●神道の基礎知識●

1.神様の系統と信仰

 日本では「八百万(やおよろず)の神々」といわれるほど、数多くの神様が各地にお祀りされている。その御神徳や性格も一神一神異なり、ご利益や専門領域も違う。そのため神社信仰は祭神を同じくする系統により、流れを大別することができる。はじめに神様が降りられてお祀りした神社を「本源の社」と言い、そこを中心に各地に御神霊が分けられ、発展したケースが多い。

[山岳信仰・修験道] 古代日本人は、豊かな水を育み、また時には激しく火を噴き上げる山々に偉大な霊威を感じ、そこに自然を畏敬する日本固有の宗教が生まれた。後に大陸から儒教・道教・仏教が入ってくると、古代の山岳信仰はそれらの修行や考え方を取り入れて修験道を生むに至った。三大霊山の富士山・立山・白山のほか、御嶽山・石鎚山・大峰山など、山岳信仰と修験で知られた山々を今でも各地に数多く拝することができる。

[鹿島・香取・春日信仰] 茨城の鹿島神宮・千葉県の香取神宮は関東地域最古の大社で、前者は武甕槌神(たけみかづちのかみ)、後者は経津主神(ふつぬしのかみ)と共に武神をお祀りしている。奈良の春日大社は鹿島の神を氏神として崇めた藤原不比等が分霊を勧請して創建した神社で、1300余の分社を持つ。

[氷川信仰] 埼玉と東京の荒川流域に集中的に見られる氷川信仰の総本社が、大宮市に鎮座する氷川神社である。主祭神は素戔鳴命(すさのおのみこと)で、武蔵国造の武蔵氏が出雲国造と同族関係だったために、出雲の祖神を祀ったものだといわれる。

[浅間信仰] 縄文時代にまで遡る古い信仰であり、富士山の涌き水と火の霊威を崇める。総本宮は木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を主祭神とする富士山本宮浅間大社で、冨士御室浅間神社など富士山を遥拝できる地を中心に約1300の分社がある。

[愛宕・秋葉信仰] 
愛宕信仰の総本社は京都の愛宕神社で、伊弉冉尊(いざなみのみこと)・迦具槌之神(かぐつちのかみ)など記紀神話において火の神誕生に登場する神々をお祀りしている。秋葉信仰の総本社は静岡県の秋葉山本宮秋葉神社で防火・鎮火の神様である火之迦具土大神(ほのかぐつちおおかみ)を祭神とする。

[諏訪信仰] 信越地方を中心とする諏訪信仰の総本社は、長野の諏訪湖畔に鎮座する諏訪大社である。昔から風の神様として信仰され、上社・下社ともに大国主神の子である建御名方神(たけみなかたのかみ)と妃である八坂刀売神(やさかとめのかみ)を祀ってある。農業・漁業・航海安全などのご利益があり、分社は約10000社を越えるという。

[山王信仰] 日吉信仰ともいい、日吉=日枝でその日枝は比叡山のことである。比叡山麓に鎮座する日吉大社が総本社で、東宮に大山咋神(おおやまくいのかみ)、西宮に父神の大己貴命(おおなむちのみこと)が祀られている。約3800の分社がある。

[金毘羅信仰] 総本社は香川の金刀比羅宮で祭神は大物主神(おおものぬしのかみ)である。「コンピラ」はもともとサンスクリット語のクンピーラが訛ったもので「竜王」の意味がある。そのインドの竜王信仰が日本に入り、土着神と習合したといわれる。仏教の日本渡来と共に、河の神から海の神になり航海神となった。分社は約700社ある。

[伊勢信仰] 
総本社は伊勢皇大神宮。全国神社の最高峰で日本国民の総氏神でもある。天照大神をお祀りし、古来朝廷から特別な尊敬が寄せられたほか、庶民の間でも「お伊勢さま」として変わらぬ人気を保ってきた。伊勢の分霊を勧請したと縁起を持つ神社はかなりあるが、じつは伊勢神宮の分社は1社もない。全国には天照大神・豊受大神を祀った“神明”系の神社は約18000社もあるが、それらは厳密にいえば、伊勢神宮の遥拝所として建てられたか、“飛神明”(伊勢の神霊が自分の所に移り飛んできたと主張する思想)の考え方によって建てられたかのどちらかである。

