結局3人でカラオケに行き、私と小春くんはノリノリでアイドルの曲を歌い、 ユウジくんはストローを噛みながら小春くんと私を交互に眺めていた。 ユウジくんはふてくされたまま、それでも小春くんの隣に頑なに座っていて。 たまにうたぼんをめくり何曲かロックを歌った。
歌っているときのユウジくんは普通に格好よくて、「おお」と小さく声を上げたら 小春くんが私に「ユウくん、普通にしとるとかっこええやろ?」と耳打ちしてきた。
そんな私たちを見て、ユウジくんはマイクを握ったまま「浮気か!!」と叫んで。 その大ボリュームの声に機械がキインという耳障りな音を立て、 ユウジくんは小春くんに怒られた。

帰りにゲーセンでプリクラをとり、ハートのスタンプがたくさん押され 『初カラ』と大きくかかれたものが出来上がった。 しっかりユウジくんも写っていたけれど、「小春が女と写ったプリクラなんかいらん」と 受け取りを拒否し、結局私と小春くんとで半分こすることになった。

家に帰ってから、今日交換したばかりの小春くんのアドレスへ「ありがとうまた行こうね! むっちゃ楽しかったわ!」とメールを送ると、 「もちろんや!それからユウくんの事、悪く思わんであげて。ほんまは格好ええ男なんやで。 ちゃんにおススメするわ」と返ってきた。

(おススメするって…言われても…)
あっちは完璧に私の事が嫌いだと思う、と一人苦笑した。
先約があったのをゴリ押しでカラオケまで連れて行ってしまったのは私だし、 小春くん一筋(本気なのかネタなのかは、本人にしかわからないけど)という ところも、格好いいと思う。 だからユウジくんが嫌いになったりはしなかった。


翌日、朝からやけに視線を感じるなあと思って、授業中にちらりとそちらを振り返ってみたら 頬杖をついてペンを回していたユウジくんと目があった。 ユウジくんはびっくりしてすぐにプイっと視線を逸らして、 私もすぐに前を向いたけれどその後も視線はずっと私の背中を射抜いてきているみたいだった。

昼休みになって友達とお弁当を食べ終えた頃、生徒会のミーティングに行った小春 くんの席にユウジくんが座ってきた。 どうしたのかなと思っていると、ユウジくんはやっぱりじっと私を見ていた。

「あの…どうしたん?」

ユウジくんが何も言わないので、もしかしたら小春くんに近づくなと釘を刺しにきたの だろうかと不安になって私はちょっとおどおどしながらそう問いかけた。

「…小春が好きなもんの研究や」
「は、はあ」
「しゃーないから、俺もお前の事好きになったろ思て」
「それは嬉しいけど…」

もちろん、友達として好きになるという意味だというのはわかったのだが、 真剣な顔をしているユウジくんはやっぱり格好よくて何だか恥ずかしくなった。 じっとこっちを見てくる視線に耐えられなくて顔をそむけたけど、 ああ、これだと私が意識してるみたいでおかしいかなと思ってやっぱり ユウジくんに対抗してみる事にした。
小春くんとはまたカラオケに行こうねと約束した仲だし、きっとユウジくんもその時は一緒に 来るだろう。 小春くんとはこれからも仲良くしていたいし、今のうちに私もユウジくんに対する(色んな意味での) 免疫をつけておこうと考えた。

「…な、なんやねん」

しばらく無言で見つめあった後、意外にも先に視線を逸らしたのはユウジくんだった。 (ちょっと、照れてる気がする。こんな顔もするんだ)

「いや、私もユウジくんの事好きになろ思って」
「は、はあ!?」
「そんなに驚かなくてもええやん、さっきユウジくんが言ったセリフやねんけど」
「そっ、それもそうやな、」
「仲良くしようよ、お互い小春くんが好きな仲間やもん」
「小春は渡さんで」
「はは、別にとろうと思ってへんから安心して。ほんまユウジくんて小春くんが好きなんやね」

恋(なのかどうか果たしてわからないが)をしている人ってやっぱり輝いていると思う。
「当たり前や」と言うユウジくんが今度こそはっきりと頬を染めて照れている姿を見て、 何だかユウジくんと少しだけ距離が縮まった気がして嬉しくなった。
それから、(ほんまは格好ええ男なんやで。 ちゃんにおススメ)という小春くんの言葉を思い出して、 私もちょっと照れてしまったのだった。


やめてよちょっと
ときめくやんか