☆ どうぶつたちの今 ☆        ティアハイム ・・・ ドイツの犬事情 ・・・
 前回のコラムではドイツの犬事情について簡単にご紹介しました。今回はそのなかで少し触れたドイツの「ティアハイム(動物保護施設)」について詳しくお話ししましょう。

 さて、ドイツのティアハイムについて詳しいお話をする前に、日本の各自治体の動物行政の現状をご存知でしょうか。

 日本では、捨てられたり、迷子になったり、何かしらの理由で飼い主と別離を強いられた犬や猫たちが、通報による捕獲、警察に拾得物として届け出、飼い主の放棄などで、動物愛護センターや動物指導センター(自治体によって名称は異なる)に収容された場合、その子たちを待ち受ける運命とは・・・そう、殺処分です。その数なんと年間約44万頭(平成15年度ALIVE調べ)。つまり、かわいがっている自分のワンちゃんが迷子になり、不幸にも見つからなかった場合も同様、このような運命を辿る可能性があるということです。日本で動物の殺処分がなくならない以上、避けられない現実なのです。

施設に収容された犬・猫のなかには、生まれたばかりの子犬や子猫もたくさんいて、その怯えた表情は「僕たちは何で生まれてきたの?」と、私たちに訴えているようにさえ感じられます。もちろん子犬・子猫に限らず、成犬・成猫も同様ですが・・・。
こんな悲惨な状況が現実にある日本。一方で犬先進国ドイツのティアハイムはというと、絶対に動物たちが殺処分されることはありません。皆さんはこの違いを、どのように受け止められるでしょうか。


指導センターに収容された犬たち・・・
この子達に未来はない。毎日死へと近づいていく。
この子たちは、もう・・すでにこの世にはいない・・・。

ガス庫・・・
この中で多くの犬猫たちは、炭酸ガスによって殺されていく。
安楽死ではない。

炭酸ガスによって殺処分された犬猫たちは、火葬され、
天へと旅立っていく。

遺骨は何の供養もされず、産業廃棄物として処分される。 
何のために生まれてきたのか・・・。

ドイツの動物愛護の精神を表すティアハイム
 繰り返しになりますが、ティアハイムとはドイツの各主要都市にある動物保護施設。そこに収容されるのは犬・猫だけでなく、ハツカネズミ、野鳥、うさぎなど様々な種類の動物がいます。人間が“ペット”として飼う動物に関してはすべて責任を持つ、ということなのでしょう。
 
なかでもベルリンにある「ティアハイム・ベルリン」は、サッカー場30個分の広さを誇り、1日約1000頭、年間では2万頭もの動物たちが暮らしています。建物の中は、犬舎、猫舎、小動物舎、鳥舎と区分けされ、それぞれが清潔・快適に保たれています。施設内にはペットグッズを販売しているショップ、最新設備が完備された動物病院までもあり、専属獣医師が常勤しています。
 
 建物自体もまるで有名建築家が手がけた美術館のように洗練されおり、さらには、私たちの想像をはるかに超えた機能が完備。円形の犬舎がいくつも輪状に並び、その周りを広い池が囲んでおり、犬の鳴き声が付近の迷惑とならないよう防音効果があるというから驚きです。さらには、犬の数分“部屋”があり、その部屋と庭は出入り自由になっているため、犬たちは自由に遊ぶこともでき、また静かに且つ安心して寝ることもできるのです。

 猫舎はというと、その大きさなんと全長100m。訪れた人々が猫の姿をしっかり見られるようにガラス張りになっています。犬舎同様、屋外の部屋と行き来が自由なので、猫にとってもストレスが溜まりにくい環境が用意されているのです。

 このように、ティアハイムには日本の保護施設の「悲惨な光景を目の当たりにできない」「近寄りがたい」といったイメージは一切なく、むしろ多くの人が運命の“わが子”を探しに、気軽にそして前向きな気持ちで訪れることができるのです。

どんなときも、犬・猫の幸せを一番に考えるドイツ
 さて、ワケあってティアハイムにやってきた犬・猫たちは、そこでどんな生活を送ることになるのでしょうか。
 まず初めに、身元がわからない動物たちは職員によって名前が付けられます。処分を待つだけの日本とは大違い! と同時に、マイクロチップが装着されるのです(日本でも最近話題になりつつあるマイクロチップ。詳しくは今後)。

その後動物たちはすぐに舎に移動するのではなく、健康診断を受けるため検疫舎で数日過ごします。ここへ来る動物たちは必ずしも健康とは限らず、病気持ちの子たちもいます。すぐに舎に移しては病気が感染してしまう恐れもあるため、まずは検疫舎で診断を受け、その後適切な処置を施されるのです。またこれにはもう一つの意味が。それは、“新入り”を“先輩”たちがいる環境にポーンと放り込むのではなく、まずは検疫舎で少し落ち着かせてから徐々に慣らしていくという配慮。これまた犬先進国のドイツらしさが伺えます。

可能な限り犬たちが快適に暮らせるよう配慮されたティアハイム。とはいえやはり犬たちだって家族と一緒に温かい家庭で暮らすのが一番幸せ。そんな温かい家族の一員に迎え入れようと、ティアハイムには毎日多くの人が訪れます。しかし、いくら希望者がいるからといって、安易に犬たちを手渡すわけではありません。犬たちが二度と同じ運命を辿らないよう、係員たちが厳重な審査を行います。そのため、ドイツ人にとって、ティアハイムから犬・猫を引き取ることが一種のステータスであるとも言われています。というのも、厳重な審査を通り、犬・猫を幸せにできる飼い主であるとお墨付きをもらったことになるから。

また、訪問者のなかで迷っている人がいれば、係員は熱心にアドバイスもします。自分たちのライフスタイルに合った子が見つかるまで、またきちんと育てられるという覚悟や決心がつくまで何度も何度も施設を訪れる人が多く、なかには、先住犬を連れてきて相性を見る人もいるそうです。

一方で今日本では、ペットに対する意識が高まったとはいえ、人気の犬種を飼うことが一部の人のなかでステータスになっていないかと、私は危惧しています。好きな犬種がいること自体決して悪いとは言いません。しかしそうしたブームが、犬を家族としてではなく、“モノ”として見ることに拍車をかけることにはならないか・・・と心配になるのです。というのも、最近私たちの団体で保護する犬の半分は、一時期ブームといわれていた犬種だから・・・。

今回は、皆さんに直接「ティアハイム ベルリン」のホームページに飛んでいただき、
ドイツの実情をしっかり見て欲しいと思います。
 では、どうぞ・・・↓
ティアハイム 犬猫の収容棟1 ティアアハイム 犬猫の収容棟2
ティアハイムの風景 ワンコ・にゃんこたちのフォトギャラリー
ティアハイム 2002夏 ティアハイム ショップ
2回に渡ってご紹介してきましたドイツの犬事情。次回は「子供と犬はドイツ人に育てさせろ」と題して「しつけとノーリード」について、またその次は「ドイツと日本の動物保護法の違い」について見ていきます。今後はドイツ以外の国の犬事情や国内にも目を向けていきますので、
乞うご期待!!
   (文責: ペットジャーナリスト Nao)