(おも、い!)

放課後のホームルームが終了した後、颯爽と部室に赴いて元気よく挨拶した私に返って来た応えは、 「買出し行ってきてー」だった。 人数の少ない部内で唯一のチャリ通が私であり、いつの間にか買出し係という事になっていたのは暗黙の了解。
別に嫌なわけでもなく、「うんわかったー!」 とやはり元気よく返事をしてぐんとチャリを漕いで渡されたリストにそって買出しを済ませる。
大した事じゃない。

けど。
流石にこれは一人でどうこう出来る量じゃない、だろう。

と、買い物籠山盛りの雑貨類を見てげっそりする。そしてまたこれが重い。 何とかチャリ置き場までやってきて、籠につめるだけ荷物を積んで、 乗らなかったものはハンドルに提げた。
その状態で一度自転車を漕いでみたのだけれど、バランスが取り辛くて結局降りて引いて歩く事にした。 荷物の重さと、ただの鉄の塊と化した愛用の自転車がずっしりと重くてだるい。

夕方特有の日差しがじりじりと学校へ向かう私の背中に当たってきて、制服の下にじわりと汗をかいた。
(とりあえず帰ったらみんなに文句言ってやる!) と、罵り文句を頭の中でぐるぐると考えていると向こうから見知った顔が歩いてきた。
(あ)と思ってふと立ち止まると、相手もこちらに気付いて手を振ってきた。

「千歳くん、今日部活無いん?」
「ん〜、まあ」
「何その曖昧さ。どうせまたさぼったんやろー自由やなあ」
「はは。それよりは随分大荷物ったいね〜何ばしちょるとな」
「まあね。部活の買出しやねんけどもう重くて重くて!へばってたとこやねん」
「ふうん。なら手伝っちゃるけん」
「え、」

ずり落ち気味だったテニスバック(毎日ちゃんと背負ってくるのに部活には出ないんだよねえ) をよいしょと担ぎなおした千歳くんは、自転車のハンドルに手をかけてにこにこ笑って私を見た。
どうやら、自分が持つからその手を離しなさい、という事らしい。

「や、ええよ!千歳くん逆戻りやん…って、まあそれはそれでええのかなあ?」
の細か腕見とっと放っておけんとよ」
「いやあ、そりゃ千歳くんに比べればそうだけど…」
「ほら、こっちゃん歩きなっせ」

有無を言わさぬ態度で歩き出した千歳くんはちらりと私を振り返って、 さりげなーく自分が道路側を歩いて私に安全な道を歩かせた。
(なんだか、なあ)
まるっきり女の子扱いされてしまって、ちょっと恥ずかしい気持ちになった。
どちらかと言うと私はいじられキャラ側の人間で、男女関係なく手酷い目に合わせられたりもして (それが嬉しかったりもして)、そういう扱いに慣れきってしまっている私だからなのだろうか。 こんなにドキドキして何だか焦っているというこの状況。

(優しくされるって、気恥ずかしい)

さっきまで私がひいひい言いながら引いていた自転車を涼しい顔で引いて歩く千歳くんの、 高いところにある横顔を覗き込んで(こういうのさらっとやれちゃう人は、もてるんだろうな) (顔も格好いいし背は高いし)と考えた。

「千歳くんは、フェミニストやな。罪深い男や」
「そんなこつなか。は特別もんね」
「そういうところが、っぽいねんな〜」
は俺を誤解しちょっと」

見下ろしてくる千歳くんの瞳が、あまりに優しく切なくて。
それ以上、何も言えなくなった。



なぞるように笑わないで
そんなにうまく作らないで

(あなたに堕ちてしまいそう)