昼休み、今週末から行われる合宿のしおり作成をしてしまおうと教室を出た。 その途中、廊下でたまたま光と会って「手伝いますわ」という彼を引き連れて部室に向かった。
部室の机の上に平積みされてた紙の束をずらりと並べて、 「まず折るところから始めよう」と光を振り返ると物凄くめんどくさそうな顔で突っ立っていた。

「嫌なら来なくてよかったのに」
「別に」
「どうせこれ、マネージャーの仕事だし。いいよ、休んでて」
「いや、やる」

まったくこの子は何を考えてるかいまいちわからないなあと思ったが、 さすがA型といったところか仕事は早いし丁寧だ。
あっという間に折り終わったプリントが目の前に山積みになる。 今度はそれを一部ずつ重ねてジョイントするだけ。

私たちは並んでイスに座って、光が重ねて私がジョイントと分担作業を行った。

「はい」
「これで終わり?」
「すわ」
「やったー早く終わっちゃった」

バチンと小気味いい音を立てて最後の一部を丁寧にジョイントする。 「んん」と伸びをすると、光がこてんと膝の上に頭を転がしてきた。

「な、なに?」
「休憩」
「…その姿勢、逆に苦しくない?」
「別に」
「出た、別に」

私たちは所謂恋人同士であるのだけれど、光のスキンシップはいつも突然でよくわからない。 でもこんな風に接してくるのは彼が心を許している証拠なのではないかと思う。
私自身スキンシップベタな方だし、相手を触ったりするのも苦手な方で。 お互いなんとなく探り探りで距離を測っている。

(ああ、もしかして昼休みに一緒にのんびりしたかったのかな)
とふと思い当たって、何だかくすぐったい気持ちになった。
やるべき事は終わってしまったし、昼休みにもまだ余裕がある。 手持ち無沙汰だった手を、どうしようか迷って私は光の頭にぽんとのせた。 それからワックスでちょっとツンツンしてる髪の毛を絡めて遊んでみる。
すると、ちらりと黒い目が私を見上げた。

「あ、ごめん嫌だった?」

パッと手を離して謝ると、宙に浮いた手がぱし、と掴まれる。 で、再び彼の頭にダイブする。

「いや、気持ちええです」

(もっと、して欲しいってことなのかな)
先ほどと同じように、指に黒い髪の毛を絡めてひねったり梳いたり軽くひっぱったりして遊んでいると、 光は気持ちよさそうに目を瞑った(猫みたい)。
かわいいなあと思って小さくくすくす笑うとポケットに入れておいた携帯が震える。
なんだろうとあいていた片方の手でそれを取り出すと、謙也からの着信だった。
出るか出ないか躊躇ったけれど、同じ学校内に居てかけてくるくらいだから急用かなあと思い通話ボタンを押す。

「もしもし、」
『あ、?今大丈夫か?』
「うーん、一応。どうしたの?」
『悪いな。さっきオサムちゃんに備品の事で色々言われて倉庫来たんやけど、 新しいネットってもう来とるん?探せへんくて』
「ああ、ごめん。合宿終わるまでは使わないと思って分かり難いとこにしまっちゃった。でも何で?」
『さっき発注したとこから電話きて、不備があったから取り替える事になったらしいねん』
「ええ、そうなの?」
『ほんで午後に他の荷物と一緒に宅配で出してやる言うて探して来いて』
「そっかあ。んとね、マットの奥の棚のケースなんだけどそこまで行ける?」
『マット?て、これか?あ、ちゃうわ、あーマットいっぱいあんねんけど』
「えー?マット一塊になってるでしょ?」
『いや、何や散乱しとるけど』
「そんなわけないってば」
『いやあるて』
「もー、ちょっと待って私部室だから今から、あ、」

「行くから待ってて」と言おうとしたところで手の中にあった携帯は姿を消した。 むくりと起き上がった光が私を一瞬睨みつけて、携帯に向かって言葉を吐き出す。

「謙也さん、空気読んでください。今忙しいんで切りますよ」
『は?ちょ、お前どういう、

ピッという音と共に、謙也の動揺する声が掻き消される。
「はい」、と手渡された携帯を「どうも」と言って受け取った私の唇は数秒後には塞がれていた。


ジェネレーションギャップ
(不覚だった)



「ねえ光、今のはヤキモチ?」
「だったら?」
「ううん、ごめんなんでもない」

(いまいちわかり辛い年下)