あれから、小春くんがいないところでも私はよくユウジくんと一緒にいることが増えた。 周りからはとても驚かれたし珍しがられたけれど、一番驚いているのは私である。 どんどん自分がユウジくんに惹かれていくのを感じる。 こんな気持ちばれたら、ユウジくんはどう思うだろうそう考えると少し怖かった。
相変わらずユウジくんは小春くん一筋で、小春くんと一緒にいるユウジくんはとても 活き活きしていたし輝いていた。 多分、そんな彼だからこそ好きになったんだろうなと思う。 だから私は、小春くんが好きなユウジくん、に恋をしているのかもしれないと思った。
横恋慕が好きだなんて自分もわからないなあ。 いや、横恋慕というか、それは何か違うかもしれないけど。

恋人同士になりたいとか、そういう願望があるわけでもなかった。
ただ、一緒に居て楽しくて。そこにふわふわとした甘い気持ちが少しだけある。 ただ、それだけだった。

今日は放課後に、小春くんとユウジくんと3人で最近出来た喫茶店でデザート食べてだらだら しようと約束していた。 お互い何かしら用事があるから、済んだら昇降口ねという事になり 職員室に寄った後する事のなかったわたしは、すぐに昇降口へ向かって内履きから ローファーに履き替えた。
まだ来てないだろうなと思ったらユウジくんは昇降口を出た花壇のところでケータイをいじっていた。

「あれ、ユウジくんに先越されとった」
「ああ。それよか小春、生徒会に拘束されて喫茶店行かれんくなってもうたて」
「えええほんま?ショックやあ…小春くんとスイーツ食べたかったあ… 小春くん梅干好きやから梅使ったケーキなんか珍しいと思って誘っとったのに… ていうかどうする?今日は止めて次の機会に行こか」
「折角やから今日行ったらええやん。、どうせ今日はケーキのスイッチもう入ってんのやろ」

その言葉にびっくりして、私は思わず口を開けたままぽかんとしてしまった。
学校ではよく二人で喋るようになったけど、小春くん抜きで遊んだことは今まで無かったし、 『小春がおらんのやったら行かん』という返事がかえってくるのをちょっと期待して 私はあえて中止を提案したというのに。

「何や俺だけやったら不服言うんか。死なすど」
「いや、普通にユウジくんの方が嫌がる思ててん。小春くんおらんのにええの? わざわざ学校出てまで私と二人でおらんでもええのに」
「お前、ほんま死なすど」
「やって、…まあ、一緒してくれるなら嬉しい」
「最初からそう言っとけばええねん」

満足したように笑ったユウジくんは、手に持っていた携帯をポケットに突っ込んで歩き出した。 喫茶店についた私たちは、向かいあうように座ってそれぞれお目当てだったものを注文した。 元々オープンのチラシを貰っていて、それを見て何を頼むかはもうきめてあったのだ。
他愛ない会話をしていると、デザインがかわいい制服をきたウェイトレスさんが ケーキの乗ったお皿を2つ運んできて、それから 注文していなかったはずのアイスをテーブルに置いた。

「あの、これは頼んでないんですけど、」
「オープン企画で、カップル限定にサービスしてるんです。よろしければ」
「かっ、カップル!?」

びっくりして思わず大きな声でそう言うと、にぎわっていた店内が一瞬しんとして。 ユウジくんが「アホ」と私に一声かけ、 「ありがたくいただきますわ」とウェイトレスさんに微笑んだ。

「私たち、カップルに見えるんやね。ごめんね、ユウジくん」
「はあ、何で謝んねん意味わからん」
「だってユウジくん、小春くんが好きなんやろう?」
「好きやで」
「好きな人以外とカップルって言われたら普通嬉しくないやんか」
「お前は嬉しくないんか」
「うち?うちは嬉しいばっかりやで。ユウジくんの事好きやもん」

他意はなかった。ほのかな恋心がそこにはあったけれど、 人として、友達として好きだと言う意味で言ったつもりだった。
けれどユウジくんは、少し頬を染めて照れたように頭をかいた。

「お前、直球やな」
「なんで?ユウジくんが小春くんの事好き好き言うてんのと変わらんやん」
「変わるわボケ。簡単に異性に好きとか言うな。誤解するやろ」
「誤解ちゃうもん」
「お前な、俺が小春の事好きやと思って安心しきっとるやろ」
「だってユウジくん、小春くんの事好きやん。そんな事言ったらユウジくんかて、 私の事女の子やから安心しとるんちゃうん」
「意味不明な事言うな。俺ホモちゃうぞ。小春への好きは行き過ぎたライクみたいなもんや」
「行き過ぎてるんやったらラブやん」

溶けそうになっているアイスクリームを、小さなスプーンで掬って 口に運ぶとほんのりとレモンの味がした。
「おいしい」と呟くと、ユウジくんも同じように口に運んで「ほんまや」と呟いた。

、何で今日二人でここ来たんかわかっとらんやろ」

しゃくしゃくと皿の上のアイスクリームを崩してそれを口に運ぶことに夢中になっていた私は、 ユウジくんが真剣な顔をしていたのにも気付かず「うん、なんで」とそらで返事をした。
ワンテンポあって、その間に顔を上げた私は。
かっこいい顔のユウジくんと目が合った。


お前が好きやからに
決まってるやろ