部屋でだらだら音楽聞いたり雑誌読んだり、たまに会話したりそんなゆるい休日を楽しんでた。 そろそろ一人が飽きたのか、が雑誌を放り投げて「ねえ」と言った。
ベットの上で寝転がって携帯を打っていた俺は、パキンとそれを閉じて肩肘ついたままの方を向く。 ベットにもたれ掛かってたも、俺の方を振り向く。
カチッと目があって、なんとなくキスした。

「いつものやって」
「ん〜っ、エクスタシー」
「うわ、やっぱ似とる、ていうか顔はいいよ、顔は」
「完璧に真似な意味ないやろが」
「こまいなあ」
「こだわりや」

いつからだろうか、モノマネを得意と自称するようになったのは。
クラスではあまり目立つような子供ではなかったし、他人と関わるのも得意な方じゃなかった。 自分だけの何かを見つけよう、誰かに好んでもらえるような自分をつくろう、 そんな気持ちから何気なく始めたのがモノマネだった。
気付いたら俺イコール物真似、みたいな定着振りになったしおかげで俺は大スター。 みんなに認知されて、「モノマネせえ」とせがまれる事も多くなった。

も俺のモノマネファンの、一人だ。

「次は?」
「先輩ら、きもいっすわあ」
「ぶは、うち思うんやけどそれが一番似とるて。言われすぎやからかな」
「それもどうかと思うけどな。俺、先輩やっちゅうねん」
「次」
「……………」
「………………何?」
「オクラ」

スプリングを軋ませながら逆立ちして静止する。しばし沈黙があって、が盛大に噴出した。

「意味わからん、それモノマネになってへん」
「お前オクラがどんな風に実生らすか知らんのやろ」
「ええ、そこ?」
「キュウリみたいに垂れ下がってなるんちゃうで。ピンと上向いて逆立ちするみたいに生んねん」
「へえ、知らんかった」
「せや、俺のここみたいにな」
「さらっとシモネタ言うんやめて。どういう顔して突っ込めばええかわからん」
「その顔見たくて言ってんねん」

「アホ」、そう言ってはそっぽを向いた(きっと顔を赤くしてるに違いない)。
するっとベットから降りての隣に座るとはチラッと俺を見て、その後両手で顔を覆った。
どうやらちょっと機嫌を損ねている、こんな時はこいつの好きな俳優のモノマネに限る。

さん、前からずっと好きでした」
「………うわあ」
「今度デートしませんか?ディナーのおいしいお店があるんです」
「………むり…うわあ、うわあ…」
「無理て何やねん」
「かっこええ、そんなん言われたら失神する」
「ならはよ失神せえや」
「だって言うたのユウジやもん」
「…何やカチンとくんなあ」
「ねえ、もっぺん言うて」
「はん。もうやらんわボケ」

両足を投げ出して頭をコテンとベットに預けると、が「そうやなくて」 と言いながら俺の太腿に軽く右手を置いた (こういうさりげないスキンシップが、愛おしい)(多分こいつは無意識やけど)。

「ユウジの声で言うて欲しい、そういうの」
「はあ?」
「なあ、うちユウジのモノマネが好きなんやなくて、ユウジが好きなんやで」

(こいつ、天然やなあ、かなわん)

噂が広まる、期待が膨らむ、負けないように努力する。 確かに嬉しい、それが俺のアイデンティティなんだと実感がわく。
けれどふと不安になる瞬間がある、それはまるで芸人が芸風をチェンジする時のような。 バンドマンが方向性を変えたり、インディーズからメジャーデビューする時のような。
キャラではなく、自分を認めてもらえるだろうかという不安だ。

わかってる、今の仲間がそんな事気にする奴らじゃない事くらい。
モノマネなんかあくまで俺の付随でしかないって事くらい。

けど、これが惚れたもん負けって奴やな。
こいつに限って自信がもてへん、わからん、怖くなる。
(けど、モノマネなんかなくたってこいつは俺の傍に居ってくれるちゅう事やんな)


「うん?」
「ありがとな」
「ええ?」
「何や自分の存在を改めて実感したわ」
「壮大な事考えるなあ」
「お前だけは俺の事捉まえとってな」
「ユウジ?」
「モノマネしすぎて自分の事わからんくなってまうかもしれんやろ」
「えー、いくらなんでもそれはないやろ」
「ドアホ、ずっと傍におってなっちゅう事や!」
「何やそれめっちゃわかりにくい!」


お前おらんかったらほんまアカンわ

ユウジにちょいちょいシモネタを混ぜたくなってしまいます。
困ったものです。