授業の合間の10分間、する事もしたい事もなく暇を持て余していると女子達の楽しそうなおしゃべり声が聞こえてきて、 その中に一つ神経を擽る声色を探し当て無意識にそちらを振り返った。
自然と目で追ってしまうのは、何がそんなに楽しいのか満面の笑みを浮かべながら一生懸命喋るで、 ふいにこっちを向かないだろうかなんて考えながら俺は頬杖をついた。

その時丁度ポケットで携帯が震えて、誰だろうか、まあ誰でもいい、 この退屈な時間を埋めてくれないだろうかと期待してメールボックスを開くとそれはダイレクトメールで、 一気に萎えた気持ちで削除する。
ワックスのついた髪の毛先を左手で弄りながら再び視線をへと運ぶ。
右手では携帯を持て余したままで、それが悪かったのかふとカメラを起動させてさりげなくレンズを彼女へと向けた。 誰にも気付かれないように、あたかもメールに集中していますという風を装って、 心の中ではこの教室のやかましさならばシャッター音に気付く奴はいないだろう、と心臓をばくばくさせながら。


ディスプレイに浮かび上がる平面の彼女を見ながら、一番いい角度を探る。
(あ、今や)と小さなボタンを押す。


その瞬間、「謙也」と声を掛けられて一瞬にして吹き出る嫌な汗。 動揺した俺の手は盛大にブレて確認するまでもなく狙いを定めていた彼女はフレームアウトした。


「なっ、何や白石!」


自分でも、『動揺しています』と顔に書いて貼り付けたような表情をしていたと思う。 そわそわと携帯を持った手をふらつかせながら、キョロキョロと視線を定められずにいる。
机の隣に立った白石の視線が俺に突き刺さってくるのを感じて耐え切れず俺は顔を両手で覆った。

「自分、わかりやすいなあ」
「何がやねん!」
「いや、すまん。可哀相になってきてもうた」
「は、はあ?」
「ちょお、携帯貸しや」
「あっ、おい白石!」

それはあっという間の出来事で、俺の手の中で窮屈そうにしていた携帯を白石は取り上げ、 何をする気かと白石を目で追うと、あろう事かに声を掛け彼女と話していた友人達の一角を撮影した。
満足そうな笑みをたたえて戻ってきた白石の手には、自然な笑顔のが一人で写っていて、 友人のずる賢さや察しのよさに泣きたくなる。

「隠し撮りはアカンて」
「いや、俺は別に」
「最初から全部見とったわ」
「…いっそ詰ってくれ…」
「そのつもりで茶化したろ思たら反応がピュアすぎて萎えた」

「無意識の行動に一番欲が現れるんやで」と言って去っていく白石を恨めしい目で追いながら、 (後であの女子グループから写メ見せろ言われたらどう言い訳すればええねん)と、 彼女一人が微笑むディスプレイを見ながら項垂れた。


a burn named the love


多分誰もがこういう経験一回はあるんじゃないかなと思いつつ、うまくやれないのが謙也だと思う。
謙也はやらしく見えないから、きっと「撮らしてやー」って声かければ皆「ええで〜」って言うと思うけど、
謙也自身、自分の中でヨコシマと思ったら素直に行動出来ないタイプなんじゃないかな、と。