クリニック便り 第5号                              2004年7月22日 2017年2月27日(改訂)

 

クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)の話

 

 生れつき甲状腺の働きが良くない病気です。先天性甲状腺機能低下症が正式な名前ですが、長いので通称クレチン症と言われています。甲状腺ホルモンは、乳幼児期の脳や神経の発達・からだの成長に不可欠のホルモンです。このホルモンが極端に不足した(すなわち典型的な)クレチン症で発見が遅れると、知能障害は治療によっても回復しません。昔はクレチン症患者の3分のが知恵遅れでした。しかし、乳児早期に発見して治療すれば、知能障害になる率が少ないことが判ってきました。

1979年から、全国的にクレチン症に対する新生児マススクリーニング(先天代謝異常症等のスクリーニング検査)が行われ、生れて45日で検査されるようになりました(一応、親からの申込みで行なってます)。その結果、早期発見・早期治療が実現でき、ほとんどのクレチン症患者は全く正常な生活が送れるようになっています。私が診ている患者さんで、欠損性(甲状腺がない)で重症でしたが、新生児マススクリーニングで見つかって早期に十分な治療を受けたおかげで、大学卒業して航空力学を研究する大学院に進み、立派な社会人になった人も居ます。

治療は甲状腺ホルモンを11回内服するだけです。私は、道路の凹みを埋めるようなもの、と説明しています。丁度良く埋めれば平らで、全く普通のこどもと同じなわけです。生活も予防接種なども普通にしましょう。平らに補強してあるかどうかは時々の血液検査でホルモンの値を調べて薬の量を調節します。

マススクリーニングで異常になったからと、直ちにクレチン症とは言えません。スクリーニングは精密検査をした方が良いでしょうという判断であって、精密検査をした時点では正常であることもあります。精密検査の診察の時に、クレチン症が疑わしければ直ぐに治療を開始しますが、検査結果が判ってから治療を考えることもあります。過剰にご心配はしないで下さい。

クレチン症であった場合、その原因は3歳以降になったら調べます。治療を一時(10日くらい)中断しなければ検査できず、3歳以降なら中断しても脳の発達に影響はないからです。最も多い原因は、異所性と言って、本来の場所(ノド仏あたり)になくて発育の悪い甲状腺を持つ人です。次に多いのが欠損性と言って、甲状腺が形成されなかった人です。そしてホルモン合成障害性と言って、甲状腺は正常位置に存在するが、ヨードから種々のステップを経て甲状腺ホルモンを合成する過程に異常があって作れない人、その他の稀な原因もあります。合成障害性の場合には遺伝性があるので、兄弟姉妹の検査も必要になります。」

⇒2017年2月27日改訂:最近は、上記の検査(病型を調べる)が、出来難くなりました。
また、原因によらず治療が永続的に必要か一過性で必要なくなるか? これは治療中にわかります。「永続性」なら、体重が増えれば、治療量を増やさないと検査結果が悪くなります。「一過性(新生児期にだけ何かしらの原因で治療が必要だった)」ですと、治療量を増やさなくても検査が悪くなりませんので、3歳頃になったら、積極的に治療を中断してみます。
甲状腺エコー検査で、正常の位置に甲状腺がない場合は、「欠損性」か「異所性」で、「永続性」であることがほとんどです。正常の位置にある場合には「合成障害」の可能性が高く、「永続性」または「一過性」のことがあります。