恋人に、求めるものならたくさんある。
それが自分の傲慢な我侭で、押し付けである事はわかっている (理解できないほど子供ではいられなくなってしまったから)。
それでも目についたものからどんどんと変えていってしまいたくなるのは、 それくらいに愛しているのだと高らかに言おう。




「俺今日な、夢精してんけど」

の部屋(テレビがある)にゲーム機を持ち込んで格ゲー対戦をしている時だった。 いっそ気持ちいい程の痛烈なパンチを食らって俺(の変わり身)が地面に倒れこむ。 画面ではそんな場面が繰り広げられ、そんなタイミングで俺は呟いた。

「ねえ、何で唐突にそんな話出てきたん。そもそもそんな報告いらんのやけど」
「いやそれがな、夢にお前が出てきよって」
「ちょお止めて、私の事汚さんといて」
「まあそれが、ヤッてる夢で」
「もうええて、そのテの話はええから、淡々と語らんでええから」
「そんでお前、イク時目瞑ってん。そこで目覚めたんやけど」

ぐでっと頭を背もたれにしていたベットに転がす。 ついでにコントローラーも握る気が起きず放り出したんだけれど、 が「どうでもええからゲームの続き」と俺にコントローラーを握らせようと必死になっていた。
彼女の指が俺の指をくすぐって、それが若干気持ちよくてピクリと反射で顔が攣った。

「なあ
「何?普通の話なら聞く」
「人間の内側は基本的に性感帯なんやで」
「ここがユウジの部屋やったら私、多分帰ってたわ」
「まあ聞けって。そもそもお前が俺の指股擽るからやないかい」
「くすぐってへんわ!何やそういう気だるい雰囲気なんとかしよう思て、コントローラーを」
「お前は俺が不感症やない事をまず喜ぶべきや」
「私は会話のキャッチボールが出来てへん事を嘆いて欲しい」

両手で顔を覆ったの腕を、がし、と掴んで引き剥がす。
ぽかんとした顔の彼女の唇を掻っ攫って押し倒した。

俺はしっかりと両目を開けて、彼女がほだされて熱を帯びていく様子を見てた (大体こいつは、そういう類の話を吹っ掛けた時点でちょっとノる)。
ふいに目を開けたと至近距離で目があって、逸らされて、瞑られた。


(こういうのも、嫌や)


長いバイトキスの後、「何なん」と腕で目元を隠すの腕を、また振り払う。

「いや、やから夢っちゅうか現実でも、お前がそうやってよう目瞑っとるって事に俺は気付いたわけや」

目が覚める一瞬。
目を閉じたに俺は怖くなった。鮮烈にそのイメージが頭に残って、気が狂いそうになった。
彼女がその、目を閉じた瞬間に誰を想うのだろうかと、 どうして俺を見てくれないのだろうかと女々しい事を考えた。 そんな事はない、は勿論俺が好きだなんてどこからくるのかわからない自信があるのは確かだけれど、 そう思って過去を掘り返してみたら、彼女は俺から目を背ける事が多いという事に気付いてしまった。

「ユウジが見過ぎやから、逃げたくなんねん」
「それだけか」
「何ーもう、それってそんなに突っかかるとこなん」
「どうしようもなく、嫌やねん」
「…ユウジは、変なところで自信家やのにそういうメンタルだけ弱いやんな」
「……白石みたいなイケメンには俺は勝たれへん」
「いやいや、話の流れ汲み取って話してほんま」
「やから、お前が俺に抱かれながら想像で白石を思い浮かべとったら嫌やって話やろが!」
「思考広がりすぎ!」

バチンと両頬を叩かれて俺はぎゅっと目を瞑った。 するとは「ほらユウジかてそういう時目瞑るやろ!」とちょっと怒った声色で言う (ああ確かに、何かの衝撃に備えたい時は目を瞑ってしまうものかもしれない)。

「さすがに私も怒った、むかつく、ユウジのバカアホマヌケ!あーもう、何かちゃう!ズレとる!」

ほっぺたを引っ張られたり抓られたりと勝手をされたので、「やめえ」と片腕を引っ張る。 残った方の手は添えるだけになったけれど、それでもは手を下ろさなかった。
それからやはりぷいっと顔を逸らして「ユウジは白石が好きなんや」と訳のわからない事を言い出した。

「はあ?」
「小春小春て言うてた割りに、普通に面食いなんや」
「待て、お前言うてる意味わからん」
「格好いいって思うって事は、それが好みの顔って事やろ。 ユウジの方がだいぶ私といてヨコシマや、私なんかユウジの事だけでいっぱいいっぱいで、 いっつも他の事考える余裕なんてあらへんもん」

じんわりと、の目尻にうかんだ涙を見ながら俺は彼女の言葉を咀嚼した。
それから自分でも想像以上に顔に熱が集まっていくのを感じた。

「いや、待てお前、」
「なに」
「お前、俺の事大好きなんやな」

口許も目元も、顔の筋肉がぜんぶ弛んでしまったみたいに、俺はにやけるのを止められなかった。
不満を口にして喧嘩して、それが直らなくたって別にいいんだ。
とりあえず、伝えてみる事が大事なんだなと改めて思ったのだった。



ノドに刺さった小骨


色んな事がつっかえてる感じ。
勝手に一喜一憂してゴリゴリに押してくるユウジが凄くいいと思って…
それで勝手に納得して勝手に赤面してとかフリーダム。
恋って楽しいよね!
(どこまでも私はユウジカップルにこういう話させたいんだっていうのが前面に出てますねすいません)