「このぐらいの時間になるとね、空が虎次郎君の色になるんだよ。」
「何それ?」

放課後、のんびりと屋上で部活動をする後輩たちを眺めていた。
吹いてくる風が少し冷たくて、吐く息もちょっと白い。テニスボールの跳ねる音や、野球のボールがバットに当たった、 すかっとした音なんかが心地よく耳に響いてくる。何となくいい雰囲気に包まれてにキスを強請ると、彼女もそんな雰囲気に飲み込まれていたのか素直に腕の中に落ち着いた。
触れるだけの短いフレンチキスを繰り返している中で、彼女はふと空を見上げておかしな事を口にした。

「陽が、沈みそうで沈みたくなくてもどかしい感じ」
「ふうん」
「空を真っ赤に染めて、悲しくてさびしくてどうしようもないみたいな」

彼女につられて空を見上げると、なるほど確かに真っ赤に染まった空は物悲しくてなんだか切ない気持ちになった。
でもどうしてそれが俺なのだろうか。

「俺ってそんなに寂しい感じする?」
「するよ。虎次郎君はいつも満たされてなくて、つまんなそうにしてる」
「嘘だー。俺、といると幸せに満ち溢れてるもん」

まだ空を仰ぐの頭をそっと包んで自分の胸に押し付けた。
ぎゅっと少し力強く抱きしめると、小さな肩が少し震えて、ためらうように背中に腕を回してきた。

満ち溢れている、確かにそれは嘘かもしれない。
けれど俺のささやかな幸せは、がいなくては成り立たない。
世界はつまらないことで溢れている。空腹の俺を満たすものなんてどこにもない。

「鼓動は嘘、つかないんだよ」

寂しそうにつぶやかれたその声は、ふるえているようだった。
泣いているのかな、そう思って背中を撫でると彼女の腕の力が強まった気がした。

…もっと俺を縛って…。の事だけ考えて生きていけるくらいに」


この空はあなたの心のように、
泣いているのです

闇に染まっても、あなたが光となりますよう