チリンと言う鈴の音で目が覚めた。 反射的に部屋の扉を見ると音の持ち主が通れる位の隙間が出来ていた。 (ああ、白石くんかな)扉を閉める音で私を起こさないためにわざと少しあけておいたのかもしれない。 しかしそれは昨日閉め出してしまったとある居候を招き入れる事になった。 (にゃあ〜) 我が物顔でそいつはベットに登ってきた。 すんすんと鼻を私の顔に近づけてくる。 くすぐったくて小さく笑うと背中に寄り添っていた白石くんが「ん〜?」と眠そうな声を漏らした (それから私の首筋に唇を寄せる)(彼もまた、猫みたい)。 「ごめん、起こした?」 「ええよ」 チリン、ともう一度鈴が鳴る。 この音の持ち主はたまに白石くんのアパートにやってくるどこかのお家の飼い猫だ。 毛並みがいいし人慣れしてるし、元から鈴付の首輪をしていたらしい。 部屋の前まで着いてきたので家にあげてご飯をあげたりするうちに、 この猫のもうひとつの家(または隠れ家)のような存在になってしまったらしい。 この子がいる間は窓を開けていつでもこの子が本当の家に帰れるようにしているらしいけれど、 今回は昨日のうちに帰らなかったようだ(それかまた戻ってきたのか)。 (さびしかったのかな?) 昨日の夜から、私が白石くんを独り占めしてしまったから。 「おなかすいた?」 「んん?減ってへん、…いや、減った。朝ごはんはがええなあ」 「白石くんに聞いたんじゃないよ」 「何や、つれないなあ」 (ナァ〜)と返事をするように鳴く声に、「じゃあカリカリ食べようか〜」 とご飯をあげようと体を起こすと、白石くんも起き上がった。 「ええよ、俺やる。ついでに朝飯作るし」 「いいよ、私もカリカリあげたい」 「何やはたまお君にばっかり甘いよなあ。足腰立たんくなるまで苛めたれば良かった」 「何なら、今からでも」と言ってライトキスしてくる白石くんに「たまおくんがつぶれちゃうよ」と笑う。 (ちなみにたまおくんとは、猫の名前だ。女の子だけど、強そうな顔だからたまおくん) 結局二人でベットを降りて各々散らばった服を羽織って部屋を出る。 後に出た私の後ろを、たまおくんが鈴を鳴らしながらついてきた(頭のいい子だ)。 「たまおくーん、お座り、お手〜」 「、たまおくんは犬ちゃうで」 「覚えるかもしれないよ?」 たまおくんのために白石くんが買ってきていたカリカリを、ざらざらとお皿にあけてたまおくんの前にちらつかせる。 躾れば芸達者になるかも、と声をかけてみるけれど確かにたまおくんはもう朝ごはんののったカリカリしか目に入っていないようだった。 しばらく「お手、お手」と声をかけていた私もつぶらな瞳にいたたまれなくなり、たまおくんの前に皿を差し出した。 おいしそうにカリカリに顔を突っ込むたまおくんに顔がにやける。 「ん〜、エクスタシー」 「何や急に」 「たまおくんが可愛くてつい」 「バカにしてへんか俺のこと」 「してないよ、ぜんぜん」 キッチンからトマトとレタスを飾ったスクランブルエッグのお皿をテーブルに持ってくる白石くんは、 少し拗ねているようだった。 「手伝う?」 「いらん、座っとき」 「怒った?」 「ちょっと」 「ごめん、でもほんとにバカにしたんじゃなくて」 「そっちちゃう、たまおくんに嫉妬」 「ええー、女の子を部屋に連れ込んでるのは白石くんの方なのに」 「ぐ、って、たまおくん女の子ちゃう、メスやメス」 「屁理屈」 ロールパンとホットコーヒーを持って、白石くんも席につく。 ちらりと机の横を見ると、カリカリをあらかた食べ終えたたまおくんがうろうろと部屋を歩き回り始めた。 「」 「ん?」 「チュウ」 「何?」 「躾や」 「ええ、私も白石くんのペットなの?」 目の前のフォークを手に取ろうとすると、その手をやんわりと止められる。 どうやらキスをするまでご飯はお預けですという事らしい。 「ペットちゃう、恋人やろ?」 「恋人の躾?」 「せや、ほら」 「なんだかなあ」 唇を突き出してくる恋人に、笑いながら軽くキスをする。 遠くでたまおくんが「にゃあ」と鳴いた(ごめんね、彼は私の恋人なの)。 大学生の朝とかね。白石は何でかこっち方向の話を書きたくなってしまう。 白石との朝は凄く想像していて楽しいからかなあ。 書きたかったのは、朝ごはんを作る白石に「手伝おうか?」っていうヒロインと、 「ええからのんびり座っとき」って言う白石だったんだけど 白石は実家で猫を飼ってたなあっていう猫ネタがまざっちゃってこうなりました。 |