さん、バンソーコありませんか」
「絆創膏?うん、あるけどどうかした?」
「膝、擦ってもうたんですわ」

ちっとも痛そうな顔をしていない後輩の膝に視線を落とすと、 確実に擦ったとかいうレベルでは無い傷が出来ていて 生々しい赤い血が重力にしたがって彼の足を伝っていた。

「うわあ!それは保健室レベルだよ光くん!」
「別に我慢できひんほどじゃないんで。試合も途中やし」
「と、とりあえず傷口洗おう」

この子のそのクールさはどこから来るんだろうかと考えながら、 全く痛いそぶりを見せない光くんの代わりに自分が痛い気分になっていた。
手を引いて水場まで連れて行って、靴を脱がせてホースで膝に水をかけてやった。

「しみる?大丈夫?」
「問題ないっすわ」
「うわ、うわあ、痛いよ〜〜〜」

砂や血で覆われていた傷口が露出されると、思ったよりは大きな傷ではない事がわかった。 ただ、ダイレクトに傷口を見てしまうとますます痛い気分になって、 反射で顔を歪ませると光くんが「何であんたが痛そうなんすか」と突っ込みを入れてきた。

「うう〜思ったより傷口大きくないから部室にある消毒液と絆創膏で大丈夫かも…」
「さいですか」

「ちょっと待ってて」と言い残して走って部室から救急箱を持ってくると、 光くんはその場で暇そうにラケットをくるくる回していた。
(暢気だなあ)

「消毒液はちょっとしみるかも」
「はよしたってください」
「い、いくよ〜〜〜〜」
「…………」
「うおおおおお痛い〜〜〜〜」
「もう突っ込みませんよ」
「ギャグで言ってるんじゃないよ」

表情も変えず、ただ無言になる光くんを尻目に私は一人ぎゃーぎゃー言いながら 最後にぺたっと大きめのサイズの絆創膏を膝に貼った。

「動きづらくない?」
「どうってことはないです」
「あ、ちょっと待ってね」

膝を曲げ伸ばしている光くんの動きを止めて、 私はネームペンで膝の絆創膏ににこちゃんマークを落書きした。
物凄い嫌そうなクサイ顔で光くんが私を見下ろしたのは言うまでもない。
(こんなの謙也君たちに見られたら餌食になる事間違いない)

「何するんですか」
「嫌がらせ」
「はあ」
「何か私の方が痛かったから!」
「それはセンパイの勝手っすわ」
「光くんが痛がらないかわりに、痛がってあげたのに」

ますますクサイ顔になった光くんは、もう付き合ってられないといわんばかりに くるっとコートの方へ踵を返して「お礼は言いませんよ」と捨て台詞を吐いて歩いていった。
その姿をしばらく見ていたけれど、やはり絆創膏に気付いたメンバーたちが 指を刺して光くんを笑っていた。

しばらく、光くんは口を利いてくれなかった。


いたいのいたいの
とんでいけ