表2ーA 国郡司制における監察手段及び規律の発動事例

年次 対象行為 対象 監察手段 規律 備考 出典
1 701(大宝元) 大税貯置の闕怠 国宰・郡司   ・事に随い「科断」
・大宝律令施行以前(律未施行*1))
・六月己酉条
2 704(慶雲元) 水旱虫霜不熟の把握 国司 ・50戸以上は、預め太政官に報告
・50戸以下は、国司が処分し、太政官に申し、実情を考文に付す
× ・50戸以上は太政官が処分
・300戸以上は奏聞 
・「六月一九日格」(『令集解』賦役令9水旱条諸説)
3 707(慶雲3) 水旱虫霜不熟の把握 国司 太政官に報告・奏聞 × ・№2の補強
・太政官への報告は九月以前に行う 
・「九月二〇日官符」(『三代格』巻一五)
4 708(和銅元) 大税管理 国郡司 税文・倉案に人・時・定倉を注す × ・不動倉を定める ・「閏八月一〇日官符」(『延暦』22)
5 709(和銅2) 百姓による浮浪・逃亡の私用を糺さず 国司(近江・畿内) 検括した、違反の百姓を申報 ・法により「科附」 ・一〇月丙申条
6 712(和銅5) 大税賑貸の不正 国郡司等  
《(ア)》
・枉げて利を収めた場合には「(処罰は)重きを以て論ず」
・律発動の可能性が高い
・五月辛巳条
7 712(和銅5) ・律令に熟さず
・使人が不適格
・不正発覚
国司等 考課などを考状に付す (ア) ・「使人が不適格」であった場合、「所由官人(国司等)」と使人に(ア)を発動(「律により科断」)
・国司は、毎年、考状を送り、巡察使の所見と勘会
・五月乙酉条
8 713(和銅6) 銭を用いない田の売買 郡司   (ウ) ・検校を加えず、違うこと一〇事以上の場合、(ウ)を発動
・九事以下ならば考第を降す
・国司は、式部省が違を数えて考に附す
・三月壬午条
9 714(和銅7) 関を過ぎた商旅の把握 国司(伊勢・美濃・越前) 審らかに勘捜を加え、使に附して言上 × ・関を管する国司が対象 ・二月庚寅条
 10 714(和銅7) 絁などの儲備 国郡司(対象は限定)   (ウ) ・虚偽報告の場合、(ウ)を発動
・調として絁などを輸す国が対象
・よく儲けた者には考一等を加える
・二月辛卯条
11 715(和銅8) 浮浪人からの調庸徴収 国司等 国郡姓名を録し、調使に付し報告 × ・浮浪逗留三月以上から徴収 ・五月辛巳朔条
・「五月一日格」(『三代格』巻一七。「弘仁二年八月一一日官符」所引)
 12 715(霊亀元) 田疇荒廃など 国郡司 国郡司を三等級で評価 〈(ウ)〉 ・死者一〇人以上の場合、(ウ)を発動
・「意識の内部の支配」と重複
・五月辛巳朔条
13 715(霊亀元) 四民の徒、流散 国郡司  
《(ア)》
・「顕戮を加う」 ・五月辛巳朔条
14 715(霊亀元) ・調庸運輸の違期
・庸の海上輸送の委託
国司等   ○・〈(イ)〉
《(ア)》
・罪については「重きを以て論じ」、節級して「罪科せよ」
・律発動の可能性が強い
・海上輸送による損害は、国司が「徴す」(正倉への補填ではないが、(イ)に准ずるものと見ておく)
・五月甲午条
15 715(霊亀元) 器仗の営造 国司等(六道) 「様」を貢す × ・巡察使が校勘 ・五月甲午条
 16 716(霊亀2) 脚夫の備儲の確認 国司 上京の際、所司親臨 × ・功課を判定し黜陟 ・四月乙丑条
17 716(霊亀2) 計帳虚偽記載 国郡司 豊倹などの言上 ×   ・四月乙丑条
18 716(霊亀2) 合併すべき寺家と財物の把握 国司等 使に附して奏聞 ×   ・五月庚寅条
19 717(霊亀3) 租帳・青苗簿虚偽記載 国郡司   (ウ) 事条数に准じ、(ウ)を発動 ・「五月一一日勅」(『三代格』巻一五)
20 721(養老5) 浮浪人の把握 国司等 当処に編附 × ・「本土」へ逓送するか、当処にて編附  ・「四月二七日格」(『三代格』巻一二。№32勅所引))
21 722(養老6) 監臨して盗を犯す 周防守   〈(ア)・(イ)〉 ・周防(前)守山田御方に(ア)(「除免」)を発動し、「備贓」
・「備贓」が正倉への補填かは不明だが、(イ)に准ずるものと見ておく
・いずれも、「恩降」「恩寵」により免除
・個別事例
・四月庚寅条
22 722(養老6) 開墾の逗留 国郡司   (ウ) ・百万町歩開墾計画
・詐り開墾を遅らす場合、(ウ)を発動
・閏四月乙丑条
23 722(養老6) 国内の僧尼の監察 専当国司?   (ウ) ・判官一人を遣わし、国内の僧尼を監察
・僧尼令を遵守しない僧尼がいた場合、「所由官司」に(ウ)を発動
・諸国においては、「専当国司」に発動されたと見ておく。
・七月己卯条
・「七月一〇日官符」(『三代格』巻三)
 24 723(養老7) 麦の耕種の管理 国郡司 耕種の町段などを録し、計帳使に付し報告 ×   ・「八月二八日官符」(『三代格』巻八)
