「白石くん」 「ん?」 「寒くないの?」 「別に?」 「そ」 とある冬の日、まあヒーターをつけなくてもそこそこいける位の室内。 「今日汗かいたからシャワー浴びてくる」と白石くんは出て行って、で、帰ってきて。 それから何故かずっと上半身には何も羽織らずタオルだけを首にかけた状態でストレッチをしたりしていた。 正直、見ているこっちの方が何だか寒くなってくる。 本人的にはどうなんだろうかと声をかけた結果が、これである。 「寒いん?暖房つけよか?」 「んーん。私はそんなに寒くないけど、白石くん見てると寒いなあって思っただけ」 「ええ、俺むしろ結構暑いで。が傍におるからかな」 「何それ」 「見られてると思うだけでちょっとアツくなるわ」 「自信家っぽいなあ」 確かに、素肌を晒していても白石くんは見苦しくない。というか暑苦しくない? 本当に無駄のないからだをしていると思う。うん、見本みたいな。 綺麗だし。 (そこが何か、くやしい) 本人もわかって晒しているあたりが、またくやしい。 見られて喜ぶなら、見てやるものかとぷいと視線を逸らすと白石くんが擦り寄ってきた。 ぴと、とくっついてくる彼の身体が、私の服越しでも熱く感じられる。 「…ほんとだ。あつい。人間カイロみたい」 「やろ?ストレッチもしたしな」 「……白石くん」 「なに?」 「若干、あつい」 「それ、誘い文句って思ってもええの?」 (そんなつもり毛頭なかった、ただ本当にちょっとあつかっただけだった!) 耳元で吐息たっぷりにそんな風にくすくす笑われて、私は急に恥ずかしくなる。 ぐいっと白石くんを押しやって、「ちがう!」と叫ぶ。 「かーわええ」と後ろから抱きすくめられて、今度は本当にちょっとあつくなる。 「蔵ノ介くん、」 彼を名前で呼ぶ時は、甘えたい時。 『白石くん』と言う呼び方が定着しすぎて、恋人同士になった後も私は中々彼の事を名前で呼べなかった。 何だか呼び辛い語幹だし、おこがましい感じがするし。 白石くんは「名前で呼んでや」と何度か私に言ったけれど、中々言えない私に強要まではしなかった。 まあそのうち、本当に自然に名前で呼ぶ日がくればいいからと。 それがいつからか、熱に翻弄されて浮かれるように情事の最中彼の事を自然に名前で呼ぶようになった。 多分、「名前で呼んで」と囁かれて何も考えずに言われた通り口にした事から始まったのだと思う。 それ以来、何だかますます普通でいる時「蔵ノ介くん」と呼ぶのが恥ずかしくなってしまって。 でも彼は、その事が嬉しいようだった。 (二人だけの時が特別に絡まってるみたいでいい)とか、 (条件反射の餌付けにはとてもいい)のだとか。 よくわからないけれど、彼的には『イイ』らしい。 「待ってたわ」 そう言って彼は耳の後ろで小さく笑って私の首筋に唇をおとした。 |