白石くんがもてるのはわかってた。 彼が私を選んでくれたのは嬉しかった。 けれど、選ばれなかった白石くんの事が大好きでしょうがない子たちの 事を考えると、私はどうしようもなく憂鬱だった。
そう、こんな日は特に。

「白石、また呼ばれてんで。今度は2年生の子みたいや」

クラスメートの一人が、白石くんに声をかけたのが聞こえた。 登校のときからその呼び出しは始まり、授業合間の休みまでひっきりなしに呼び出されている。
今日はバレンタインデーで、女の子にとって特別な日で。 いつもより倍くらい勇気の出る日でもある。
その気持ちが、痛いほどわかって。 顔にこそ出さなかったけど、うんざりしているように白石くんが小さくためいきを ついたのを私は見逃さなかった。
教室の入り口でもじもじと小さな包みを抱えて待つ女の子の姿と、 ゆっくりと歩いていく白石くんの姿を見て私は心が痛んだ。
「ごめん、受け取れへん」と言う声が聞こえて私は耳を塞ぎたい気分になった。 白石くんがあなたの気持ちを受け取れないのは私のせいなの、 と自惚れにも近い自覚をおぼえて私は泣きたくなる。
誰にとってもこの日は特別な日なのに。
今朝のあの子も、さっきのあの子も、これから来るだろう女の子も。 彼女たちのプレゼントを、白石くんは受け取らないだろう。 そうやって私にあてつけてきているのだ、彼は。
(まるで、脅迫されてるみたい)

放課後までそれが続いたけれど、 さすがに私が隣で並んで歩いて帰る時には声をかけてくる子はもういなかった。

「さて、、ええ加減出してもええやろ」

「観念しろ」と言われているようだった。
私は今日一日彼と目を合わせず、彼もそんな私に気付いてか意図を持って 私に近づかないようにしているようだった。 それが彼の意地なのかはわからないが、怒っているようでもあった。

「…あげない」
「何やのそれ」
「何で受け取ってあげなかったの」
「受け取っても気持ち返せへんから」
「受け取ってもらえなかったチョコ、どうなるか考えた事ある?」
「…俺の気持ちはどうでもええって事?」
「………………」
、残酷やな」
「白石くんも、残酷だよ…」

わかっている、私はわがままだ。
白石くんが受け取っているのを見てもきっと悲しいし、受け取っていなくても悲しいのだ。 もし、受け取ってもらえないのが自分だったら。 そう考えてかってに悲しくなって。
彼が彼女たちのチョコを受け取らなかったのは 白石くんの、私への確かな愛情だって事を自分から否定している。

ふと白石くんは立ち止まって、冷たい顔で私を見た。
その顔が少し怖くて、私も立ち止まった。

「あの子達が俺の事選んでくれたんと同じで、俺はを選んだ。それだけや」

(それだけ、だから怖いのだと)(どうして伝わらないのだろう)
私はそっと、中身が崩れないように鞄から小さな包みを取り出して、 白石くんに向かって突き出した。
愛とか恋とか、そういう感情よりも大きくそれに込められてしまったのは、罪悪感というものだった。
(何て嫌な女)

「なあ、ごめんな、、泣かんといて」

やさしい手が、私の頭を撫でて。
いつもだったら嬉しいのに、今はその手を振り払いたくて仕方なかった。


一生離したらへんからな、
覚悟せぇよ