「千歳が部活に来てへん」コートを見渡した白石くんはそう言って 腕を組み、傍に居た私を呼びつけて「探してきてくれ」と頼んだ。 もう、パターン化している事だったので特に驚きも不満も無く、 私はひとつ返事で頷くと校舎を走り回った。
千歳くんは大抵木陰で昼寝をしているので見つけるのは簡単だった。
中庭の一番大きな木下で、大きな身体を丸めて千歳くんは眠っていた。 見慣れた寝顔だったけれど、やっぱり気持ちよさそうな顔をしていて 毎度ほほえましい気分になる。

「千歳くん、白石くん怒ってるよ」

しゃがんでとんとん、と肩を叩きながら声をかけるとのそのそと千歳くんは身体を起こした。 これもいつものパターンだ。
まだ眠そうな顔で、だけど「怒られるのは勘弁ばい」と寝言のようにささやきながら伸びをする。 私はじっとその様子を見ながら千歳くんの覚醒を待つ。

にはいつも悪かね〜」
「ううん、千歳くんの寝顔見ると幸せな気持ちになるからいいよ」
「何ねそれ」

ぼんやりな千歳くんと、ふんわりとした会話。
間延びした千歳くんの喋り方が午後のぽかぽかとした陽気にとてもマッチしていた。 だからだろうか、こんなにあったかい気持ちになるのは。

「朝練もハードだし疲れて眠くなっちゃうよね。私の分の元気、千歳くんに分けてあげられたらいいのに」
「お〜それはよか案ばい」

そう言って千歳くんは太陽みたいに笑って、私をぎゅっと抱きしめてきた。
さっきまで寝転んでいたせいか、草のあおあおしい匂いが鼻を掠めていった。 それから、お日様の匂いもする。まるで干した後の布団に寝転んだ時みたいに、 いい気持ちになって目を閉じた。
私と言えば抱きしめ返すわけでもなく、ただ千歳くんがしたいようにしてくれればいい。 そんな気分で全身の力を抜いていた。 ふと目の前の肩に頬を摺り寄せると思っていたよりやわらかい生地だった。

「シャツってもっと硬くてぱりぱりしてるのかと思ってた」

思っている事を何も考えずにそのまま口に出すと、「んん〜?」という のんびりとした声が聞こえてきた。
もしかしたら二度寝の体制に入ってるんじゃないだろうかと怪しくなるくらい気の抜けた声だった。

「千歳くん、また寝たらダメだよ」
「うん〜」

何だか本当に、千歳くんに元気を吸い取られているような気がする。 ふにゃふにゃとした脱力感が襲ってきて、このまま目を閉じたらとても 気持ちのいい夢の世界へいけそうだなんて考えた。
ふと、そんな気持ちは私以外知らなければいいなんて思って。

「千歳くん、他の子からはこんなふうに元気もらわないでね。 欲しくなったら私に言ってね、いつでも元気あげるから」

なんて口走っていた。
わかっているのかいないのか、千歳くんは「は特別たい」と言って腕の力を少し強めた。

そんな私たちの様子を、日直で部活に遅れていた謙也くんが 偶然見ていて、部内で大騒ぎになったのはもうちょっと後のこと。


コットンの肌触り

(お前ら、いつからそんな仲になっとってん!言えや!びっくりするやんか!)
(そんな仲って、別に私たち何にもないよ)
(嘘言うなや!何も無いのに抱き合うか!)
(友達同士でもハグとかするよ)
(するけど、あれは誰が見ても恋人同士のハグやったわ)
(恋人同士じゃないと抱きしめたらいかんと?)
(いや、まあ…普通は…)
(じゃ、は俺と付き合うしかなか!)
(今告白すんなよ!!)