25 724(神亀元) 贖貨狼藉 出雲按察使   (エ) ・出雲按察使息長真人臣足に対し、(エ)を発動(位禄を奪う)
・個別事例
・一〇月乙卯条
26 728(神亀5) 国司への下馬礼 郡司(五位以上) 名を録し、奏聞 × ・故犯の場合、杖60に決し、蔭贖を得ずとの措置も記載されているが、六位以下を対象とするので、ここでの郡司は対象ではない(史料中の「官人」に対する措置と考えられる) ・「三月二八日勅」(『三代格』巻七)
27 728(神亀5) 騎射人等の王公・卿相への貢上 国郡司   ○・(ウ) ・国司は位記を奪い、(ウ)を発動
・郡司は「決罰を加え」、勅に准じ(ウ)を発動
・四月辛卯条
28 730(天平2) ・国内行事の共知
・税帳作成の不備
・大税収納
国司等 倉別に主当官人の名を署す 「罪を科す」*2) ・四月甲子条
・「天平二年四月一〇日官符」(『延暦』28
29 730(天平2) 桑漆の催殖 国郡司 ・毎年、巡検実録し申す
・使を遣わし勘会
○・(ウ) ・国司は「貶責を加う」
・郡司は(ウ)を発動
・「五月六日格」(『三代格』巻八。№149官符所引)
30 731(天平3) 出挙・収納の四等官共同執行 国司   ・収納に預からない場合は、署名しない。
・違反の場合は、署官を「法により懲断」
・「四月二七日官奏」(『延暦』29)
31 734(天平6) 官稲貸与の制限額の超過 国司   「法により罪を科す」 ・正月丁丑条
32 736(天平8) 浮浪人の把握 国司等 名簿に録す × ・№20の改定 ・「二月二五日勅」((『三代格』巻一二)
33 736(天平8) 死亡による官稲の未返済 国司   (イ) ・判署の官に(イ)を発動 ・「一一月一一日官符」(『延暦』17)
34 737(天平9) 「臣家」による私出挙「禁断」 国郡司   (ウ) ・違反があった場合、(ウ)を発動 ・九月癸巳条
・「九月二一日勅」(『三代格』巻一四)
35 741(天平13) 公事によらない田猟により民の産業を妨ぐ 国郡司    ・必ず「重科」に擬す ・二月戊午条
・「二月七日詔」(『三代格』巻一九)
36 741(天平13) 官長に礼なく、和順せず 讃岐介・越後掾等   (ウ) ・讃岐介村国連子老・越後掾錦部連男笠等に(ウ)を発動
・個別事例
・五月丙子条
37 742(天平14) 郡領の濫挙 国司   ・「事に随いて科決」 ・五月庚午条
38 744(天平16) 「女子」と国司との婚姻 郡司   (ウ) ・「女子」を国司の妻妾とした場合、(ウ)を発動
・百姓の場合は、解任の罪に准じて論ず
・「一〇月一四日勅」(『三代格』巻七)
39 749(天平勝宝元) 正倉修理の怠緩 国郡司   「法によりて罪を科す」 ・「八月四日勅」(『延暦』9)
40 751(天平勝宝3) 「百姓」による私出挙「禁断」 国郡司   (ウ) ・№34の補強
・違反措置は№34に同じ(違反があった場合に、(ウ)を発動)
・「九月四日官符」(『三代格』巻一四)
41 752(天平勝宝4) 官物の欠失 郡司   ○・(ウ) ・(ウ)を発動し、「法により罪を科す」
・郡司について、初めて「科断」
「譜第」と雖も、子孫は任用しない
・一一月己酉条
42 753(天平勝宝5) 兵士を雑役に差科 国司等   (ウ) ・犯があった場合、(ウ)を発動し、永く選用せず ・「一〇月二一日官符」(『三代格』巻一八)
43 754(天平勝宝6) 私物輸送の禁 国司等   ・「法によりて罪を科せよ」
・他に「租の全輸」・「出挙利率の引き下げ」について定めるが、処罰規定は「私物輸送の禁」に限定されると考えられる。
・九月丁未条
44 754(天平勝宝6) 双六の禁断 国郡司   (ウ) ・双六を阿容した場合、(ウ)を発動 ・一〇月乙亥条
・「一〇月一四日官奏」(『三代格』巻一九)
45 757(天平宝字元) 脚夫らへの糧食などの支給の怠緩 国司(官人)   〔(ア)〕 ・「違勅罪」を科す ・一〇月庚戌条
46 758(天平宝字2) 諸使の駅馬使用の不正 国司 増乗の人を録し、官に申す
《(ア)》
・官に申さない場合、諸使同様、「法律に著す」罪を与える
・職制律37増乗駅馬条の発動と見られる
・「七月一九日官符」(『三代格』巻一八。№76官符及び「承和五年一一月一八日官符」所引)
47 758(天平宝字2) 交替程限の超過 国司   (ウ)など ・程限を過ぎても、太政官に申請しない場合、(ウ)を発動
・前司の不正を後司が許容した場合、双方に(ウ)を発動
・罪が後司にある場合は、「故人入罪」(断獄律入人罪条)を準用(発動ではない)
・九月丁丑条
・「九月八日解」(『延暦』。№115官符所引)
48 759(天平宝字3) 官物の欠失 国司    (エ) ・官物欠失の責任を回避しようとする国司に(エ)を発動(「公廨」を奪う)   ・「三月一五日官符」(『延暦』。№115官符所引)
