『一足早い、冬本番の寒さの一日となるでしょう』 お天気お姉さんが言った通り手足がかじかむ寒さだった、それでも相変わらず体育の授業は元気にグラウンドで行われる。 まったく手足を出したクラスメイト達を見ているだけで寒くなる。
という私はきちんと長袖ジャージを羽織って隅っこの方で見学だ (女の子の二日目の日で、元気に走り回る気になれなかった)。

私の隣にはもう一人本日の体育見学者が居て、それはクラスメイトの財前くんだ。 彼も同じく長袖ジャージで、チャックを首もとまでしっかりとしめる徹底振り (指先すらも引っ込めている)。


「財前くんはどっか悪いん?」

ただ授業を眺めているだけのこの時間はとても暇なので、コミュニケーションをはかってみる。 すると財前くんは「別に」とそっけない返事をした。

「えーまさかサボりなん」
「寒くてやってられへん」
「あー、低体温ぽいよなあ財前くん。冷え性っぽいし」
こそどこも悪そうやないな」

ツンとした言葉に、まさか『女の子の日やねん』と言うわけにもいかず曖昧に笑うと、 「まあお互い様やん」と財前くんがフォローしてきた。 (いや、私別に真っ向からサボりって訳ちゃうねんけどな)と思いながら適当に返事しておいた。

尻すぼみに終了した会話に、沈黙が訪れてなんとなく気まずくなる。
何か話す事ないかなあと考えながら、ふと目に入った財前くんの外履きの紐をするりとほどいた。 女の子同士ではよくやる暇つぶしの遊びだったのだけれど、 財前くんは無意味なそれに腹が立ったのか少し低い声で「何すんねん」と言った。
「ごめん」と私が発する間に、財前くんはきちっと素早く紐を結びなおす。
その手つきを見ていてふと思う(あ、器用)。

「財前くんリボン結びきれいやなあ」
「はあ?」
「私、縦結びになんねんな」

「ほら」と言いながら自分の紐をほどいて結びなおしてみせると歪なそれが瞬時に出来上がる。 こつんと財前くんの外履きに自分の外履きをくっつけて主張すると、 綺麗なリボン結びの隣で私のそれが醜く見えた。

「よう性格出とるんちゃう」
「うわ、ぐさっときた」

仕返し、とばかりにもう一度財前くんの外履きの紐をぐいと引っ張る。 やはり結び目が綺麗だとほどける時もすっと心地よい。

したり顔でふっと鼻で笑うと、財前くんが無言で私の両足の紐を引っ張った。
涼しい顔して「倍返し」と言うので、外面のクールぶりと内側の幼さのギャップに不覚にも私はときめいた。


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