コンビニで買った安っぽい飯を食べながら、さして興味のわかないニュース番組をBGMのように流してた。
はそれに時折茶々を入れ、「へー」とか「ふーん」とか中身の無い返事を俺は返した。 (なんだか退屈だ) そう思った事が態度で通じたのか、それとももそう思っていたのかはわからないけれど 「つまんなそうな顔」と彼女は肩肘をついて俺を流し見た。 「お前かてどうでもええ話ししとるなあとか思ってるやろ」 「多少は」 「好きおうてる男と女が一緒に居て退屈せんのは、自分たちの事だけ話題にしとるからやって昔どっかの学者が言っとったわ」 「要はユウジは私が話してる時、自分の話題以外は興味がなくて退屈って事?」 「半分肯定で半分否定」 「半分も肯定なん」 「でも半分は否定やで」 デザートのプリンをプラスチックのスプーンですくい上げながら、は「弁明になってないわ」と呆れたように言った。 それから「食べる?」とこちらにひとかけら突き出してくる。 甘いものが食べたい気分ではなかったけれど、当然のように俺はそれを口に運んだ。 その後、自分の口にもいそいそとプリンを運ぶ彼女を見ていたらふと、気分が昂揚した。 「なあ」 「何?」 「それ、食い終わったらセックスしようや」 「やだよ。何やそれ、今の会話の流れの後やと終焉前のカップルみたいやん。 そういうの以外する事ないっぽい。これ、嫌味やからね」 「アホか。盛られる事は名誉な事なんやぞ」 「私、思うんやけどユウジってほんま愛し方一個しか知らんぽいよね」 「それ以外いらんやろ」 食欲が無くなったのか、それとも俺へのあてつけなのか、はスプーンをカップの中に放り出した。 それから「じゃあ別れよっか」と俺の目を見て、そう言った。 (は?) 「このままじゃ、相手が駄目になっちゃうって思った時は粛正が必要やんな」 「突然すぎて理解できんわ」 「せやから、ユウジがほんまに私の事好きやったら、きっと後悔するやん。 そんで気付くねん。自分の愛し方がおかしかったんやろかって」 「はあ」 「ユウジは知的好奇心が足りてへんと思うねん」 はぺたぺたと四つん這いで俺の隣にやってきて、寄り添うようにくっついて座った。 言っている事と行動の矛盾に、少し苛立つ。 それもやはりわかってしまうのか、彼女は「今イラッとしたやろ」とついてくる。 「何で私がこんな事すんのかって、思われへんのやろ? ただ、物事が全部当たり前やって思うか、それとも自分の意に介さない事は『はあ?』て思うかどっちかやろ? 例えば、好き合うてるならセックスするんが当たり前やって思ってるから、 ”何で”したいと思うのかっていうのは始まりじゃなくて後からついてくる、そうとちゃう?」 彼女は言いながら俺の手を握り、それから俺の手の甲を撫でた。 もう片方の手で膝を抱え込み、視線はずっと握った手に向けていた。 彼女の言葉を噛み砕こうと、色々考えてみたのだけれど意識が若干彼女と触れ合っているてのひらに持っていかれる。 そうする事もまた、のたくらみの一つだったのだろうか。 間近にあった彼女のこめかみに唇を押し付けると、は嫌がりもせず目を閉じた。 それから自発的にこちらを向いたので、何か言いかけるようにうっすら開いていた唇に自分のそれをくっつける。 「結局、別れへんし、セックスはする。それでええんやろ?」 短いキスの後に額をごち、とくっつけながらお互い焦点の定まらない距離で見つめあいながら俺は言った。 は無表情で、しばらくした後に「まあ」と肯定を呟いた。 それを合図に彼女の腕を引っ張って向かい合うように引き寄せる。 「俺がお前を好きで、お前が俺を好きならどうでもええやん。どうせ、こういう俺が好きなんやろ」 「そういうユウジのマイルール的な部分て、私と付き合ってからうまれたよね」 「お前の躾がなってへんからこうなったて自覚あんのか」 「なんていうか…まあ、ええわもう」 「ああ、ある意味ちゃんと成長しとるで俺ら」 羽織っていたシャツを脱ぎ捨てながらそう言うと、「どのへんが」と抑揚の無い声でが言う。 「キスもセックスも、回数順調に増えとるやん。俺に言わしてみればそういう終焉を迎えるて本望ちゃうか。 イコール、完璧に向かって構築されとる証やろ」 何かに向かって努力をする時、上達したい時は練習量や時間を徐々に増やしていくものだ。 その繰り返しなんじゃないかと、俺は思う。 (きっとと俺は、小さな感覚のズレがあるのだろう) (けれどそれが、この関係を左右する程大きな亀裂ではなかっただけ) そのうち、一日が24時間あったって足りないくらい彼女を求めてやまない日が、 このままでは来てしまうのではないかと不安になる (ただしそれは彼女には決して伝わらないし、きっと彼女にはわからない)。 ああ、もしかしてそれを防ぐための他のやり方を思いついたらいいのだろうか。 (それがの言う、今の俺には理解出来ない愛し方なのだろうか) 彼女の唇に再び噛み付きながら、そんな未来をぼんやり想像した。 |