49 761(天平宝字5) 官長を経ずに国政を恣にするなど 美作介   (ウ) ・美作介県犬養宿禰沙弥麻呂に(ウ)を発動(「官を失う」)
・個別事例
・八月癸丑朔条
50 762(天平宝字6) 健児の管理 国司等(伊勢等四国) 歴名・等第を朝集使に附し、武部省に送る ×    ・二月辛酉条
51 763(天平宝字7) ・祭祀執行の怠慢
・灌漑施設の未整備
国司(目以上)   (ウ) ・国神への祭祀や灌漑施設の整備を怠る国司に(ウ)を発動(目以上を悉く、遷替)
・神火事件への対応
・九月庚午朔条
・「九月一日勅」(『三代格』巻七)
52 764(天平宝字8) 国司等赴任の際の不正 国郡司等    (ウ) ・厳制に違えた場合、(ウ)を発動 ・「一〇月一〇日勅」(『三代格』巻一八)
53 764(天平宝字8) 国分寺の寺物・費用の管理 国郡司 朝集使に附して申上 ×   ・「一一月一一日官符」(『三代格』巻三)
54 764(天平宝字8) 寺物などの犯用 国郡司   ○・(ウ) ・(ウ)を発動し、「法に依り、科罰」 ・「一一月一一日官符」(『三代格』巻三)
55 765(天平神護元) 三関国からの資人採用の禁止 国司(伊勢・美濃・越前)   〔(ア)〕 ・違勅罪を発動 ・三月丙申条
56 766(天平神護2) 官舎・国分二寺の管理 国司等 修理した官舎・国分二寺の数を、朝集使に附し奏聞 × ・風損の官舎の放置への対処 ・九月戊午条
・「九月五日勅」(『延暦』10)
57 766(天平神護2) 麦を植えること 国郡司 専当の国郡司の名を朝集使に附し申上 × ・恪勤の国郡司に専当させる ・「九月一五日格」(『三代格』巻八。「弘仁一一年七月九日官符」所引)
58 767(神護景雲元) 勧農 国郡司等 専当の国郡司等の名を録して申上 × ・恪勤の国司、良謹の郡司・民に専当させる
・益があれば、専当の人は別に褒賞
・四月癸卯条
・「四月二四日勅」(『三代格』巻八)
59 770(宝亀元)以前 舂米運京の違期   (ウ)・(エ) ・舂米運京の違期につき、(ウ)・(エ)を発動((エ)は「公廨」を奪う)
・具体的年次は不明だが、第Ⅲ期と見られる
・「五月一五日符」(『延暦』。№106官符所引)
 60 770(宝亀元) 舂米運京の違期 専当国郡司等   (ウ)・(エ) ・№59の改定(処罰は同じ)
・対象を専当国郡司等に限定
・「五月一五日符」(『延暦』。№106官符所引)
61 772(宝亀3) 祥瑞の偽作 上総介等   (ウ) ・上総介巨勢馬主以下五人に(ウ)を発動
・個別事例
・七月辛丑条
62 773(宝亀4) 鷹鸇飼養の禁止 国郡司等 五位以上の違反者は名を録し言上 〔(ア)〕 ・六位以下は「違勅罪」を科す
・「監察」「規律」とも、禁断を加えて改まらない場合の措置
・「正月一六日騰勅符」(『三代格』巻一九。「大同三年九月二三日官符」所引)
63 773(宝亀4) 兵士の糒塩・戎具の欠失 国司等   (ア)・〈(イ)〉 ・国司・軍毅に職制律公事応行稽留条を発動(「公事不行之罪を科せ」
・糒塩・戎具の欠失は、兵士・国司・軍毅が補填
・正倉の欠失補填とは異なるが、それに准ずるものとしておく。
・「正月二三日解」(『延暦』7)
64 773(宝亀4) 穀の買得の禁止 国郡司   〔(ア)〕 ・違反の場合、違勅罪を科す ・三月己丑条
65 773(宝亀4) 正倉への放火(神火事件) 郡司   (ウ) ・主帳以上に(ウ)を発動
・政のため入京中の者と賊を捕えた者は事を量り処分
・「譜第」の者で放火に及んだ者は、任用しない
・八月庚午条
66 773(宝亀4) 雑米未進 国郡司等 「公廨」の数を、正税帳とともに報告 (ウ)・(エ) ・№60の改定
・国司史生以上に(エ)を発動(「公廨」を奪う)
・国司主典以上は貶考
・専当国司に(ウ)を発動
・郡司主帳以上に(エ)を発動(職田を没収)・貶考
・専当郡司に(ウ)を発動
・「閏一一月二三日官符」(『延暦』。№106官符所引)
67 775(宝亀6) 貢調庸使者、未入京 専当国司   ・「坐せよ」 ・「六月二七日格」(「承和九年正月二七日官符」所引。『三代格』巻一二)
68 776(宝亀7) 神社の掃修 国司 掃修の状を毎年、申上 〔(ア)〕 ・違反の場合、「違勅之罪」を科す ・四月己巳条
・「四月一二日官符」(「宝亀八年三月一〇日官符」所引。『三代格』巻一)
69 779(宝亀10) 公使、政を遂げず 国郡司(公使) 国司は「帳」に付し報告  (ウ)・(エ) ・政が終わるまで釐務を停止
・国司は(エ)を発動(「公廨」を奪う)
・郡司は(ウ)を発動
・阿容の司も同様の措置
・八月庚申条
・「八月二五日宣」(『貞観』10)
70 779(宝亀10) ・官物の隠截
・調庸違期
国司  
《(ア)・(ウ)》
