7月半ば、朝からじりじりと熱い陽射しを受けながら校門をくぐった。 本格的に夏になってきたなあとうんざりしながらしばらく歩いたところで、 背の高い黄色い頭が目に入ってそこで足を止めた。

(ひまわりの時期、きたんか)
太陽の方を向いてしゃきっと咲いているそれを見ると、自分が一つ歳を取るのだと妙に感じる。 夏に生まれた者は大抵そんな風に思うんじゃないだろうか。


「わ〜、力いっぱいやなあひまわり。こない咲いとんのに気付かんかったわ」


元気いっぱいの張りのある声が聞こえて、少しだけ首を傾けてそちらを見やるとクラスメイトのが居た。 俺の視線に気付いたのかはこちらを向いてにこりと笑って「おはよう」と言った。

「ひまわりが咲くと、夏くるでーーって感じするよね。春の桜も凄く好きやけど、夏のひまわりもええよね。 小さい頃に本で読んだんやけどひまわりってな、たくさんの花が集まって一つの花の形しとるんやって。 びっくりやろ〜?あれや、スイミーって絵本知っとる?小さい魚が集まって大きい魚にみせる話。 それみたいやんな。財前くんもひまわり好きなん?」
「お前、思った事全部喋るんやな」
「そう?」

よう喋るなあ、と思いながらじっと彼女の話が途切れるのを待ち、 ちょっと失礼かと思いながらもその事を伝えると彼女はけろっとした顔で笑った。
まあ、思った事を喋るのは俺だってそうだけど。

「別に嫌いやないけど、格別好きでもないわ。やっぱ夏来るなあとは思うけどな」
「ふうん。そういえばひまわりはね、財前くんの誕生日の花なんやで」
「へえ、知らんかった」

なるほどこれからは、より一層ひまわりを見て自分が歳を重ねるのだと感じる事になるかもしれない。

「あと、コロンビアがスペインから独立した日でもあるし、月面着陸もそうや。 この一歩は小さいけど、人類にとっては偉大な一歩、ってやつ」
「メジャーなところはそんな日やな。俺も自分の生まれた日について調べた事あるけど、 他にはマクドが制定したハンバーガーの日やったり、Tがアルファベットの20番目やからって理由でTシャツの日やったり、 初めて行われた日っちゅう事で修学旅行の日やったりするらしいで。 まあ、世の中の記念日なんか毎日いくらでも数あるけどな。 何やったら別に俺とがひまわりを見た日て理由で今日が何かしらの記念日になってもええ訳やし」

彼女につられるように饒舌になる俺を尻目に、はしばらく「へえ」とか「ふんふん」とか、 なにやら熱心に相槌を打っていたけれど俺が喋り終わった後少しして、「ぶは」と笑い出した。

「財前くんも頭の中身全部喋ってるやん」
「まあな。でも言われへん事もあるで」
「そうなん?例えば?」

日が昇るのが早い夏だからか、春よりも高い位置にある朝の太陽がじりじりとこちらを見ているようだった。 ひまわりなんて見向きもせずに、俺たちの後ろを通り過ぎて行く生徒の波の中でふと心が静かになった。
答えを待って俺を見てくるの顔が眩しくて、目を細めた。

には内緒や」

そう言ってふと笑った後、俺は昇降口へと足を向けた。
後ろからついてくる彼女が「ええ、悪口ちゃうよね!?」と焦っていたので笑ってしまった。



呼びかけるあなたの声が
いつもより子供っぽい



(君が好きだという事実)