土曜日、部活も終わりに差し掛かった夕方ほとんど無意識に「お腹すいたなあ」と口にしたら、 近くに居た白石くんが「せやなあ」と私の呟きを拾ってくれた。 折角だから会話を広げてみようかと思って、「今すごくハンバーガー食べたい」と笑ってみたら 「ほな帰りマクドでも寄ろか」と白石くんも笑った。

「ほんと?じゃあみんなも誘ってみる」
「ん。俺も声かけてみるわ」

白石くんが買い食いや寄り道を提案するのは中々珍しい事じゃないかなあと思う。 何せパーフェクトな部長だから、食事のバランスがどうのとか凄く拘ってそうだし。
たこ焼き食べて帰るという金ちゃんをいつも叱っているイメージがあるし (まあそれは多分、金ちゃんが限度を超えた食いしん坊だからかもしれない)。

そんなこんなで、滅多にない機会にわくわくしながら目に付いたメンバーに声をかけてみたのだった。



謙也くんの場合。

「マクド?行く行く」
「ほんと?やったー」
「で、他に誰行くん?」
「まだ白石くんと私だけ」
「え、まじか」
「うん、まじだよ」
「いや俺、やっぱ用事あったん思い出した」
「ええー!今行く行くって言ったじゃん!」
「すまん、また今度な!」


財前くんの場合。

「行ってもええですけど」
「良かった〜、さっき謙也くんに断られてね、」
「は?謙也さんが?」
「うん、メンバーがまだ私と白石くんだけだよって言ったらね、」
「あ、俺今日家族で飯なん忘れてましたわ。ほな」
「ちょ、ちょっと!」


小春くんとユウジくんの場合。

「ええわねえ、お腹すいてたし丁度いいわ」
「小春が行くんやったら俺も行くで」
「ほ、ほんとにほんと?二言ない?」
「なんやちゃん、えらい用心深いわね〜」
「さっき二人に意味不明な断り方をされたからね、心折れてるの」
「ええ、何があったん?」
「メンバーがね、まだ私と白石くんだって言っ
「ごめんね〜〜今日ユウくんと寄るとこあったんや!な〜ユウくん?」
「ほんまか小春!!?やっとデートしてくれる気になったんか!?」

私の声を遮った小春くんはユウジくんと肩を組んで行ってしまった。 ねえ、その反応だと明らかに急に用事作ったよね。
「勘違いすんなや、今日だけや」とドスのきいた小春くんの声と、 ユウジくんが切なく小春くんの名前を呼ぶ声がちょっと遠くから聞こえて、私はがっくりと肩をおとした。

(なんなの、みんな)


結局、誰も捕まえられないまま着替えて校門で白石くんと落ち合った。
彼の周囲にもやはり誰もおらず、「皆アカンて」と困ったように笑った。

白石くんと二人っきりという状況に、変に緊張して妙に意識して出てきた単語をぽんぽん喋り続ける私に、 白石くんはうまい事返事をかえして話を広げてくれた。
微妙な距離を保ってやっとたどり着いたマクドで、 本来食べたかったハンバーガーよりも上手に食べられる(中からあんまりソースが出ない)ハンバーガーをチョイスして。 目の前に座る白石くんを直視する事も出来ずに私は彼の目の前におかれたトレイの中身を見ながら時折自分のポテトをつまみ、 それから白石くんの話を聞いた。

ふと、白石くんが喋るのを止めて。そしたらちょっと間が空いて。
私は何か話題を見つけなきゃと必死にそればかり考えていて、そしたら白石くんが「」とふいに私を呼んだ。 反射的に顔を上げると切ない顔をした白石くんと、目が合った。

「やっと目、合うたな」
「え?」
「すまん。何や俺の我侭で気遣わせてしもたみたい」
「…何が?」
「何でも。今度は皆で来ような」
「うん?」

小さな沈黙が続くと、白石くんがいつもより饒舌に話題を振ってくれていたことに気付く。 (ああ、私も同じ事を考えていたけれど白石くんも緊張していたのかな)、 と自惚れに似たような事を考えて私は小さく笑った。
それから、気を遣わせてしまっているのは私も同じだと思って少しだけ落ち込んで、 「私もごめん」と口にすると白石くんは「別に」と微笑んだ。

「でも白石くんと二人っきりでも、私は楽しいよ」
「ほんま?」
「うん。何か、白石くんの新しい面を知った気がする」
「ほなら良かった」

(だって、彼でも私みたいに臆する事があるんだなあって思ったら)
ちょっとだけ親近感が湧いた。

「なあ、また誘ってええ?」と聞いてくる白石くんに、 (もしかして最初から二人で行こうって意味で誘ってくれたのかな)と淡い期待を抱きながら、 「もちろん」と私は笑った。



続く日々も君とありたい


白石は確信犯です。部員達はよくわかっています。
ヒロイン的には白石を意識しすぎる理由にまだ気付いてない感じ。
お互いこういう気まずいのが抜け切った頃に付き合い始めたらいいよねっていう。