・隠截は「科断」(『三代格』では「解任及び除名」とあり、(ウ)・(ア)の発動)
・調庸違期は、主典以下は「所司科決」、判官以上は奏聞
・一一月乙未条
・「一一月二九日官符」(『三代格』巻一四)
71 780(宝亀11) 革甲の作製 国司等 毎年、「様」を進む × ・鉄の甲冑作製を停止
・№73との関係は不詳
・八月庚戌条
72 780(宝亀11) 浮逃の百姓の役使 国郡司等   (ウ) ・国郡司には(ウ)を発動し、(役使した)百姓には決杖100 ・一〇月丙辰条
73 781(天応元) 革甲の作製 国司等 毎年、「様」を進む × ・鉄の甲冑作製を停止
・№71との関係は不詳
・「四月一〇日官符」(『三代格』巻一八)
74 781(天応元) 調庸専当国司名簿の申上 国司 計帳使に付す × ・逗留して相替ることを得ず  ・承和九年正月壬戌条
・「八月二八日格」(「承和九年正月二七日官符」所引。『三代格』巻一二)
75 782(天応2) 交替程限の超過 国司を兼帯する諸司官人 宣によって釐務を許された官人が、釐務の後120日以内に解由を進めなければ、報告  〈(ウ)〉 ・程限内に解由を進めなければ、釐務を停止((ウ)の発動に准ずる)
・解由を得ない状態で、諸司官に任じられた場合、宣があれば釐務を許す
・「二月五日宣」(「天長三年一〇月七日官符」所引。『三代格』巻五)
76 782(延暦元) 諸使の駅馬使用の不正 所由国司等   (ウ) ・№46の補強
・次官以上一人に専当させ禁断
・専当官が阿容した場合、「所由官」(主に国司と見られる)に(ウ)を発動
・「一一月三日官符」(『三代格』巻一八)
77 782(延暦元) 交替程限の超過 五位以上の国司   (エ) ・程限内に解由を得ない場合、(エ)を発動(位禄・食封を奪う)
・対象が五位を含むことは、福井前掲書127頁
・一二月壬子条
・「一二月四日勅書」(『延暦』。№115官符所引。)
78 784(延暦2) 大宰府の調綿の貢上 大宰府官人(専当官?)   ・主典以上に専当させる
・期日違反などの場合は「法により罪を科す」
・「三月二二日官符」(『三代格』巻八)
79 784(延暦2) 死闕した国分寺僧の交替 国司等 闕状を申す × ・報を待ち施行 ・四月甲戌条
・「四月二八日官符」(『三代格』巻三)
80 784(延暦2) 伽藍の私作等の禁止 畿内国司(主典以上)等   (ウ) ・違反の場合、主典以上に(ウ)を発動
・自余は(ア)(「杖八〇」)を発動(国郡司は対象外)
・知りながら禁じない者も同罪
・六月乙卯条
・「六月一〇日官符」(『三代格』巻一九)
81 785(延暦3) 政迹無聞にて犯状著しい 伊予守   (ウ) ・伊予守吉備泉に(ウ)を発動
・本来、「恒科に置く」べきも、父吉備真備の功績により、「見任を解き、前悪を徴す」
・個別事例
・『続紀』延暦四年一〇月甲子条・『後紀』同一四年一二月癸未条・同二四年三月己丑条なども参照
・三月丙申条
82 785(延暦3) 不詳 伊予守   〈(ウ)〉 ・伊予守藤原末茂、事に「坐」せられ、日向介に左降
・(ウ)に准ずる措置と見ておく
・個別事例
・九月庚辰条
83 784(延暦3) ・私営田の禁止
・開墾による百姓経営の侵害の禁止
国郡司等   〔(ア)〕・(ウ)・(エ) ・「違勅罪」を科す
・(ウ)を発動
・(エ)を発動(「収獲之実、墾闢之田」を没官)
・容隠の国郡司も同様の措置
・糺告の者にその地の苗子を与える
・一一月庚子条
・「一一月三日官符」(『三代格』巻一五)
84 784(延暦3) 王臣家等の山川沼沢の占有の禁止 国司等   〔(ア)〕 ・国司等が阿容した場合、違勅罪を科す ・一二月庚辰条
・「一二月一九日騰勅符」(「延喜二年三月一三日官符」所引。『三代格』巻一六)
85 785(延暦4) 調庸の麁悪 国郡司   ○・(ウ) ・専当国司は(ウ)を発動し、永く任用せず
・自余の官人は節級して、「罪を科す」
・郡司は「決罰を加え」、(ウ)を発動し「譜第」を絶つ
・五月戊午条
86 785(延暦4) 戸口の括責 国司等 大帳内の目録に載附し申上 ×   ・「六月二四日官符」(『三代格』巻一二)
87 785(延暦4) 官物の犯用 国郡司   ○・(イ)・(ウ) ・国司一人が犯用した場合、余官も「同坐」にし、皆、(ウ)・(イ)を発動((イ)は贓物の填納)
・死亡・恩赦による免除は認めず
・郡司が和許した場合には、国司と同様の措置
・七月丁巳条
・「七月二四日宣」(『貞観』7)
88 785(延暦4) 貢調の違期・麁悪 土佐国司   (ウ) ・目以上に(ウ)を発動
・個別事例
・七月辛酉条
89 785(延暦4) 謀反を誣告 能登守   (ア) ・能登守三国広見に(ア)を発動(斬すべきも、死一等を減じ、佐渡国へ配流)
・個別事例
・一一月庚子条
90 785(延暦4) 大宰府管内の浮浪からの調庸の徴収 府官・国司   〔(ア)〕・(ウ) ・「違勅罪」を科し、(ウ)を発動
