「ちょおユウジ、もっとそっち行ってや近い」

部活帰りにみんなでファミレスに寄り、何を食べようかとメニューを眺めている時だった。 向かい側のソファーに座っていたがそんな事を言い出しユウジが顔を顰める。

「俺かて隣がお前で何で小春がおらんねんて思うとるけど荷物あってこれ以上無理やねん」
「いや、ユウジならいけるわ。もっとこう、あれや。詰められへんなら縦に細なって」
「ああ、それええな。て、出来るかい!」

何を騒いでいるのか知らないが、俺からしてみれば彼らの距離が近いのはいつもの事だった。 自覚ある無しはよくわからないけれど、これで付き合っていないというのだから不思議なものだ (まあ、『小春』という存在がユウジにもにもある種のブレーキをかけているのかもしれない)。

それにしてもここは他にも客がいるファミレスで、 流石に仲裁が必要かと思い「自分ら何でそんな揉めてん」と声を掛けると二人揃ってこちらを振り返った (息まで自然にぴったりだ)。

「利き腕の事や」
「そうそう。ユウジって左利きやろ?うち、右利きやねん。この位置だと食べてる時ぶつかんねん」
「ああ、なるほどなあ」

レギュラーメンバーは左利きが多いし、大体にして隣同士そんな近い距離に座る事も無いから意識した事はなかったけれど、 確かに右利きの人が左側に座るとぶつかる事があるかもしれない。
まあそれは食事だけでなく鞄をどちらに掛けるかという事にも同じ事が言えるだろう。

「まあそれなら荷物を二人の間におけばええんちゃう?」

この提案に二人は「「ああ」」と同時に声を発して俺を苦笑させた。 どれだけ隣にいる事前提なんだろうか(と俺は思うのだろうけれどきっとお互い無自覚なのだろう)。

端に寄せていた荷物をいそいそと二人の間に移動させると、 は満足そうに「これならぶつからへん」と腕を動かしてみせた。
けれどユウジは何だか不満そうな顔で、「これ、俺何やはぶられとるみたいやないかい!」と文句を言った。

「ぶはっ、確かに!何やかわいそうな子やなあユウジ!」
「うっさい、大体お前が左手使って食えばええ話や。アホらしい」
「何やねん折角荷物移動しといて結局戻すんかい!邪魔!近いわ!」
「やんや耳元でうっさいわ!」
「せやから近いねんて!ていうか左利きの方が両手使えるはずやろ、ユウジが右使いや」
「俺の右手は聖域なんじゃ!」
「意味わからへん」
「しゃーないな、食事来たらアーンしたるわ」
「きもい、いらんそんなん!」
「ならお前が左使え!」

夫婦漫才見とるみたいやと思っていると、隣の財前もそんな事を思っていたのかふと小さな声で 「犬も食わないすわ」と呟いた。それに「せやなあ」と返す。
の隣に座っていた銀さんがそんな二人を見かねたのか、困ったように「はん、もっとこっち寄っても大丈夫やで」 とスペースを作っていたのだけれど、「そんな気遣わんといて!全然大丈夫やから!」と言う。
まあ、(会話のきっかけになる、理由なんてなんだって良くて絡んでいられたらそれでいいのだろう) 要はそういう事だ。

結局、席を立って位置を入れ替えるでもなく、助言の通り荷物を間に挟むでもなく、 ぎゅうぎゅうと寄り添って文句を言いながら二人は運ばれてきたメニューを平らげたのだった。



ノイズの中に紛れて消える、
(いつか、色づく時がくるだろうきっとそれは彼らの幼い恋心)