何かにつけて家でごろごろしたがるユウジが、めずらしく映画でも見に行こうというので、
久々なような気がしないでもない外出デートのために張り切ってオシャレをした。
それはユウジも同じ気持ちだったのか、いつもよりちょっとキメてる感じのヤツの隣を歩く優越感が半端なかった。 カップルがちらほら見受けられる映画館の一番後ろのド真ん中の席に腰を下ろす。 ユウジはポップコーンをぼりぼりと食べながらもらったチラシを眺めてた。 私はそんなユウジを眺めながら、アイスティーに口をつけた。 それから、今日のユウジの服について浮かんだ疑問について前フリをする。 「ねえ、ユウジの好きな色って藍色やったはずやんな」 「あ?いきなり何や」 「藍色やんな」 「はあ、まあそやけど」 「やっぱり?」 「自分からゴリ押しといてなんやねん」 「や、あんな、前からちょっと気になってたんやけど何でデートん時のコーデちょっとピンク系なん」 今日のユウジはピンク色のTシャツを着てた。こないだは小物のアクセントがピンクだった。 その前はピンク基調の靴を履いてた。その前は確かピンクのシャツを羽織ってた。 最初のうちは全然気にしてなかったけど、流石にこうもピンクばっかりだと何となく気になってしまう。 あれ、ユウジってピンク好きだったっけと。 誕生日プレゼントとか、日常目についてしまうものとかは全部藍色で、 それで間違ってたら恥ずかしいなあと確認してみたのだけれど。 私の疑問にユウジは「何を言い出すんだ」といった呆れたような顔をしてまたポップコーンを食べた。 それからさらっと、「ピンク着とると女受けええやん」と言った。 「え、それは何、もてたいからとかそういう感じなん」 「トレンドを取り入れつつ万人受け狙っていかな」 「うわ、なんやモテ男みたいで腹立つ」 「実際モテ男やし」 「…まあ、それは否定せんけどね、私は」 「何やねんしおらしいな」 確かに、ピンクの服を着こなす男の人って格好いいしかわいいと思う。 ピンクって女の子も大好きな色だし、親近感も湧くというか。 実際ユウジ見ててもいけてるなあと思ってたし、 でもそれが彼の故意による策略であるとわかってしまうと何だかはめられたような気がして憂鬱だ。 ていうか大体、これ以上モテたいとかそういう感じなのか。 だとすると(私の立ち位置って何やねん)。 「ええわ。自分で話ふっといて勝手にショック受けとるだけやからほっといて」 「はあ?いつもやけどわけわからんな」 「格好ええわユウジ。ほんま格好よくて私には勿体無いわ」 「お前気持ち悪いで」 「ちょお、突っ込むんならもっとええ顔で突っ込んでやそんなほんまにげっそりせんでええやん」 「ほんまにお前に突っ込んどる時は白石風に言うとエクスタシーな顔しとるわボケ」 「その発言は公共の場で言うとアウトや!」 「俺の突っ込みでよがるくせして」 何の話だったのかわからなくなった頃、「もうええわ」と私は前を向いた。 時計を確認すると始まるまでにはまだ数分の猶予がある。その間何を話そうと頭の中で考えた。 隣から聞こえるぼりぼりというユウジがポップコーンを貪る音を聞きながら、 ユウジは何がよくて私と居るんやろうかと考えてまた切なくなる。 きっと私は、ユウジのセンスに何ひとつ追いついては居ない。 けれど彼と居て居心地がいいと思うのは、ユウジがさっき言ったように彼自身が万人受けするものをわかっているからだ。 所詮私なんかきっといつもユウジの想定内で動いているに違いない。 (必死なのはどうせ私だけなんだろうな) 結局話題が見つからないままブーっと開始のブザーが鳴って、暗くなるシアターに会場が静かになった。 私はその事に安心して、一旦ユウジの事を考えるのを止めて映画に集中しようとスイッチを切り替えた。 もとい、切り替えようとした。 けれど、横からすっと伸びてきた手のひらが、私の片手をふんわりと包み込んで私の頭は再びユウジでいっぱいになった。 スクリーンの明かりで盗み見たユウジの横顔は無表情だったけれど、 てのひらだけは何となく優しい気がしてちょっとだけ安心した。 (これも、ユウジの計算内なんだろうか) そわそわした気持ちで、全く頭に入ってこない映画を見ながら私は映画が終わった後の事を考えた。 |