2013年3月5日
肉や卵やバター、牛乳に多く含まれる飽和脂肪酸の摂取量と血管病の関連について。
「飽和脂肪酸の摂取は脳出血だけでなく脳梗塞による死亡リスクの低下と関連する」が結論でした。
日本における大規模疫学調査(JACC study)ホームページより引用
飽和脂肪酸摂取と脳卒中・心疾患死亡 山岸良匡
飽和脂肪酸は肉やバター、牛乳などに多く含まれ、血中のコレステロールを強力に上昇させる作用があることから、動脈硬化予防のために摂取量を少なくすることが推奨されてきました。その一方で、飽和脂肪酸の摂取量が少ない場合、脳出血になりやすくなることも知られています。
日本人では、欧米人よりも飽和脂肪酸の摂取が少なく、このために欧米よりも脳出血が多いのではないかと考えられています。他方、日本人のような全体的に飽和脂肪酸の摂取量が少ない集団で、飽和脂肪酸摂取が比較的多いことが脳梗塞や心疾患のリスクを増大させるかどうかについては、これまであまりわかっていませんでした。そこで今回は、飽和脂肪酸の摂取が、日本人において脳卒中や心臓病による死亡にどれだけ影響するのかを調べました。(American Journal of Clinical Nutrition 2010; 92: 759-765.)
公表されている研究成果へ
飽和脂肪酸の摂取は脳出血だけでなく脳梗塞による死亡リスクの低下と関連する
アンケートで日々の食生活についてお尋ねし、有効な回答が得られた約5万8千人の結果から、1日あたりの飽和脂肪酸を摂っている量を計算しました。その量に応じて、アンケートに答えた人を少ない人から多い人へ5つのグループに分け、その後の16年間に循環器疾患(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞など)で亡くなった人の割合を比べました。
その結果、下図のように1日に食べる飽和脂肪酸が増えるにつれ、脳出血や脳梗塞による死亡リスクは減少していました。特に、飽和脂肪酸の摂取量が最も多いグループの脳出血・脳梗塞による死亡率は、最も少ないグループに比べ約40〜50%低くなっていました。
一方、飽和脂肪酸を多く摂ると心筋梗塞などの心疾患のリスクが高くなると考えられてきましたが、今回の集団では、そのような関連は見られませんでした。
この研究の意義と解釈
飽和脂肪酸は、欧米では心筋梗塞や脳卒中のリスク因子と考えられており、今回の結果は常識に反するように思われるかも知れませんが、最近の欧米の疫学研究の結果からも、飽和脂肪酸を多く摂ることが脳卒中のリスクを高くするとする結果はほとんど得られていません。また、心筋梗塞についても、あまり関係がないとする報告が多くなっています。しかしながら、この点については、現段階では学問的に決着がついていません。また、例えば経済的に余裕のある人、脂質異常などを指摘されていない人は肉などの飽和脂肪酸を多く含む食品を多く摂っていて、そのことが今回の結果に影響を及ぼした可能性もあります。
飽和脂肪酸の摂取が血液中の総(LDL-)コレステロールの増加に働くこと、さらに血液中のコレステロールが非常に高い人では心筋梗塞になりやすいことは、これまでの研究でほぼ一致していますので、今回の結果から、「飽和脂肪酸をたくさんとればとるほどよい」とは解釈するべきではありません。一方で、むやみに制限するのもよくありません。今回の結果は、「血液中のコレステロールは高すぎても低すぎてもよくない」という考えとよく一致しています。飽和脂肪酸は肉や牛乳などに多く含まれますが、これらは「多すぎても少なすぎてもよくない」食品ですので、適切な量を取り入れるようにしましょう。
また、血液の総(LDL-)コレステロール値の高い人や、脳卒中、心臓病などの持病のある人には、今回の研究結果をそのまま適用することはできませんので、主治医の先生の指示に従うようにして下さい。