「ユウジ」 「あ?」 「嫌い」 「おん?」 春休み、唐突に家にやってきて玄関先で開口一番にが言った。 (どういうことやねん、突然なんやねん、)(もしかして別れ話でも持ちかけにきたのか?) と、寝起きの頭で考えて精一杯不快な表情を作ると彼女は「つまんないなあ」 と困ったように笑った。 それから、「ここ寝癖ついとる」とぴょこっと跳ねていたらしい俺の髪の毛をひとふさつまむ。 「どういう事やねん」 「寝ぼすけ、今日4月1日やんか」 「……………あー、てお前、それだけかい」 「ふらーと散歩出て、ユウジは今何しとるかなあてピンポンしてみた」 「びっくりしたやないかい、とりあえず上がれ」 「ええの?」 「起こしといて今更それだけで帰られても癪やボケ」 「じゃあ、お邪魔します」 ギイとドアを押し開けてやると、間からひょこりとは玄関に入ってきた。 重さで自然に扉が閉まるのを待って、バタンと音がしたのを合図にキスをした。 「なん?」 「いや?お前が珍しく好きとか言うからレスポンスや」 「好きとか言うてないよ」 「エイプリルフールの”嫌い”はツンデレの精一杯のデレやろ」 「私、ツンデレやない。どっちかっていうとツンデレはユウジやろ」 「俺は万年デレ期や」 「よく言うわ」 冷蔵庫をあけてコップに飲み物を注いでいる間に、が散らかり気味の部屋に入っていく。 ギシ、とベットに腰掛ける音が聞こえて少しだけ心がすうすうした。 「しかし大概お前も暇人やな」 「昼まで寝てる人に言われたない」 「アホ、俺歓迎会の仕込みで朝帰りやったんやぞ」 「そんな時期かあ」 「早いよな」 「うん」 ほれ、と渡したカップの中身を少しだけ啜ってはテーブルにそれを置いた。 手持ち無沙汰にそのまま後ろに倒れこんだので、俺もカップをテーブルに置いて圧し掛かってみる。 「今日はこういう事しに来たんちゃうもん」 「一人暮らしの男の部屋にホイホイ来るからこうなるんやで」 「一人暮らしのユウジの部屋に来ただけ」 「そのユウジクンは男です」 言葉ではなんだかんだ言うも、抵抗する素振りは見せずチープキスを繰り返す。 しばらくした後は身を捩って俺の下から抜け出した。 「ねえ、小春くんに嫌い、て言うた事ある?」 「また唐突やな」 「今日ってどれくらいの人が好きな人に嫌いて言うんかなあて」 「どうでもええがな」 「ユウジは言わんの?私に」 「言うて欲しいんかお前。マゾやな」 「構って欲しいだけ」 「せやから構ったるて」 上体を起こしていた彼女の腰にまとわりついて太股に頬を摺り寄せると 「トークがええ」と頬を抓られる。 「しゃあ無いなあ。何やお前今日随分寂しんぼうやな」 「べつに」 「そういうお前、嫌いやな」 真っ直ぐに目を見つめて真剣な顔でそう言うと、はしばらく固まってそれからこてんと再びベットに転がった。 「あーあーお前心底めんどいな」 「嫌いとか心折れる」 「お前が言え言うたんやろが」 「タイミングとかあるやん、あと顔とか声色。ユウジ本気やったもん」 「アホ、めっちゃ好きやっちゅうねん」 「それ、めっちゃ嫌いって事やろ」 「うわほんまめんど」 腕を絡め取って足も絡めあって噛み付くようにキスをした。 言葉が使えないなら態度でという事だったんだけれどそれでもは不安なのかずっと泣きそうな顔をしていた。 まったく今日は何なのか、大体4月1日は嘘をついてもいい日なんだよとか考えた野郎はどこのどいつなのか。 「小春には言うた事ないで」 「んん、」 「お前にも言うつもり無かった。後にも先にもこれっきりやな」 キスの合間にぽつぽつと話をすると、わかっているのかいないのか彼女はぎゅうと俺の服を握り締めた。 「嘘でもそういうの、よくないやろ」 「ん、ごめん」とは言い、それから小さく「すき」と言った。 (ああやっぱ、わかっとるけど紛らわしい日や) とおままごと 二人とも大学生で、ユウジは一人暮らし設定。 この場合のバニーとはうさぎ(さびしい)という意味で考えました。 季節のイベント毎を盛大に楽しみそうなユウジも、「嫌い」という嘘はつかなそう。 時期外れなネタですいません。 |