「何なん」

休日の部活の午後だった。
作ったばかりの冷えたドリンクを部員に配ってまわっていたのだけれど、 タオルで汗をふいている財前くんのところで私は立ち止った。

「いや、ほんまピアスやったんやなあとおもて」
「はあ?」
「イヤリングやと思っててん。うち、結構目悪いからピアスかイヤリングか見えへんくて」

『何で急にそんな話?』という訝しげな顔で睨みつけてくる財前くんに、 「ごめん」と反射であやまると「何謝ってんねん」とそっぽをむかれた。
(ねこみたいだ、とたまに思う)(あんまり愛想良くないやつ)

「イヤリングやとちょっとテニスしただけで落ちてまうねん」
「ああ、なるほどね」

財前くんはひとつあくびをして、さっき渡したばかりのドリンクを一口啜った。
それから「で、何でそんな話」と言った(やっぱり思ってたんや)。

「謙也先輩が、財前のピアスはな女の数だけ増えてくんやで、 あいつドSやからおのれの女に穴開けさせとんねん、って言っとってん」
「……………はあ?」

さっきより酷く顔をゆがませて睨んでくる(これが彼の普通に人を見つめる姿勢なのかもしれない) 財前くんに、思わず一歩ひいた。
この態度だとおそらく謙也先輩に嘘をつかれたのだろう、 私も半分くらいは信じてなかったんだけれど。
(あの先輩は財前くんをからかうのが好きだ)

「でもさ、自分でやってるん?すっごい怖ない?」
「別に。痛ないし」
「友達もさ、痛ないっていうんやけど音がリアルやって話やんか。うち考えただけでぜったいムリやあ」
「一瞬やで。ああいうのためらったらあかんねん」
「財前くんクールやもんねえ」
「せやけど俺も一個目は義姉さんに開けてもろたで」
「えええやっぱドSで女に穴開けさせてるんやんか」
「ちゃうわ。初めて開ける時は慣れてる人の方が安定あってええねんて。 自分でやって感覚わからんで失敗するよりええとおもて」
「へえ〜」
も開けたいんやったら俺やったろか。男の方が力あるから一瞬で終わんで」
「ええーっ、いい、いい、遠慮しとく。うちそんな勇気あらへん」

ニヤリと口の端で笑う財前くんはやっぱりドSなのかもしれない。
あながち謙也先輩の言うことも嘘やないなあなんて思いながら、 ぶんぶんと首を振った。

「なんや。まあ勇気たまったらいつでも言いや。容赦なく開けたるわ」
「そんな日きっとこんで〜」

容赦なくピアッサーでバチンとされるところを想像して、私はおもわず自分の耳を覆って身震いした。 財前くんはそんな私を見てくつくつと笑い(めずらしい笑顔だった)、 「優しくしたるのに」と言った。


それ絶対嘘やしな