(目に見えないけれど、カラフルなものもある。 彩られた世界は美しい日々を構築している)




「暑いねえ」
「そりゃ、夏だからね」
「若干、長太郎くんのせいで地球温暖化が進んでる気がするよねえ」
「ええーひどいなあ」

ぱたぱたと、手をうちわ代わりに動かしながら干上がってしまいそうな茹だる暑さの中を並んで歩く通学路。 この道は、長太郎くんの家へと続いている。
育ちがいいからか性格からか、この暑さの中でも長太郎くんはシャツのボタンを全部しめて、 背筋をピンと伸ばしてしゃきしゃき歩く。
(なんだかそれが、逆に暑苦しい)というか、正しい着こなしが既に暑苦しいと思ったりする。

「うちについたら涼しくなるよ」
「長太郎くんちはクーラーが寒いくらいだよね」
が暑がるから」
「…地球温暖化の問題を私に擦り付ける気?」

長太郎くんはくすくす笑った。
いつもこんな感じだけれど、彼はどこか一歩大人なところがあると思う。 単に鈍いだけなのか、おおらかなだけなのか。
(悔しいけれどそんな彼の全部が好きだ)

「カキ氷でも食べる?」
「あ、いいね」
「何味がいい?レモンにいちごにメロンにブルーハワイ、ピーチ、マスカット、 あ、宇治金時もいいなあ。抹茶食べたい」
「渋いね」
「そう?うまいよ」
「おいしいけどさ」
「うん」

あの色とりどりのシロップを、氷にかける瞬間を想像してみる。
ひんやりとした感覚が背筋をのぼった。
まっ白で、それでいて少し透明がかったその山に、とろりと密を滴らせるとじわじわと溶けて行く氷。
(あの瞬間がたまらない)

「でも、色がいっぱいあると迷っちゃうよね」
「普通、味で選ばない?」
「それもあるけど、だってシロップって綺麗だし?」
「芸術家肌だなあ」

(そんな基準で選ぶ人もいるんだなあ)と私は感心する。
長太郎くんはたまに、発想が独特だ。

は今日は何色の気分?」
「うーん、黄色かなあ?」
「レモンだ」
「長太郎くんは?」
「ん〜ピンクかな」
「じゃあピーチだね」

あれ、でもさっき抹茶食べたいとか言ってなかった?
なんて笑いながら横を向くと、唇に人差し指が、あたった。

「いちごだよ。氷にいちごシロップかけるとピンクっぽくなるでしょ?」
「ええそうかなあ」
「桃って元々色が薄いから、氷と交わるとほとんどわかんないよ。でも氷と交わったいちごは、のここの色に近い」


一瞬、太陽が見えなくなって、
あんなにうるさかった蝉の声すら聞こえなくなった。

ただ、唇にあたるやわらかな感触だけが、鮮明に彩られる。



再び光が目に飛び込んできたとき、私は思わずあたりを見渡して人影を確認した。


極めて紳士的な暴力であった


(ちょっと、ここは道端ですよ!)