姉さんが急に、コンビニにパンを買いに行くと言い出した。
すかさず母が「こんな遅くに?」と突っ込むと「車で行くから大丈夫や」となぜか自信たっぷりに彼女はそう言った。 テレビの近くのボックスから車のキーを引っ掴んでいきり立つ姉を見て母が「蔵ノ介、ついてってやんなさい」と諦めたように言った。
(はあ)どこかで事故られて帰らぬ人になられるよりは、テレビを諦めてついて行った方が確かにいいか。
ちらりと横で夕食後のプリンを食べていた妹を見ると、「やだよ、アタシ死にたないもん」と素っ気なく言う。 そして縁起の悪い事に俺に向かって合掌した。勝手に殺すな。

姉は免許を取って1年、それなりに運転してきた。幸い無事故無違反だが、ものすごくハラハラする運転をする (免許を持っていない自分がかわりに運転してやった方がいいんじゃないかと思うほど)。
だから大抵彼女が出かける時は不注意が起きないように誰かが隣に乗ってやる。
彼女は「大丈夫やのに」と笑うけれど、正直どのへんが大丈夫なのかさっぱりわからない。


車に乗り込んで「ようしシートベルトしめてな〜行くで〜!」と彼女が意気込む。
けれど俺は深い溜息をついた。

「おい、サイドブレーキ上げたまんまやで」
「あっ、ほんまやー!」
「こないだもやっとったやないかい!学習せえ!」
「いやあ、つい」

その、ついが重なって事故を起こすんだろうが。
どうも姉は楽天家だ。


ハラハラしつつもコンビニにたどり着いてほっとしたのもつかの間、お目当てのパンが売り切れていると彼女は嘆き悲しんだ。 まあ、深夜のコンビニで品揃えがよかったらそれはそれで大丈夫なのかと思うけれど。 「次のコンビニ行くでー!」と言う言葉に耳を疑いたくなる。

「よし、はっしーん!」
「ライトつけえや!」

「うわあ、ちょっとまって信号、いや、行ける!」
「アホ!完璧赤やアウトやったやろ!」

(意図的にボケているんだろうか)と疑いたくなる。
ここにもない、ない、とコンビニを数件回った頃にはくたくたになっていた。
何故、運転しない自分がこんなにも疲れていなければならないんだろうと涙が出る思いだ。 隣の姉は「ごめんねえ蔵、アイスでも買ったるから」と、表情は笑顔だ。


結局、お目当ての物をゲットできずに最初のコンビニに戻って彼女はチョコレートがけのパンを一つと、 俺の選んだハーゲンダッツをレジに持って行った(チョコパンなんかいっぱいあったやんか)。

店を出た後、駐車場で空を見上げた姉が「今日は星がよう見えるなあ」とつぶやいた。

「なんやごめんね、いっつも蔵には迷惑かけて」
「別に、姉弟やんか」
「へへ、蔵もてそうやなあ」
「まあな」
「うわ、もて男の余裕や、女の敵」
「どっちやねん」

しばらく二人で空を仰ぎながらそんな会話を楽しんだ。
(どうしようもない姉だって、可愛げの無い妹だって居なくなったらとても悲しい)

「あー結構楽しかった。蔵、ありがとうな」

姉はそう言って運転席の方に歩いて行って、俺はちょっと感動しながらそのセリフを噛み締めた。
すると、急にしゃがみ込んだ姉が「あっ、5円見っけた!御縁があるなあ」とわけのわからない事を言うので俺はまたあきれ顔になった。


ほんま勘弁してや自分