日経メディカル 2014.11月号 33ページより
日本高血圧学会の理事長が交代
他の理事居座りで改革実行に疑問符
一連の研究不正の発覚を機に、それらに学会幹部が関わっていたなどとして内外から批判を浴びている日本高血圧学会。活動の大きな成果である「高血圧治療ガイドライン 2014」にさえも、製薬企業との癒着の産物ではないかという疑念が投げかけられ、高血圧診療に取り組む第一線の医師からは「ガイドラインを本当に信用していいのか」という声も聞こえてくる。
こうした中、9月23日の臨時理事会で、理事長だった堀内正嗣氏が辞任。代わって理事長に就任した横浜市立大学の梅村敏氏の下、倫理行動規範の作成など数々の改革案実行を打ち出し、再出発を図る姿勢を鮮明にした。
10月19日、日本高血圧学会は学術集会に合わせて開催した総会で、理事長退任を承認した。総会の席上、前理事長は「退任」のコメントを発表した。参加した理事らによると、「日本高血圧学会への批判に対して学会として対応ができず、混乱を招いた」というのが退任の理由だった。
出席者からは、「引責辞任であれば、会員や国民に謝罪があっていいのではないか」などとする質問があったという。これを受けて新理事長が発言を促したが、前理事長は口を閉ざしたままだった。
この沈黙は難だったのか。学会終了後に、堀内氏に取材を申し込んだが、回答は得られていない。
理事長交代の発端は、5月24日に公表された日本高血圧学会の「臨床研究に関わるあり方委員会」による提言に遡る。この発表を機に改革実行が加速すると期待されたが、その後有効な対策は何も打ち出されなかった。
直後のアテネで開催された欧州高血圧学会には、理事会メンバーの多くが参加していた。現地では誰彼となく、今後の学会に行く末について意見が交わされたという。そうした話し合いの中で共通していたのが、「このままでは、日本高血圧学会が世間から見放されてしまうのではないか」という強い危機感だった。
その危機感が具体的な行動につながっていく。7月に入り、理事の大半が署名した「高血圧学会が生まれ変わるための意見」が理事長宛にて提出された。意見書は1日も早い信頼回復のため「理事長あるいは理事全員の一からの出直し」を含めて、学会の改革を議論するよう求めていた。その後、数人の名誉会員が連名で、同様の意見書を提出するという事態に至った。
これを受け、8月の定例理事会では、前理事長の体調不要を理由に、新理事長が決定するまでは今年度の学会長が理事長職を代行することになった。同時に、臨床研究のあり方および倫理行動規範の策定、役員選任などに関する規約の改訂、迅速かつ適正な広報耐性の確立などについて早急な対応を図ることが申し合わされた。
そして9月23日。臨時理事会が開催され、理事長の交代が正式に決まった。また、会員から透明性の向上の要望があがっていた役員からの選任方法については、新たにワーキンググループを組織し、各学会の規定などを参考に作業を進めることとなった。
だが、全ての会員がこれらの対応に納得しているわけではない。執行部の責任をただしてきた若手医師の一人は、「研究不正に関わった人がいまだに理事に居座っている。学会の自浄能力のなさを証明した」と突き放す。また、学会のこうした対応では、「例えば国が進めている新専門医制度からも取り残されてしまうのではないか」と懸念する医師もいる。
理事長交代を機に、矢継ぎ早に改革案を繰り出す日本高血圧学会。しかし、これから学会をけん引することになる若手医師からは、改革実現をあきらめる声も聞こえてくる。執行部にこうした声は届いているのだろうか。(三和 護)
