太陽が沈みかけた時間、空がオレンジ色と紫色にとけてて綺麗だった。 ぽつぽつと浮かんでいる雲を眺めながら私は晩御飯の事を考えてた。
気付いたらあっという間にバス停についてて、そこに夕闇色に染まったユウジ君がいたのだった。

声を掛けるかかけないか迷ったのは一瞬で、 その一瞬の躊躇いを感じた自分が少しおかしくて変ににやにやしながら「隣座ってもええ?」と声を発する。

「公共のもんなんやから勝手に座ればええやろ」
「ああ、確かに」

小春くんがいないとツンツンだなあなんて思いながら私はベンチにユウジくんとちょっと距離をあけて腰を下ろした。

「ユウジくんバス通ちゃうよね?」
「ちゃう。今日はチャリがめんどかったからバスやねん」
「めんどくさい時あるんや」
「人間やからな」

先ほどから一度も私の顔を見ないユウジくんに、頑なだなあと思いながら小さく笑う。
彼の横顔はいい感じに夕日に照らされてて、何かのジャケット写真とか雑誌の表紙とか、 そういうのに載ってそうな感じだなあとちょっとだけ見とれてしまう。

「何見とれてるん?俺、そんなに格好ええかな」

ふと、ユウジくんは物凄いキメ顔でこっちを向いて(丁寧にキメ台詞までつけて)、 その事にびっくりして固まると、「突っ込めや」と肩を叩かれた。

「あーもう、ユウジくん不意打ちや。今の白石くんのマネやろめっちゃ似とったー」
「完璧やったやろ」
「うん、本人そういうの言うてるん聞いた事ないけどね」
「俺も無いけどな」
「捏造や」
があんまり物欲しそうな顔で見とったからな。サービスや」

(気付かれてた)と、ドキリとしてそれから誤魔化すように笑った。
(まあ、この距離で視線を感じないわけはないよなあ)
て、いうか

「サービスて。ユウジくんの中では白石くんが一番イケメンなん?」
「はあ?俺の一番は小春や小春。せやけどまあ俺の知る限りでは白石が一番女受けええからな」
「ふうん。私、素のユウジくんでもいけると思うけどなあ。格好ええよ?」

オレンジの光がふと遮られて正面を向くと、バスの扉がガタンと開いたところだった。 よいしょ、と立ち上がってステップに向かったけれどユウジくんはなにやら顔を覆って下を向いたままだった。

「ユウジくん?乗らんの?あ、これちゃう?」
「いや、これやけどええわ、俺次乗る」
「ええ、」

どないしたんやろうか、と考えてもたもたしているうちに運転手さんから 「乗るの?乗らないの?」と声を掛けられて私は咄嗟に「すいません、乗らないです」と答えていた。
プシュウと背後で扉が閉まって、再びユウジくんに夕方色の光がさした。

「大丈夫?」と声を掛けると「空気読めやお前」とユウジくんは息を吐いた。

「私、帰った方が良かった?」
「いや、別に」
「ほなら、よかった(よくわからんけど)」

隣にすとんと腰をおろした私は、さっきよりもちょっとだけユウジくんの近くに座った。


夕闇が通り過ぎて行く
(逢う魔が時)