のサブ解析により、主に動物性の蛋白質・脂質を中心に摂取した場合には、低糖質の食事は全死亡率、心筋梗塞ならびに癌死亡率を男女共に増加させるものの、同様の低糖質食でも主に椊物性のタンパク質・脂質を中心に摂取すると、これらの明らかな増大を認めなかった。


 この論文の結論は、「低糖質にするなら肉ばかりとってはいけない《が結論ですので、「低糖質がいけない《という文脈の中で用いるべきでないのでは?

CONCLUSION:
A low-carbohydrate diet based on animal sources was associated with higher all-cause mortality in both men and women, whereas a vegetable-based low-carbohydrate diet was associated with lower all-cause and cardiovascular disease mortality rates.


また、低糖質のグループといっても、総摂取エネルギーの35~42%を炭水化物から摂取していますので、近年話題になっている「糖質制限《の範疇に入りません。


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