[熊野信仰] 
和歌山の熊野地方は昔から祖霊の住む場所として畏敬され、阿弥陀仏のおわす浄土と信じられた。そこに鎮座するのが「熊野三山」と呼ばれる熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社の三社で、これが総本社である。それぞれ家都御子大神(けつみこのおおかみ)・熊野速玉大神(くまのはやたまのおおかみ)・熊野夫須美命(くまのふすみのみこと)が祀られている。分社は約3000社ある。

[天神信仰] 京都の北野天満宮と福岡の太宰府天満宮が総本社で、祭神は学問の神様・菅原道真公である。本来は天から降りた神をすべて天神と呼んでいたが、いつの頃からか天満天神だけをさすようになった。分社は約15000社ある。

[牛頭天王信仰] 京都の祇園祭りで有名な八坂神社が総本社である。牛頭天王は元来インドの神様だったが、日本に入ってからは素戔鳴命(すさのおのみこと)と同一視されるようになった。この信仰で有名な愛知の津島神社と合わせ、約5600の分社がある。

[稲荷信仰] 日常よく目にする「お稲荷さん」は、日本の神社の1/3にあたる約32000社の分社を持つ。京都の伏見稲荷大社が総本社で、主祭神を宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)という。(ちなみにキツネはあくまでもこの神のお使いで、神様自身ではない。)「稲荷」は「稲成」で、もとは農業の神様だったが、やがてその神徳も拡大し広く庶民に受け入れられた。

[住吉信仰] 住吉神社は全国どこでも海岸か河口付近に鎮座しており、祭神は表筒男命(うわつつのおのみこと)・中筒男命(なかつつのおのみこと)・底筒男命(そこつつのおのみこと)で住吉三神と呼ばれる。水に関係の深い神で、分社は2100余ある。

[戎(恵比寿)信仰] 兵庫の西宮神社が総本社で、祭神は蛭子大神(ひるこおおかみ)。商売繁盛・福の神として全国的に人気があり、大阪の今宮戎神社も有名で、大阪商人には絶大な人気を誇る。

[出雲信仰] 縁結びで有名な島根の出雲大社が総本社。格式は伊勢神宮に伍し、創建はさらに古く、祭神の大国主神は古代より日本を統治していたと伝えられる。国土経営・農業・医薬の神としても霊験あらたかで、分社も1300余ある。

[宗像・厳島信仰] 宗像の神は3柱の女神。総本社は福岡の宗像大社で、辺津宮に市杵島姫神いちきしまひめのかみ)、中津宮に湍津姫神(たぎつひめのかみ)、沖津宮に田心姫神(たごりひめのかみ)をお祀りする。分社は6000余社あり、広島の厳島神社はこの神を平清盛が勧請して建ったものである。

[八幡信仰]
 八幡は分社が約25000社と稲荷に次いで多い神社で、総本社は大分の宇佐神宮。応神天皇を主神に、比売大神・神功皇后をお祀りしている。数多い分社の中でも石清水八幡宮・鶴岡八幡宮・藤崎八幡宮などが有名である。


2.本殿の様式


 本殿(神殿)は正殿とも言い、祭神が鎮まる建物である。神社の中心をなす建物で、神社建築の様式という場合にはこの本殿を指す。代表的様式として次のようなものがある。

      
神明造り            大社造り              流れ造り

   
八幡造り                 権現造り

      
春日造り              住吉造り            大鳥造り

[神明造り] 切妻(2面を合掌形に組んだ屋根)、平入(出入り口が棟と平行の側面にある)で、間口3間、奥行き2間が基本形。伊勢神宮の御正殿が代表例。

[大社造り] 切妻、妻入(出入り口が棟と直角の側面にある)で、間口と奥行が二間。扉の位置は正面に向かって右側。出雲大社が代表例。

[流れ造り] 切妻、平入で正面側の屋根だけが長く伸びている。全国的に多く見られる様式で、賀茂別雷神社が代表例。

[八幡造り] 切妻、平入の二棟の建物が前後に並ぶ。宇佐神宮が代表例。

[権現造り] 本殿、拝殿、幣殿(神社にお供え物をする社殿)が「エ」の字形をなす。日光東照宮が代表例。

[春日造り] 切妻、妻入で近畿地方に多い。春日大社が代表例。

[住吉造り] 切妻、妻入で間口が二間、奥行が四間と細長い。住吉大社が代表例。

[大鳥造り] 切妻、妻入で間口も奥行も二間。扉の位置が正面中央にくる。大鳥神社が代表例。




ホーム