・恩赦の限りにあらず
・「一二月九日官符」(『三代格』巻八)
91 786(延暦5) 正税額の維持 (国司) 正税帳により勘申 × 三〇万束に満たない場合、正税帳を返却せず、勘申 ・「三月二八日宣」(『延暦』30所引)
92 786(延暦5) 正倉の焼失(神火事件) 国司等   (イ)・(エ) (エ)を発動し(「公廨」を奪う)、その「公廨」を以て(イ)を行わせる ・六月己未朔条
93 786(延暦5) 土屋の官舎の建築 専当国郡司   (ウ) 日限内に建築し得ない場合、必ず(ウ)を発動 ・「八月七日宣」(『貞観』16)
94 786(延暦5) 正倉の焼失(神火事件) 国郡司・税長等   (イ) ・№65の改定
・(ウ)や「譜第」を絶つ措置は禁止
・八月甲子条
・「八月七日宣」(『貞観』16)
95 787(延暦6) 夷俘との交易の禁止 国司等   (エ) ・国司(及び王臣)が違反した場合、(エ)を発動(交易物を没官) ・「正月二一日官符」(『三代格』巻一九)
96 787(延暦6) 公使、政を遂げず 国司   〔(ア)〕 ・№69の補強
・前過を悛めず、後怠をした場合、「違勅罪」を科す
・対象は「諸国」
・七月丙子条
97 788(延暦7) 兵士簡点の闕怠 国司等(東海道他)   (ア) 壇興律乏軍興条を発動(「『軍興に乏しき」を以て事に従わん」) ・三月辛亥条
98 789(延暦8) 救急稲の殷富の民との交易 国郡司(美濃等)    〔(ア)〕 ・違反の場合、違勅罪を科す ・四月辛酉*3)
99 789(延暦8) 公使、政を遂げず 国司(目以上)   (エ) ・№96の対象を国司四等官全員に拡大
・目以上に(エ)を発動(「公廨」を奪う)
・「遥かに便使に付す」場合は発動対象から除外
・五月丙辰条
・「五月一五日官符」(『延暦』。№106官符所引)
100 789(延暦8) 馬牛帳の管理 国司・大宰府官人 馬牛帳の別巻を進む × ・従来の公文の虚偽記載・未進の是正 ・「九月四日官符」(『三代格』巻一七)
101 790(延暦9) 旧年未納の官物の填納 国司 帳に付し申上 ・旧年の未納は、正税から一定額を補填
・この制によらない場合は、「罪を科す」
・一一月乙丑条
・「一一月三日官符」(『延暦』37所引)
102 791(延暦10) 百姓との共利違反 山背国司(所司)   〔(ア)〕 ・阿縦の場合、違勅罪を科す ・六月甲寅条
103 792(延暦11) 戸口の真偽調査 畿内国司等   ・疎略があった場合、「重科」に処す ・一一月壬辰条
104 793(延暦12) 正倉の焼失(神火事件) 国司等   №92・94の改定
・「法により推決」
・「四月二三日官符」(『貞観』。「弘仁三年八月一六日官符」〈『貞観』17〉所引)
105 794(延暦13) 逃亡した飛騨工の容隠 国郡司等   〔(ア)〕 ・「違勅罪を科す」 ・「承和元年四月二五日官符」(『三代格』巻二〇)所引
106 795(延暦14) 雑米・調庸の未進 国司(史生以上) 省寮が計会し、毎年、未進を勘出 〈(イ)〉 ・№66・99の補強
・史生以上が差法をなし、「未進数に准じ、公廨を割き、色に随い、京庫に進納す」)
・№66・99の処罰規定は存続
・(イ)「欠失補填」に准ずる例と見られる
・「七月二七日官符」(『延暦』41)
107 795(延暦14) 官物の隠截 武蔵介等   (ア)か(ウ) ・武蔵介都努筑紫麻呂等を「免官」
・名例律19の「免官」ならば(ア)、一般的な「官を免ず」の意ならば(ウ)の発動(同じく「官物の隠截」を対象行為とする№70など参照)
・個別事例
・閏七月丁未条 
108 796(延暦15) 綱領郡司の恣意的交替の禁止 ・国司(本部・所由) 交替の場合は、事前に申送 ・勘知を細かくしない場合、郡司と同罪(「罪に入る」) ・「六月八日官符」(『三代格』巻七)
109 796(延暦15) 短檜皮の阿容 国郡司   ・「寛宥せず」 ・「九月二六日官符」(『三代格』巻一八)
110 796(延暦15) 逃亡の飛騨工の捜捕 国司等   〔(ア)〕 ・容隠の場合、「違勅罪を科す」
・№105に准じ、国司も対象と判断する
・一一月己酉条
111 797(延暦16) 調鍬の厚作 国郡司(及び出納官人)   〔(ア)〕 ・曉喩の後、違反の場合、「違勅罪を科す」 ・「四月一六日官符」(『三代格』巻八)
112 797(延暦16) 浪人の阿容 大宰府官人 浪人の去留を大帳使に附し申上 〔(ア)〕 ・「違勅罪を科し」、遠処に移配 ・「四月二九日官符」(「斉衡二年六月二五日官符」所引。『三代格』巻一二)
113 797(延暦16) 水旱虫霜不熟の把握 国司等 得田の被害の大きい事例などを報告 ×   ・六月庚申条
