「私たちこんなにのんびりしててええのかなー」

テスト週間で部活がなく、午前中で学校が終わった日の事。 ファミレスに寄って適当な飯とドリンクバーを頼んでだらだらと時間を潰していると、 グラスの中の氷をストローでカラカラとかき回しながらが言った。

「のんびりする以外する事ないやろ」
「テスト週間て、あれやんか、勉強するための週間やろ?」
「勉強てお前どうせ覚えられへんやろ」
「失礼な、別にテストの為だけに勉強しなくたって余裕なだけやんか」
「はい、言うてみたかっただけー」

つん、と唇を尖らせたは俺から視線を外してだらりと背中をソファーに預けた。 何を考えているのかわからない顔で窓の外を眺める。 頬杖をついたまま俺も視線を窓の外へ放ると通りではせわしなく人が行き交っていた。

確かに、暇だ。
彼女も考えている事は同じなのだろう、脈略も無く「しりとりでもする?」と言ってきた。

「まあええけど」
「じゃあ私から」
「アホぬかせ、最初はじゃんけんで勝った方からや」
「何そのルール。大体言いだしっぺからやろ」
「じゃんけん」
「あ」

じゃんけんのリズムを取られると大抵の人間は何かしらを出してしまうものだ。 ぶつくさ言っていたも例外なく慌てて拳を振りかぶった。
俺グー、チョキ。
こいつ、何でかわからんけどじゃんけんすると必ずチョキ出すねんな。学習せんヤツ。

「はい俺から」
「待って、私のチョキはなー、岩砕くねん」
「おい、痛いわ」
「私もいたい」

は俺の握った拳を挟むように人差し指と中指を押し付けてきた。 別にそれほど痛くはなかったがとりあえず文句を言ってやった (まあどちらかと言うと確実に彼女の方が痛いはずだ。手小さいのに頑張りすぎ)。

「ほな、ミカン」
「はあ、もう終わってるやんか!」
「何やめんどくなったわ」
「ええー、じゃんけんまでしたのに」
「ちゅうかお前どれだけ暇やねん」
「ユウジかって暇そうやん」

「まあな」と言って汗をかいたグラスの中で、小さくなった氷を眺める。

「帰る?勉強でもしようかな」
「どうせせんくせにな」
「するもん」
「へえ。ほな家来いや。見ててやるわ」
「見てへんでユウジもやればええやんか」
「俺はテスト勉強なんかわざわざせんでも充分や」
「うわ、蒸し返しよる」
「お・れ・は、ほんまの事や」
「むかつく」

伝票と鞄をつかんで立ち上がると、「あ、ほんまに帰る?」と慌ててがグラスの中身を飲み干した。
帰り道、「ユウジの家行く?」と聞いてくる彼女に「来たらええやんわからんとこ教えたるわ」 と親切ぶってみると笑い混じりで「じゃあ全部」という返事が返って来た。

(まあ、全部教えたってもええけどその分体で払ってもらいます)


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