暑い夏の日だった。
学校帰りにコンビニでガリガリくんを買って、バリっと袋を開ける。 自転車を押しながら歩いていたユウジくんの分も同じように開けてあげた。
ぬるい外気に晒されてすごい勢いで汗をかいていくアイスをかじりながら、 今日あった事を報告しあう。 古典の教科担任の口癖についてとか、物理の実験の事とか、 友達の恋愛事情とか噂話とか、その場限りで忘れてしまいそうなことばかり。
そんな中ふと、ユウジくんが立ち止まった。

「どないしてん?」
「んん?いや、この公園改装工事しとったんやけど、遊具増えとるわ」
「ふうん」

ユウジくんの視線の先にある公園を見ると、動物をかたどったかわいらしい遊具や 小さなバケツが置き去りにされてる砂場、滑り台にぶらんこなど。 オーソドックスな遊具が並んでいた。
改装が終わったばかりなのか、どれもぴかぴかに輝いて見えた。
そんな中、私の目をひときわ引いたものがあった。

「あ、なつかしい」
「何が?」
「あれ。ジャングルジム」

食べ終わったガリガリくんの棒を口にくわえて私はジャングルジムに向かって走った。 後ろで「おい」というユウジくんの声が聞こえたけど気にしない。
肩にかけていた鞄を砂の上に放り投げて、私は太陽の光をあびて熱くなった 鉄パイプに手をかけた。

「幼稚園の頃、どうしてもてっ辺まで怖くて上れんかったなあ」
「だっさ」
「やって、落っこちたら痛そうやんか」
「おい」

今なら幼かった自分より骨格はしっかりしたし腕力だってある。 あの頃見えなかった景色が見えるかもしれないと思ってぐん、と地面をけった。
子供用の遊具だし、それほど高さがあるわけじゃなかったジャングルジムのてっぺんに、 私はあっという間にたどり着いた。
ほんの少しだけ近くなった空。さっきよりちょっぴりふく風が強い気がした。

「なんや全然怖ないなあ。何で怖かったんやろ」
「それよりはよ降りいや。家帰りたい」
「ユウジくんも登ればええのに。あ、でもユウジくんが見下ろせてええ気分や今」
「へえへえ。俺かてお前のパンツ見えてええ気分やで」
「え」

口の端だけで笑ってみせるユウジくんに、思わずスカートの裾をおさえると 「冗談や、おいてくで」と言ってユウジくんは無造作においてあった私の鞄を拾い上げて 自転車をひいて歩き始めた。

「あっ、待って」

地面に着地した私は、少しくしゃっとなったスカートを直しながら小走りにユウジくんを追いかけた。


置いて行かんとって
(今日は水玉か〜)
(ちょお、やっぱ見えてたんやんか!)
(見えたんやない見せられたんや)