114 797(延暦16) 浪人からの調庸の徴収を拒捍する庄長の阿容 国郡司  「浮宕之徒」の見口を勘計し、浮浪帳に附す 〔(ア)〕 ・「違勅罪」を科す ・八月丙辰条
・「八月三日官符」(『三代格』巻八)
115 798(延暦17) 交替程限の超過 国司   (ア)・(イ)・(ウ)・(エ) ・№47・48・77の改定
・「遷任国司」と「新任之人」が、交替程限を超過した場合には、(ウ)・(エ)を発動((エ)は俸料を奪う。次項も同様)
・「解任之人」と「之に代わる国司」が、交替程限を超過した場合には、職制律公事応行稽留条〔「公事稽留之罪」)・(エ)を発動。
・同じく「解任之人」と「之に代わる国司」が、官物欠失により留連し、それを許容した場合には「法により罪を科」し、(イ)を発動(贓を徴す)。
・五位以上で解由を得ない者は(エ)を発動(位禄・食封を奪う)
・「新人」が拘留し、前司の俸禄などを奪った場合には、「故人入罪」(断獄律入人罪条)を準用(発動ではない)
・福井前掲書214~221頁参照
・「四月七日官符」(『延暦』3)
116 798(延暦17) 国司の匿服の禁止 国司(「所由之人」)   ・親族の没故を伝える国解を淹遅させた場合、行程を除いた日を計り、「罪を科す」 ・「五月一一日官符」(『三代格』巻二〇)
117 798(延暦17) 糒穀検収における耗分の課徴 国司等   ・「法に依り科処せよ。」 ・一〇月乙未条
118 798(延暦17) 田租・地子出納時の不正 国司等   ○・(イ)・(ウ) ・(イ)を発動し(贓を計る)、「罪を科す」(ただし、『後紀』は(イ)に言及せず)
・「隠截出挙之罪」に同じ(『貞観』)
・(ウ)を発動し、永く叙用せず
・『後紀』では、№117・119と同一の勅
・一〇月乙未条
・「一〇月一九日官符」(『貞観』8)
119 798(延暦17) 官交易の不正 国司等 実により官に申す  〔(ア)〕か
○・(イ)・(ウ)
・悛めない場合、規律を発動
・『後紀』では「違勅罪を科せ」
・『貞観』では№118と同一官符
・『後紀』では№117・118と同一の勅
・一〇月乙未条
・「一〇月一九日官符」(『貞観』8)
120 798(延暦17) 王臣家等の山野等の収公 国郡司(所司) 違反の場合、五位以上等は名を録し、申上 〔(ア)〕 ・阿容の場合、「違勅罪」に同じ ・「一二月八日官符」(『三代格』巻一六)
121 799(延暦18) 頴稲の出挙 国郡司   〔(ア)〕・(イ) ・頴稲を利稲として収め、「旧稲」を遺した場合、「違勅罪」を科す
・「損耗贓重」の場合、(イ)を発動(贓を計りこれを科す)
・後任国司が受容した場合、同罪
・「五月一七日官符」(『延暦31』)
122 799(延暦18) 国吏を凌慢するなど 海部郡主政   (ア)・(ウ) ・海部郡主政刑部糠虫に、(ア)を発動(「決杖」)の上、(ウ)を発動
・個別事例
・五月己巳条
123 799(延暦18) 「公廨」息利の徴収 国司等   ・「科せよ。」 ・六月癸未条
124 799(延暦18) 山林の精舎などの把握 国司 具に録して言上 ×   ・六月乙酉条
125 799(延暦18) 旧稲を玄米にし、旧年の欠失を補填することの禁止 国司等   (イ) ・№121の補強
・欠失は、「その時の官」に(イ)を発動
・使を遣わし採訪し、さらに違反があった場合には、№121の措置を発動
・「八月二七日官符」(『延暦』32)
126 800(延暦19) 池水の漁竭の阿容 国郡司   ・「特に重科に置く」 ・「二月三日官符」(『三代格』巻一六)
127 800(延暦19) 損免法の未施行 国郡司 貢調の日、勅使が民に訪問 ・轍を改めない場合、「重科に置け」 ・五月癸丑条
128 800(延暦19) ・前司の欠失の報告は、一回で行うこと
・官物管理の責任回避
国司   ○・(イ) ・№115の補強
・前司の欠失を再三に渡って申告する場合は、後司に(イ)を発動(罪は№115に同じ)
・奉使や官長ではないとの理由で、官物管理の責任を認めない国司も、(イ)を発動し、改悛しない場合には「罪を科す」
・「九月一二日官符」(『延暦4』)
129 800(延暦19) 溝池の修理 国司 池堰の総計を朝集帳に載せ、官に申す × ・交替の際、闕怠が発覚した場合は、解由を停む ・「九月一六日官符」(『三代格』巻一。「弘仁八年一二月二五日官符」所引)
130 800(延暦19) 非理により、解由を与えず 駿河守   (ウ) ・駿河守高橋祖麻呂に(ウ)を発動
・個別事例
・一二月癸未条
131 801(延暦20) 神戸調庸等の管理 国郡司等 祭料支度後の残額を申上、裁可を仰ぐ × ・調庸等の支用の管理 ・「七月一日官符」(『三代格』巻一。「弘仁一二年八月二二日官符」所引)
132 802(延暦21) 損田の処分 国司 損害が損免法を超えた場合、官に申し裁可を仰ぐ × ・№113の改定 ・「七月一五日官符」(『三代格』巻一五。「弘仁七年一一月四日官符」所引)
