あなたと私は、友達じゃないけど あなたの友達と私は友達。
うんうん、だいたいそんな感じだったんだよね。 昨日テレビ見てたらたまたまやってた変なアニメの歌だった。 何となく頭に残って離れなかった。 ふいに忍足くんのこと思い出して、鞄の中の小さな包みのこと思い出して、 今日学校であったこと思い出して、何か、胸がぎゅっとなった歌だったから。



ガラリと扉が開いた、入ってくるその人が忍足くんであると気付いた教室中の女子が、 そちらに視線を向けていく。毎日そんな感じ。 忍足くんはそんな視線なんか気にしてないみたいで、 声をかけてくるクラスメイトには軽い挨拶をしながら窓際、つまりこっちに向かって歩いてくる。 なんでかってそれは、別に私のところに来てるわけじゃなく そこ(私の席の、なんと隣)に席があるからである。
どっこいしょ、なんて年寄りくさい言葉を吐きながら腰を降ろした忍足くんに、 私の前の席の友達が「侑士年寄りくさい」だなんて笑っていう。 そんな気軽さが羨ましかった。

「てか元気ないじゃんどうした?あ、昨日のバレンタイン、全部義理だったとか?」
「失礼な事いうなや。俺かて結構モテんねん」
「そうだね、忍足くんて人気あるもんね」

私は二人の会話に、たまに相槌をうちに入るだけ。 と忍足くんは、一年生から同じクラスというマンモス校の中では 結構奇跡に近いようなめぐり合わせをしてきていた。(たった二年連続なだけでも) だから当然仲だってよくて、たまたま私はそこに入れてもらってるだけで。 そう、たまたまこのクラスで と友達になって、何となく が忍足くんと仲がいいことを知って。 で、今たまたま3人の席が近かったから、何となくひとつの輪になっている、それだけなのだ。 どちらにもあまり近寄る事が出来ないまま、疎外感を感じる時がある。
でも、側にいるだけで嬉しいんだけど。

「まあ、いくらモテても本命から貰えへんかったらしゃーないわ」

ポロリともれた言葉だった。その言葉に、面白いほど反応をしめした は 悪戯を思いついた子供のようなにっこりとした顔で私を振り返ると、 ちょうど眉間の間に人差し指をつきたてて、言った。

「この子昨日、本命にチョコ渡せないでいた負け組みなんだよね〜あんたと一緒の負け組み」
「ちょっ、ちょっと、 !」
「え、さん好きな奴おったん?」
「いっ、いや別に、そのっ」
「あーさんのチョコもろた男憎いわ。」
「そうよねえ、だっては私達の娘みたいなもんだもんねえ」
「娘って!ていうか渡せてないんだってば!」

そうだ。二人がこんなノリだから渡せなかったんだ。というのは言い訳がましいけれど。 だって忍足くん、絶対の事が好きなんだもん。 だけど からチョコなんてもらえるはずがない。だって が好きなのは野球部のエースを張ってる人で、昨日だって呼び出した場所にその人が来るまで 一緒にいて!と泣きつかれたんだから。 そんな弱気な を見ることは滅多にないから、相当切羽詰っているんだろうと受け取れた。
うん、だから忍足くんは本命からチョコレートをもらえることなんてないんだ。まあ、今年はね。 (もしかしたら去年もそうだったのかもしれない)

忍足くんが を好きで、私は の友達で、それで多分忍足くんの友達でもあって、忍足くんと も友達だから…こんがらがったけど、要は私はこの関係図を壊したくなかったのである。


「ほんで渡せなかったソレはどうしたん?」
「えっ?」
「まさか捨てたとかちゃうよね?さんそんな食べ物粗末にするようなマネでけへんもんなあ?」
「あっと、それは…」
「私見たわよ〜今日も持ってきたでしょ」
「えっ!!」
「はい図星!」

は机にかけてあった私の鞄からすばやくラッピングされた小さな包みを取り上げた。

「ちょっちょっと!返してよ!」
「いっそ侑士にあげちゃえばいいじゃない。奥手だからどうせ今日も渡せないでしょ?他にあげる当てだってないんでしょうし、 あんまり日がたつとくさっちゃうわよ?」
「で、でもそれは、」
「俺、もろてもええの?」
「だっ、駄目!!!」

はい、との手から忍足くんの手に、二日前慣れない手つきで頑張った手作りのいびつなそれが 渡された。 それを強引に奪い返すと、また鞄の中にしまいこんだ。 思いのほかきつくて大きな声になってしまった私の拒絶の言葉に二人はかける言葉を考えあぐねていた。
(どうして、どうしてこうなっちゃうの)

「ごめんなさい…でも、忍足くんだけは、絶対駄目なの…」

(その言葉が、変に追い討ちをかけていたことを、私はあとでに指摘された。でもだって仕方ないじゃない、その包みの中にはチョコだけじゃなくて 小さな紙切れも入っているのだ。 それが忍足くんの手なんかに渡ったら、それが本命だってばれてしまう。 それだけは避けなくてはならなかったんだから。)

「は…はは…俺、なんや さんに嫌われとるみたいやな。何かちょっとショックやわ」
「そうじゃないよ!」
「ええねん。まあ女の子にとっては大事なもんやからな。それにそんな オマケみたいに渡されても俺も全然嬉しないし」
「あ…」

ぷいと頬杖をついてそっぽを向いてしまった忍足くんは、その日一日私と目を合わせなかった。 雰囲気も、言葉遣いも、表情もいつもと全然変わらなかったのに、 ただ、目だけは一度も私を見てはいなかった。

放課後、帰り際にからたった一言「ごめん」と言われて、堪えていた涙が堰を切って溢れ出した。



誰も悪くない、意気地なしな私が悪い
折角が私を後押ししてくれたのに、私はそれをも無碍にした
忍足くんも傷つけた

信頼を、裏切ったんだ(キス・アンド・テル)


キス・アンド・テル