「千歳くん、寝た?」 まるで修学旅行の夜にそわそわして寝付けずに、話し相手が欲しくてまわりに問いかけるみたいに私は呟いた。 その意図としては、話し相手が欲しいというよりは相手が寝ているかどうかの確認だったのだけれど。 千歳くんは目を瞑ったまま少し笑って「寝とう」と言った。 「あと何秒で寝れる?」 「んん、が寝たら安眠できるばい」 「じゃあ私、もう寝た。はい」 「ぐう」と声に出すと、「なんね」と笑って千歳くんは私の髪を大きなてのひらで梳いた。 体温の高い千歳くんのあったかい手に翻弄されて、うとうとしてしまう。 けれど、ハッとして眠りの淵から戻ってくる。 どうしてこんなに神経をすり減らしているかというと、それは寝る体勢にあるわけで。 そろそろ寝ようか、と先にベットに寝転がった千歳くんが片腕を伸ばしてぽんぽんと私を手招きして、 最初は(腕枕だあ)と嬉しくていそいそとそこに向かったのだけれど。 こてんと頭をたくましい腕にのせていると、何だか罪悪感がわいてきて。 小さい頃は両親によくやってもらってて、だから腕枕で眠れない人ではないのだけれど、 私はもう子供じゃないしずっとこのままの姿勢でいたら千歳くんの腕が痺れてしまうんじゃないかと不安になった。 だから、千歳くんが眠ったらちょっと下にずれてから眠ろうと、思ったのだけれど (千歳くん、自分から寝ようって言って布団入ったのに眠る気配が全然無い)。 しばらくした後、私の方が限界がきてほとんど無意識に「ねた?」 と言うとやはり返事は「はいはい」と全然眠たそうでないハキハキとした答えだった。 「何か気になっとう?」 「んん、うでがね、」 「嫌やったと?」 「ちがうよ、痛いんじゃないかって、そっち」 「なんだ、ちっとん気にする事なか」 「んーん、ちとせくんスポーツマンだから、」 「は優しかね」 そんなに気になるなら、と私の下敷きになっていた腕を引き抜いた千歳くんにほっとする。 それから千歳くんは「そんかわり」と言って私の指先を自分の指先で軽く握りこんだ。 (ああ、こっちの方が安心できるかも)と思っていると、親指の腹が手の甲をくすぐってくる。 それがあまりに優しくて、心地よくて「んふふ」とにやにや笑いを溢すとほっぺたにちゅっとキスをされた。 「早く寝んと襲っちゃるけんね」 「うそばっかり」 「本気ばい」 「ちとせくんだって、優しいもん」 (だからいつも安心して眠れるんだ)って笑いながら私は緩やかに眠りについた。 |