 133 802(延暦21) 調庸専当使の不正 国司(専当官)等   (エ) ・調庸の麁悪を知り、規避等を行った場合、(エ)を発動(「公廨」を奪う)
・対象には郡司は含まれないと考えられる(郡司には「公廨」は与えられない)
・「八月二七日官符」(『三代格』巻八)
134 802(延暦21) 交替の未了 国司(西海道)   ・解由を得ずに逃帰した場合、「刑科に置く」 ・一一月庚申条
135 803(延暦22) 「公廨」利稲における国儲の定額順守 国司    ○・(イ) ・違反の場合は、(イ)を発動し(贓を計る)、「罪を科す」 ・「二月二〇日官符」(『延暦』38)
136 804(延暦23) 不適切な講師任用の阿容 国司   ・悛革しなければ「科貶」 ・正月丁亥条
137 804(延暦23) 鷹・鷂の飼養禁止 国郡司 (言上?) 〔(ア)〕 ・違反者が出た場合、国郡司にも違勅罪を発動 ・一〇月甲子条
138 804(延暦23) 牛の殺剥等の禁断 国司等(主司)   〔(ア)〕 ・阿容の場合、「違勅罪を科す」 ・一二月壬戌条
・「一二月二一日勅」(『三代格』巻一九)
139 805(延暦24) 王臣諸家を定額寺の檀越と称することの禁止 国司(畿内及び近江・丹波等)等 悛めない僧の名を録し言上 ×   ・正月癸酉条
・「正月三日官符」(『三代格』巻三)
140 805(延暦24) 采女の養物の未進 国司   (エ)・〈(イ)〉 ・未進数に准じ、(エ)を発動(「国司料」を奪う)
・色に随い弁備
・正倉への補填ではないが、剥奪した国司料を采女の養物に充てると考えられるので、(イ)に准ずる意義があると考えられる。
・「三月二日官符」(『三代格』巻一四)
141 806(延暦25) 金剛般若経の転読 国司 転読する経・僧数を朝集使に附し言上 × ・国分寺にて転読 ・大同元年三月辛巳条
・「三月一七日官符」(『三代格』巻三)
142 806(延暦25) 新任国司への借貸 国司   ○・(イ) ・「公廨」を処分する日に補填(返済)
・遷替した場合には後任に(イ)を発動。
・限度額を超過した場合には、「法により科処」
・大同元年三月戊子条
・「三月二四日官符」(『貞観』20・『三代格』巻一四))
143 806(大同元) 貧人への正税貸与 国司等   ・不正があった場合、「重科」に処す ・五月己巳条
144 806(大同元) 使・暇の期限超過及びその隠忍 国司 ・使の期限超過は勘申
・暇の期限超過は、名を録して言上
・隠忍の場合、状に准じて「科附」 ・五月己丑条
145 806(大同元) 関津の制に関して失理 長門国司   ・「重科に寘け」 ・七月乙未条
146 806(大同元) 桑漆の催殖 国司等 例により朝集帳に載す ×   ・「大同元年八月二五日官符」(『三代格』巻一六)
147 806(大同元) 檀越等の寺物流用の阿容 国司等   〔(ア)〕 ・「違勅罪」を科す ・八月丁亥条
・「大同元年八月二七日官符」(『三代格』巻三)
148 806(大同元) 位田支給の不備 国司 校田の日、細校して申す ×   ・一二月癸酉条
149 807(大同2) 桑漆の催殖 国郡司 交替の際、数を填じない場合、解由を拘留(国司) ○・(ウ) ・№29の補強
・処罰は№29に同じ
・「正月二〇日官符」(『三代格』巻八)
150 807(大同2) 五位以上が、奏聞なく畿外への赴くことの阿容 国司 違反者は名を録し言上 〔(ア)〕 ・「違勅罪」を科す ・二月己未朔条
・「大同二年二月一日官符」(『三代格』巻二〇)
151 807(大同2) 前後司、付与解由状に共署 国司   ・違反の場合は「これを恒典に置き、寛宥すべからず」 ・「四月六日官符」(『三代格』巻五)
152 807(大同2) 書生等への借貸 国司   (イ) ・未納の場合は国司が補填 ・四月壬申条
・「四月一五日官符」(『貞観11』・『三代格』巻一四))
153 807(大同2) 作田による民要の侵妨 国司(畿内)   〔(ア)〕・(ウ)・(エ) ・№83を改定し、畿内国司に作田を許す
・民要を侵妨した場合の措置は、№83に同じ
・七月癸酉条
・「七月二四日官符」(『三代格』巻一五)
154 807(大同2) 調庸麁悪・違期・未進 国郡司   (ア)・〈(イ)〉 ・№106の改定
・厩庫律課税廻避不輸条・賊盗律竊盗条・戸婚律輸課税物違期条を発動
・未進の場合の措置は№106に同じ
・使には主典以上の公勤幹了者を充てる
・「一二月二九日官符」(『貞観』25・『三代格』巻八)
155 808(大同3) 東大寺官家功徳分封物の出納 国司(大和) ・封物の出納は民部省に申し、出用は官符を待って行う
・年終に納物・用残帳を造り、申送
×   ・「三月二六日官符」(『三代格』巻八)
