「あれ、それ小春くんのやったん?ええよねその歌」

昼休みが終わった頃、自分の席に戻ると隣の席の小春くんの机の上に一枚のCDが置いてあった。 それは今朝学校に来た時、教卓の上に無造作に置かれていたCDだった。 自分も好きなグループのCDだし持っていたからよく覚えている。
誰のだろうなあと思って見ていたのだけれど、それが小春くんのだったとは驚きだ。

「あら、ちゃんこのグループ知っとんの?」
「うん、うちファンやもん。けどあんまり売れてへんよねえ、ええ曲ばっかやのにもったいない」
「そうやねえ、だから布教も兼ねてお昼の校内放送で昨日かけてもらったんやけど気付かなかった?」
「えっ、そうだったの?私雑用で体育館いたからなあ気付かんかったみたい」
「そら残念やったわねえ」
「そういえば小春くん、一個前のシングルのシークレット聞いた?めっちゃかわいい曲やったよ」
「あらっ、私とした事がシークレットには気付かなかったわ!今日聞いてみるで」
「うん、おすすめ!1曲目がかかったら巻き戻しボタンおしっぱにしてみて!入ってるから!」
「オッケー!」

小春くんとは元から割りと仲が良かった。 隣の席になって結構経つし、女の子に近い感覚で話せて楽しい。 それはどうかと言う子も中にはいるけれど私は小春くんと居るのが割りと好きだった。
まあ、大体はユウジくんとべったりだから話す機会はそれほど多くないのだけれど。

翌日、「ちゃん、聞いたわよ〜!」というハイテンションで小春くんは教室に入ってきた。
それまで一緒に居たらしいユウジくんが、「小春ぅ!!」と大声で叫ぶ声が聞こえる。

「めっちゃ良かった!!ちゃんが教えてくれへんかったらあんないい曲聞き逃すとこやったわ」
「ほんま?良かった〜!あれ、シングルやったらカラオケ配信されたかもしれんのにね〜。 めっちゃ歌いたい」
「そうねえ。そや、あの歌は歌われへんけど他の曲歌いにカラオケ行こうや!デュエットしましょ!」
「ほんま!?行こ行こ!せやけど小春くん毎日部活あるちゃうん?」
「今日は午後練無いねん。丁度良かったわあ」
「うわあ、なら良かった!めっちゃ楽しみや〜!」

きゃっきゃ、と手をパンと小春くんとあわせると天井に向かって伸ばした手首を掴まれた。

「オラア、小春に触んなや!」
「わっ、ごっ、ごめんなさい!」
「ちょっとユウくん、ちゃんに何てことしはるん!」
「せやかて小春、今日は俺と漫才の練習するて言ってたやろが!」
「えっ、そうだったの?」
ちゃんの顔見たら、どうしても今日カラオケに行きたい気分になったんやもん。ユウくん堪忍」
「浮気か!!死なすど!!!?」
「あ、ねえ、じゃあユウジくんも一緒に行こや!」

マイナーグループのファンがこんな近くに居て、カラオケで一緒に歌おうと 言ってくれているのが嬉しくて。 私の脳内は完璧に今日カラオケに行きたいというスイッチが入ってしまっていた。 ユウジくんには悪いし、ちょっと怖かったけれど。
それなら一緒に行ったらいいじゃないかと思ってそういうと、「ああ!?何寝ぼけてんねん!!」 とユウジくんはすごんできた。
(二人って本当に付き合ってるのかなあ)
それだと私は間女だなあと冷静に考えて、どうも妙な気分になった。

「ユウくん!あたしの大事なちゃんにそんな態度取るユウくんなんて嫌いや!どっか行ってまえ!!」
「こっ、小春ぅううう!!!」

そっぽを向いてしまった小春くんを見た後、ユウジくんはキッと目を吊り上げて、 唇を噛み締めて私を振り返った。
それから、物凄く悔しそうに、上から目線でこう言った。


「一緒に行ったろか?」

もちろん私は、苦笑しながら「お願いします」と言った。