放課後の保健室はとても静かだった。 サボりの生徒は6限目が終わったら当然帰っていくし、 小うるさい保険医はどうやら職員会議らしい(扉に張り紙がしてあった)。
その静けさにしばらく浸った後、カーテンで区切られた狭い空間につま先を向ける。 一言も無くシャッとそれを開くと、中でダウンしていたユウジが目をひん剥く。

「お前、一言かけろや。オナニー中やったらどうすんねん」
「足音で気付けや。ていうかそういう言葉女の子に堂々と言うん止めて。つか学校ですな」

冷たい視線で見下ろした後、ぼふっとお腹のあたりにユウジの鞄を投げてやる。 全くどうして私がこんなヤツの面倒を見なきゃいけないのか、 双子が同クラにならないよう配慮をするなら幼馴染もそういう配慮をして欲しい。

「一氏の事は頼んだぞ」と無責任な担任は私にユウジを押し付けてホームルームの後さっさと教室を後にした。 皆の前でそんな事言われて置いて帰ったら私は翌日非道な人間呼ばわりされるじゃないか。
ひどく不本意ながらに私はユウジの汚い机の中身を鞄に突っ込んで、 午後の授業から体調を崩して保健室に連行されたそいつのためにここまでやってきたのだった。

「俺、病人なんやぞ」
「せやから何やねん、だいたいそんな軽口叩けるくらい元気なヤツは病人て言わへんの」
「あーあー、何で迎えお前やってん俺のエンジェル小春は、小春はどないしてん。 きっと今頃泣いとるわ、俺を求めて…」
「あんたのエンジェルならものっそい笑顔で私に手振ってスキップしながら部活行ったで。 キモい蛆虫おらんくて今日は部活楽しいんちゃうの」
「お前俺に謝れ」
「はあ?」

現実と妄想の区別くらいはつくらしい、 きっと小春は実際にそういう態度だったのだろうと理解したのかユウジは顔を覆って泣きマネをした (いや、実際ちょっとじわっときたのかもしれない)。
さすがに酷く当たりすぎたかなと思って頭を撫でる、 するとパカっと指を広げてその間からユウジが私を見つめてきた。 少しあいた額に触れると、確かにまだ熱があるのかじっとりとあつかった。

「無駄口叩ける元気あるなら歩いて帰れるやろ。鞄くらい持ったるからはよ帰るで」
「何や優しくてもキモいな」
「しばき倒すでほんま」
「明日からお前のあだ名が非道な猛獣とかになってもええならやりや」
「ラチあかん」

先ほど投げつけた鞄をひょいと持って踵を返すと後ろから腕を掴まれて、 それが思いのほか強い力で引かれたもので私はバランスを崩して背中から倒れこんだ。 ひゅと、息をのんで目を白黒させたのだけれど想像した痛みは訪れず、 背中に感じたのは布団の柔らかい感触だった。

「な、、、、っにすんねんボケ!!!」

危ないやんか、と言いたかったのだけれどその先は言えなかった。
顔に影がおちて、唇に柔らかいそれが重なって。
私は倒れこんだ苦しい格好のまましばらくユウジにされるがままになっていた。

「勃った」
「はあ?」
「お前が触ったからやで。責任とれや」
「アンタの思考回路、いっぺん医者に見てもらい」
「熱っぽい、体あつい、女のホルモンに触発される、簡単やがな」
「私の優しさとか同情をそういう悪質なもんに巻き込まんで」


私の名前をふいに呼んだユウジの顔が切なそうな目で私を見ていて、(バカげてる)と心の中で嘲笑した。 いくら投げやりだって、あんたの事で私が本当に非道になったことなんて一度もない。
(それがわかってるこいつも、性質が悪い)(けど)

「私への愛があるんやったら責任とったってもええけど、無いんやったら帰る」

(愚かだ、所詮私もいかれてる)
「あるに決まってるやろ。お前の事好きやもん」と口の端で笑ったユウジに、 私は体制と整えてからキスをした。


自律神経出張症

救いが無いようにも思えるけど愛はちゃんとあるし両思いですきっと。
ナアナアの関係ってやつです。