156 808(大同3) 八幡大菩薩宮雑物の出納 国司(宇佐) ・年終に用状を勘録し、申さしむ ×   ・「七月一六日官符」(『三代格』巻一)
157 809(大同4) 前司の欠失の報告は、一回で行うこと 国司   ○・(イ) ・№128の改定
・解由を与えた後、「遺漏雑事」があった場合には、署人(後司)を「罪」し、兼ねて(イ)を発動
・「二月二日官符」(『三代格』巻五)
158 809(大同4) 要劇料に米を給う 国司(対象は全官司) ・支給対象者の上日を細勘し申送 × ・支給対象者は職事四位以下初位以上
・観察使は除く
・閏二月丙辰条
・「閏二月四日官符」(『三代格』巻六)
159 809(大同4) 離去した畿内百姓の畿外での口分田班給 国司等 百姓が、畿外に留まることを願った場合、編附し、名帳を細検し言上 × ・自今以後、班給を停止 ・「九月一六日官符」(『三代格』巻一五)
160 809(大同4)以前 贓汚狼藉 上総介・大掾   〈(ア)〉 ・上総介石川道成・同大掾大私部善人の位記を剥奪
・免官(名例律19)などに准ずる措置と見ておく
・三月丁未条
161 810(大同5) 諸使の上日不足 国郡司(公使) 奪った「公廨」の数を税帳とともに報告 (エ) ・諸使で、故なくして上えず、上日が3分の2に満たない者は、(エ)を発動し(「公廨」を奪う)、考に預からしめず。 ・弘仁元年三月癸卯条
・「三月二八日官符」(『貞観』26・『三代格』巻一二。)

凡例)
1.原則として、国郡司(及び大宰府官人)を対象とする監察手段・規律の発動事例を集めた(したがって、「宝亀一〇年一〇月一六日太政官符」〔『類聚三代格』巻一九〕のように、在地首長層を対象とする法令であっても、現任郡司が含まれない場合は、収載していない)。
2.臨時的・一時的と見られる措置は除外した。
3.国郡司(及び大宰府官人)と関連して、他の官人に発動される監察手段・規律は原則として除外した。
4.「規律の発動」の「×」は、規律の発動命令が確認できないことを示す。
6.「規律の発動」の「○」は「一般的表現」を示す。
7.「一般的表現」の中で、具体的な規律が想定または想定できる可能性がある場合には《》を付す。
8.「規律の発動」の、(ア)は(ア)律の規定、(イ)は(イ)「欠失補填」、(ウ)は(ウ)「解任」、(エ)は(エ)経済的特権の剥奪の発動を、それぞれ示す。
9.「規律の発動」の〔(ア)〕は違勅罪の発動を示す。
10.(1)規律の発動に准ずる、(2)発動命令は出たが実際には適用されなかった事例などは、〈〉を付す。
11.正史の引用は本稿の形式に従う。
12.『延暦』は『延暦交替式』、『貞観』は『貞観交替式』、『三代格』は『類聚三代格』を示す。

13.年号の表記は、原則として法令のそれに従う。
14..『交替式』引用の後の数字は条文番号を示す(例えば、『延暦』22〔№4〕は、『延暦交替式』第22条を示す)。
15.『交替式』と『三代格』の間で条文に重複がある場合には、基本的に『交替式』により、必要に応じて『三代格』を示す。
16.『延暦』と『貞観』の間で条文に重複がある場合には、基本的に『延暦』による。

註)
*1)七〇二年(大宝二)一〇月に写本を諸国に頒下(同月戊申条)。
*2)なお、この事例は太政官処分に見え、国司等への規律発動の根拠となる文言は同処分中の「それ史生、事に預かりて失有らば、罪を科すこと、亦、同じ」である。
 これは史生に「罪を科すこと」は「(国司等に)亦、同じ」の意と解される。国司等への規律発動は明示されていないが、それは自明の前提として含意されており、事に預かった史生にもまた発動される、という論理になっていると考えられる。
 この事例における規律の発動の在り方を把握する上で問題になるのは、『延暦』28と『続紀』の間でこの文言の位置付けに相違があることである。
 『延暦』28では、この処分で問題にされる(1)「国内行事の共知」(2)「税帳作成の不備」(3)「大税収納」全ての行為について述べているものと見てよい。すなわち、(1)~(3)全てについて、この文言を根拠として国司及び史生に規律が発動される論理になっていると考えられる。
 一方、『続紀』では直前の(4)「国内に施行する雑事は主典已上、共に知れ」(『延暦』28では削除)のみに関するものと見られる。すなわち、この文言を根拠とする規律発動は(4)のみに限定され、直接には(1)~(3)とは関連しない位置付けになっている。
 しかし、この(4)はこの太政官処分の総論とも言うべき(1)の再論である。(4)に対して規律が発動されるということは(1)も同様であり、総論という性格上、(2)・(3)にもまた発動されるということになる。
 それ故、いずれにしても国司等に対して規律発動が命じられていると見てよいと考えられる。
*3)「辛卯」の可能性がある(新日本古典文学大系本参照)